第4話 某HRゲームはたぶんこうやって生まれたんじゃないか劇場

 その翌朝、ナツヒとアオジが吉報を持ってきた。参加希望者をまとめるのに3日で済んだようだ。


「すごいぞ。7つのむらで約50組の参加意思表示があった」

とアオジが喜んでいる。

 予想以上の前向きな応答に、ナツヒも複雑な心情を隠しきれない。


「ねぇ、それみんなさぁ、負けた時の損害というものをちゃんと考えてるの?」

 ユウナギはわりと心配性だ。


「考えてないな」

 ぼそっと呟いたのは考案者であるナツヒ。


「こういう時、負けることより勝って良い思いをすることを考えるのが、人情というものじゃ」

「日取りは4日後だ。3日間で準備するぞ」


 なかなかに急な話で、女子ふたりは意気込んだ。


 まず4人は、「人足にんそく獲り合い競走」の他に大勢を駆りだす遊戯を考え始めたのだが。


「俺はせっかく男児が集まるなら、武器と投石を体験させたい」

「実益兼ねてるわね。じゃあそういう区画を作ってっと。私は唄や舞いで盛り上がりたいなぁ!」

「競い合うのがいいのじゃ」

「え?」

 コツバメの目は輝いていた。


「やはり人は競うことに燃えるのじゃ」

 彼女は実に好戦的だった。


「でもおんなこどもだぜ?」

「性別、体格の差なく競える何かじゃな」

「うーん、ひとりを何人かで高く持ち上げて、上に乗った同士が取っ組み合いとか!」

「めちゃくちゃ体格と腕力の差出るだろそれ。殴る蹴るはだめだ」

「じゃあ頭突き?」

「流血もんだそれは」

「頭ダメ、腕ダメ、脚ダメ……」

 ユウナギ、考案の降参寸前。


「残るは尻じゃな」

「尻で突く?」


 みなの頭上に、尻で人をどーんと押し出す想像の雲が出る。

 一応この中では比較的冷静なナツヒが、その雲を散らした。


「他者を直接攻撃するのは無し、競うなら獲り合うのがいい」

「尻で獲り合うというなら……」


 尻からはちょっと離れようか、とユウナギに口を挟もうとした3人は一度とどまり、そして揃って口にする。


「「「座席?」」」


 そこで4人は、複数の参加者が合図で同時に駆け出して、ひとつの座席に早く着いた者が勝ち、というのを想像した。


「催しの主な企画が競走なのだから、走るのは置いとかない?」

「走る時点で力の差は出てくるしな」

「大勢で狭い範囲を走ったらぶつかるし」


 5つの子が15歳と対等に遊ぶにはどうすればいいかを考え始め。

「取り合う座席がすぐそばにあったら走らずに済むけど。どう?」


 ユウナギはそこらに転がっていた“むしろ”を敷いた。

 そしてその周りにナツヒとコツバメを立たせ、自分はふたりに背を向ける。


 次に顔だけ振り返り、

「私が口笛を鳴らしたら、相手より早く座ってね」

と言うので、そこには緊張の空気が張り詰めた。


 さて。

 ひゅう! と音が鳴ると、もちろんふたりは同時にそこをめがけて尻もちをつく。


「私の方が先じゃぞ!」

「俺だよ、半分以上俺だし」

「おぬしの方が尻がでかいから当たり前じゃろ」


「ふむ」

 ユウナギは若干の手ごたえを感じている。そこにアオジが口を挟んだ。

「それちょっと動いてたらどうだろ?」

「動く?」

「口笛鳴るまで、そのまわりをぐるぐるまわってるとか」

 それならどちらが先かという曖昧さも緩和するかもしれないと。


 そこでユウナギはむしろをもう一枚追加して、アオジも入れてやってみた。

 すると、ちょうど2枚の間で止まったアオジが、どちらか迷ったせいで座れなかったのだ。


「「「「これだ!」」」」

 再び4人は声を揃えた。


「しかしこのむしろじゃ、そのたび尻もちをつかねばならず、尻を痛めるのう」

「台座にしたらどうかしら?」

「そんな丁度いい台がいくつもあるか?」

「木材用意して作ろう!」


 男ふたりは、暇な人は平気で無茶を言う! と思ったが、相手は曲がりなりにも王女だ、口にはできない。


 屋敷周辺の大工たちに協力を仰ぎ、ナツヒの子分の少年たちも引っ張りこみ。


 日をまたぎ丸一日かけて、立方体の木箱を同じ大きさで30個ほど制作した。


 子分たちは自作の作品に喜び、座ったり乗り降りしたりしている。


「座りたくなるよね!」

 ほがらかなひとときである。


「じゃが、座る合図が口笛じゃ味気ないし、遠くまで聞こえぬ」

「音量は鐘に変えればいいとしても、それじゃすぐ終わっちゃうってのもあるね。なにか良い案はないかな」


 ふたり黙々と考える最中、木箱の上に立って意気揚々と唄いだす少年がいた。

 そしてナツヒが

「お―い、作業終わったんだから片づけ手伝え!」

と言った瞬間、その唄が途中でぴたりと止まり静かになった。


「これだ」

 ユウナギはこの話し合いを始めてから、胸のすく思いを何度か感じている。


「唄に合わせて箱の周りを踊りながらまわるの。そして唄い手が急に唄い止めたら、それが合図」

「ほぅ、試してみる価値はありそうじゃ」


 翌日屋敷の者を使って試してみることにした。




 その後、そろそろこの日は解散かといった頃、兄トバリが血相を変えて飛び込んできた。

「ユウナギ様!」

 彼女をみつけるやいなや、がしっと肩を捕まえその顔をのぞき込む。


「トバリ兄様?」

「良かった、ご無事ですね? 何か変わったことはありませんか?」


 周りの者らがじっとふたりを見た。

「どうしたの、兄様?」

 ナツヒとコツバメもふたりに寄ってきた。


「何か?」

 ナツヒはいくらか察したようで、表情が険しい。


「先ほど女王から告げられた。王女に危害を加えようと企む者が、この中央にいると」


「え??」



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