第8話_マッシモと街歩き 前編

歩きながらマッシモはこの街について教えてくれた。


「ここは職人の街トリコだ。

要は魔具まぐを作って売ってるってわけだ!」


「魔具って一体何なんだ?」


俺が押し売り遭遇した時に聞いた言葉をマッシモにぶつける。

するとマッシモは、しまった! と頭を手でおおった。


「すまねぇ! 俺としたことがうっかりだ!

来たばかりじゃ何も分からねぇよな!

魔具っつーのは、魔法道具の略だ」


「魔法道具?」


「魔具ってぇのは、簡単に言えば魔力の宿った物だな」


マッシモが当然のように『魔力』という言葉を使う。

俺には聞き馴染みのない単語だったので、尋ねる。


「魔力ってなんだ?」


マッシモは目が点になるが、冗談と受け取ったのか破顔はがんして笑う。


「がははは!

金の池に引きこもり過ぎて忘れちまったか?」


「え、いや、そうじゃなくて」


マッシモは俺の否定を真剣に捉えてくれず、魔法道具の説明を続けた。


「んで魔具だが、職人たちは自分が作った物に魔力で色んな機能を乗せるんだ。

乗せる機能がすごけりゃ魔力もたくさん必要になる。

ただな、物の良し悪しでどれくらいの魔力が乗せられるかが決まる。

そこが魔具職人の腕の見せ所だな!

この街にはそんな奴が集まってる!」


魔力については分からず仕舞いだったが、この街が魔具職人の街ということが分かった。

俺が両手に抱えている品も職人が作った魔具なわけだ。

だが押し売りはいただけない。


「昔はほとんどが職人だったらしいが、今は職人だけじゃなくて冒険者やら商人なんかも住んでるな。

ま! その辺の歴史が知りたいんなら、ここを頼るといいぞ!」


マッシモの解説で到着したのは、本屋だった。

ガラス張りになっており、外から見えるように一押しの書籍がずらりと並べられている。

だが、決して趣味が悪いわけではない。

モスグリーンを基調とした落ち着いた雰囲気で、このような状況でなければゆっくり見たいと思えるような本屋だった。


「じゃ、返しに行くか!」


マッシモは躊躇ちゅうちょなくズカズカと店に入っていった。

俺もそれに続き入店した。


中は所狭ところせましと本が並べられていたが、天窓があるため室内は意外に明るい。

俺達が中へ入ると、木の床がギシギシいう。

その音で気付いたのか、奥で作業していた店主がこちらに振り向く。

本を押し付けてきたあの猫の格好をした人だ。

いらっしゃいませと言おうとしたのだろうが、客が俺だと分かるとその言葉は途切れてしまった。

すかさずマッシモが声をかける。


「お、ウィリアム!

久しぶりだな!」


マッシモに気付いたウィリアムと呼ばれた背が高い猫は、マッシモを見ると強張こわばっていた顔を少し緩め挨拶した。


「あ、あぁ、マッシモ、久しいな。

元気にしていたかい?」


この人、案外紳士的だな。

押し売りするような人間には見えないが、裏と表が激しいタイプ?

というか、どっちが表なのだろうか……。


俺がウィリアムのギャップに驚いている間にも話は進む。


「おうよ! たりめぇだ! がははは!

ところでだ、今日はこいつに押し付けた本を返品しに来たぜ!」


オブラートに包むことなど一切せずに、マッシモは用件をストレートに伝える。

ウィリアムは申し訳なさそうに俺に近づく。


「あの時はすまなかったね。

あれは、何とか新たな顧客を得たい気持ちが行き過ぎた結果なんだ。

すまなかったと思っているよ」


ウィリアムは頭を下げ俺に謝っている。

これはきっと本心だろう。

真摯な姿勢は俺の心を動かした。


「頭を上げてください。

俺はもう怒ってないです。

仲直りしましょう」


許してもらえて安心したのか、彼は頭を上げて嬉しそうに目を細める。

猫の顔だから、なんだか可愛く見える。


「私はウィリアムと言います。

これからどうかよろしくお願いしますね。

あなたのお名前は?」


「俺は青柳雄仁あおやぎゆうじんです」


ウィリアムは首をかしげ、名前を小さく繰り返している。

どうやら分かりにくい名前だったようだ。


「えっと、ユージンって呼んでください。

これからよろしくお願いします」


ウィリアムは猫のしっぽをピンと立て、嬉しそうに手を握る。


「ユージン、よろしくお願いします。

何か調べものをしたい時には是非当店にご協力させてくださいね」


こういう最後に宣伝してくるところが商売人だ。

でも俺は素直にそうさせてもらおうと思った。

そんなやり取りを少し離れた所でマッシモはニッコリして静かに見守っていた。

最後に俺達は本を返し、店を後にした。


しかし、猫の姿って生きていた時も猫だったのか?

まさかなぁ~。


「おーい、ユージン、次行くぞー!」


「マッシモ、今行く!」


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