第10話_謎のテント

俺達はまた大通りに戻って歩いている。

フーとソラもはぐれずに俺の周りをフヨフヨ飛んでいる。

マッシモは俺の持っていた商品を見て、次は指輪を返すと決めたらしい。

そういえば、ここのおばさんは女狐とか言って周りから顰蹙ひんしゅくを買っていたな。


「マッシモ、この指輪を押し付けたおばさんが『女狐』と言っていたんだが、それは一体どういう意味なんだ?」


「ほう、ここのババアがそんな事言ってたのか」


ろくでもねぇなとボソッと言うのが聞こえた気がした。


「いいか、この街は妖狐ようこさんというお方が取りまとめをしてくださっている。

俺達が安心安全に商いできるのはこの方のおかげだ。

何よりも職人としての腕も相当だ。

いつか機会があればシルバーフォックスという妖狐さんがやっている店に行ってみるといいさ。

最高の一品を拝めるだろうよ。

買えるかどうかは別だがな!

がははは!」


どうやら指輪のおばさんは、妖狐さんという街の統治者を揶揄やゆしたせいでにらまれてたようだ。

にしても、妖狐さんはこの街の人たちに随分ずいぶんと信頼されているんだな。


マッシモは大層怒り心頭だったようで、このおばさんの店では不愛想に指輪を叩きつけるように返品した。

その後はいつものニコニコなマッシモに戻ったのだが、妖狐さんについては気を付けなくてはと思った。


次の帽子屋では相手は二つの光を見て引いていたものの順調に返品でき、残るはあの鼻持ちならないマント野郎の店のみとなった。


「ボンジュール!ごきげんよう!

ミーの店に入るとは貴方はお目が高い!」


ペラペラと喋っていた野郎だったが、二つの光を連れた俺と目が合うとしゃべり途中のまぬけな顔のまま固まった。


「マントを返品しに来た」


俺がそう伝えるが、反応が返ってこない。

固まったままだ。


「おい、聞こえてるか?

マントを返しに来た」


野郎は顔が見る見るうちに青ざめておびえた表情になり、か細い声で俺に伝える。


「あ、はい。

あ、いえ、もうそちらは結構ですので、お持ちください」


あの鼻持ちならない感じが消えている!

というか、お前誰だ。

あの調子に乗った奴はどこにいった。

俺におびえすぎだろ。


マッシモは隅で笑いをこらえられず、体を震わせて笑っている。


「いいのか?

でもタダでもらうっていうのも」


俺がそう話しかけたが、野郎はまた固まってしまい反応がなかった。

俺はコミュニケーションを取るのをあきらめ、マントを返さずに店を出てきてしまった。


「がははは! 面白かったなぁ!

あいつがあんな風に怖がってるのは、初めて見たぞ!

ユージン、すごいな!

がははは!」


たぶんすごいのは、俺じゃなくて『金の池に住まう怪人』の噂だろう。

あの様子だと噂にも尾ひれが付いていそうな感じだったが、まぁいい。

しかし、このマントはどうしようか。

そう思ってマントを見つめているとマッシモがとある提案をしてきた。


「そのマントを持て余してるんなら、俺が別の物に作り替えてやろうか?」


「いいのか?

いくら払えばいい?」


「いや、いらない!

材料はここにあるからな。

サービスだ。

それより何か必要な時は、我がマッシモ商会をよろしく頼むよ!」


「当然だ!

ここまで世話になったんだから、懇意こんいにさせてもらうよ!」


「なぁに、いいってことよ!

じゃ、マントは俺が預かろう」


マントをマッシモに渡そうとした時に、俺はマントの間に何かが挟まっているのを見つけた。

手に収まるほどの小さなピラミッド型の何かだ。

質感は布っぽい。

一体何だ?


俺が持っているそれをマッシモが横から覗き見る。


「ユージン、これも押し付けられたのか?」


「今まで気付かなかったが、たぶんそうだと思う」


俺の返事を聞いたマッシモは、ため息をついて呆れた顔をする。

どうしたのだろうか?


「マッシモ、大丈夫か?」


「あぁ、すまねぇ。

大丈夫だ」


「これは一体何なんだ?

何かまずい物なのか?」


「いやいや!

品としては素晴らしい物だ!

ちょっと見てろ!」


マッシモは周りに人がいないことを確認して、その小さなピラミッドを地面に投げつける。


ボンッ!!


大きな音がしたかと思えば、先程のピラミッドは一人用のテントになっていた。


「大きな音が出るのは改善点だな」


などとマッシモはぶつぶつ言っていたが、俺はミニチュアが一瞬にして原寸大になってひどく驚いた。


「これはすごいな!

これも魔具ってやつなのか!」


俺は興奮気味に感想を述べ、テントをまじまじと見る。

これ、源泉の広場で使いたいな。


「そうだ!

なかなか良い品だな。

しかし売り方がいかん!

これは説教だな!」


おや、なんだか雲行きが怪しい……。


テントはマッシモが触れると、ややあって元のミニチュアサイズに戻った。

マッシモはそれを持って早足で目的地へと向かって行く。

俺と二つの光は、ただただ彼を追いかけて行くしかなかった。


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