第7話_街へ再び

翌朝。

俺は会社や学校に行きたくないという気持ちを思い出しながら、持って行く商品を整理した。

両手で返品する品々を抱え、草木を押しやりながらまずは金の池へ向かう。

茂みから歩道に出て、俺は金の池の出入り口を目指して歩く。

出入り口に着き、不意に疑問が浮かぶ。

そういえば、ソラとフーは金の池を離れることができるのだろうか?


「ソラ、フー、今日は金の池を離れて街に行くが、どうする?

ここに残って帰りを待っていてもいいぞ」


俺の問いかけを無視して、二つの光は我先にと金の池を出て街を目指す。

余計な心配だったようだ。

俺は置いて行かれないように駆け足で追いかける。


小道の坂を下りきると、あの大通りだ。

ゴクリと唾を飲み込む。

勇気を振り絞って大通りに足を一歩踏み出す。


大通りにはあの時と同じように多くの人が行き交っている。

街ゆく人々が俺の存在に気付くと、一斉にこちらを向いた。

またなのか!

俺は天を仰ぎ見る。

やはり街に出てきたのは失敗だった。


だが、今度は誰にも囲まれない。

むしろ遠くから冷ややかな目で見られる。

俺が見返すと、パッと目を背けられるほどだ。

それに俺が登場したことで街が騒がしくなっている。


「あの怪人が……!?」

「おい、日中は金の池にいるんじゃないのか?」

「本当に光を引き連れている」


といった言葉が聞こえる。


とにかく、また囲まれて痛い目に合わずに済んだようだ。

よかったと安堵して返す品々の店を誰かに尋ねようと、人がいる方に歩み寄った。

すると俺を遠巻きに見ていた人たちが、サーッと散り散りにどこかへ行ってしまった。


おかしいな。


今度は別の所にいた武器を持つ人にこわごわ声をかける。


「すいません、ちょっとお聞きしたいのですが」


声をかけられた人物は、ビクッと驚いて逃げてしまった。


おかしい。

何かがおかしい。

俺、何かしたか?


両手いっぱいに荷物を抱えて悩んでいる俺に、見知った顔がニコニコしながら近寄ってくる。


「よお! 久しぶりだな! 俺だよ! マッシモ商会のマッシモだ!

冒険者に絡まれてたところを助けただろ?

あんた有名人だな!

何だったか、金の池に住まう怪人だったか?

がはははは!」


金の池に住まう怪人……?

俺の事か?

事情が吞み込めずぼんやりしていると、マッシモが事態を紐解いてくれた。


「ははーん、その顔は知らなかったんだな?

あんたはちまたじゃ金の池に住まう怪人って呼ばれてるんだよ。

ほら、ずっと池にいて光を連れてるだろ?

たぶんそのせいだ。

ま、気にするこたぁねぇさ!

人の噂なんてそのうち消えちまうからな」


そう言うと俺の背中をバシバシと叩いた。

痛い。

だが、周りの人と違って噂を恐れず俺に話しかけてくれて嬉しい。


「ありがとう。

ところで、これから押し売りされた商品を返しに行くんだ。

この商品が売られている店を教えてくれないか?」


「おお、そうかそうか!

じゃあ、一緒に行ってやるよ!」


というわけで、返却にマッシモが付き合ってくれることになった。


しかし俺を怪人扱いするとは、この街の人間は信用できない。

ちょっと池を一生懸命見て、金の池源泉に住んでいるだけじゃないか。

あれ……それが悪いのか?


考え事をしている俺にマッシモが質問を投げかける。


「そういや怪人さん、あんたの名前は何て言うんだ?」


マッシモに問われて、初めて自分が自己紹介をしていないことに気が付いた。


「俺は青柳雄仁あおやぎゆうじんだ。

まだこの世界に来て数ヶ月なんだ。

生きていた時は」


俺が生前の話をしようとした時、マッシモはそれを素早く止める。


「この界層では生前について話すのはタブーなんだ。

複雑な事情があった奴もいるからな。

とにかく、ユージンよろしくな!

でだ、その商品返しに行くか!」


「あぁ、よろしく頼むよ!

立地が分からないから、返却する順番は任せてもいいか?」


俺は街のどこに何があるか全く分からなかった。

なので、返品する順番をマッシモに一任した。

俺のお願いにマッシモはニカッと笑い、


「よし! 任せろ!

じゃ、ついてこい!」


とドシドシと大通りを進んだ。

俺は荷物を落とさないように後をついて行った。


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