第6話_金の池に住まう怪人

俺が立ち直って数ヶ月が経つ頃、とある噂が街に広まっていた。

それは『金の池に住まう怪人がいる』というものだった。


怪人は薄汚れた服を着ており、日中特定のベンチに座り笑みを浮かべながら金の池を覗き込む。

そして、日が落ちると茂みに消える。

更に奇怪なことに、その怪人は普段池の周りを漂っている光を二つも従えているという。


そんな事は露知らず、俺は今日も定位置のベンチに陣取り、金の池が見せる弟や妹の様子を見守っていた。


「はぁ~、昨日は素晴らしい誕生日会だったなぁ」


俺はウットリと昨日行われた妹の二十歳を記念する誕生日会を思い出していた。

妹が家族に今までの感謝を述べ、そして乾杯する。

亡くなった俺のグラスも用意されていて、みんなが俺のグラスにもカチンとグラスをぶつけ乾杯してくれた。

あのシーンは涙ものだった。

実際泣いていた。


そして俺をより泣かせる出来事があった。

長女が新しい命を身ごもったのだ!

誕生が待ち遠しい。

しかしだ、まずは母子ともに無事に出産を終えてほしい。

そう心配する気持ちもある一方で、死ぬほど嬉しく名前の候補などを考えてしまう自分がいる。

あ、もう死んでいた。

とにかく、もうニヤニヤが止まらない。


「あぁ、あれが噂の……」


通りがかった人々がボソッと言うが、冷たい視線やその声に俺は全く気付かない。

自分の世界に没頭していた。

俺は周りから見れば少し寂しい生活をしているように見えたかもしれない。

だが、俺は人間界を見守ることに忙しいのだ。

邪魔をしないでほしい。


いつも通り家族が就寝するくらいの時間に眺めることを切り上げ、拠点である源泉へと戻る。

もちろん俺の心の支えである二つの光も一緒だ。


「ただいま!」


拠点にいる光たちにそう声をかける。

みんな一斉にチカチカ光って俺を出迎えてくれる。


夜は特にやることがないので、眠くもないが寝たり、ぼんやりして過ごしている。

光を見て気付いたのだが、俺を慕ってくれている二つの光には特技があった。


片方の光は、どうやら風をコントロールすることができるらしい。

俺が今日は暑いなと話しかけたところ、チカチカと輝き、俺に風を送ってくれたのだ。

他にも風に乗って猛烈な速さで飛ぶことができる。

俺は風の音読みであるフウから名前を取って、『フー』と呼んでいる。


もう一つの光は、テレポートができる。

しょっちゅう消えては違う場所から出現している。

最初は忽然といなくなり非常に動揺したが、その直後別の空間から出てきて俺は腰を抜かした。

こちらは空間移動ができるので、『空』間から名前を取って、『ソラ』と呼ぶことにした。


「おーい、フーとソラ、特技見せてくれよー」


フーが風に乗り勢いよく近づいてくる。

ソラはそれより早くテレポートで移動してきた。

俺は特技を披露してくれた二つの光に拍手を送る。


その時、ふと広場の端に置かれた押し売りの品々が目に入った。

少し土埃をかぶっている。

その様子を見て俺はそろそろ返しに行かないと……だよなと考えた。


ここに来た日にされたことが怖くて、俺はずっと池の外には出ていない。

街に出るのは怖いが、このまま置いておくわけにもいかない。

俺は覚悟を決めて明日返しに行くことにした。

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