第10話 empty chair その一

ーーー半年に一度の王宮への報告もかれこれ十度になるだろうか。

復興の手が止まる厳冬期と短い夏。

王国への報告を済ませ、それが終われば資材の調達や人材育成の為の王立騎士団との演習に明け暮れ、合間にはスポンサーの貴族の相手。当初はフランツと辟易へきえきとしながらも使命感に動かされてきしむ体を動かしていた。

ゆっくりと、最初は『砂蜴』の脱皮のようなもどかしさで始まった復興への道程。

ようやく一つの形が見えてきた。


フランツ「ロベルト、最近良いことでもあったのかい?」


ロベルト「べ、別にそんなんじゃねぇよ」


フランツ「そうかい?さっきから鼻歌が出てるよ?」


ロベルト「そ、そんなんじゃねぇってば!」


フランツ「ふふふ。分かりやすいな君は」


ロベルト「敵わねぇなくそ」


フランツ「お相手は何処のご令嬢なんだ?」


ロベルト「い、いくらお前でも言えねぇよ!」


フランツ「おや?随分と高貴な人みたいだね?」

「今独身で適齢期なのはロレンツォ伯爵の次女かな?それともヴォルフガング公爵の末娘とか?」


ロベルト「やめろってば!」


フランツ「ふふふ。剣術ではてんで敵わないからね。日頃のお返しってやつさ」


ロベルト「剣術ならいい線いってると思うぜ?お前の方こそどうなんだよ?貴族のご婦人方には好評じゃないか」


フランツ「あれはただの火遊びさ」

「それに僕の相手は自分では選べないよ」

「生まれた時には許嫁いいなずけもいるしね」


ロベルト「そうか…悪かったな」


フランツ「いいんだよ」


ロベルト「許嫁か…」

「お前さえ良ければ俺の妹をくれてやっても良かったんだがな」


フランツ「火遊びなんて言ったら不味かったかな?お兄様」


ロベルト「うるせぇまだ早い!俺に剣術で勝ってから言え!」

「それに貰ってくれたら火遊び禁止だからな!」


フランツ「あははは!シスコンなんだか分からないお兄様だね」


ロベルト「そんくらいお前の事信用してるって事だよ!」


フランツ「ありがとうロベルト」

「おっとこんな時間だ」

「舞踏会にお呼ばれしててね失礼するよ」


ロベルト「火遊びすんなよ弟くん」


フランツ「あはははご想像にお任せするよお兄様」


ロベルト「へっ!言ってろ」

「明日は帰国なんだから程々にしろよな!」



フランツ「分かってるさ」

「面倒事も終わって久しぶりの俺達の故郷なんだからね」


ロベルト「あぁ。帰れば初夏には聖堂も再開する。忙しくなるな」

「また、明日な」


フランツ「あぁまた明日」




ーーー『四千夜ぶりの逢瀬おうせと十八万夜の別離』


何日ぶりだろうか。そう問うと一日千秋いちじつせんしゅうの気持ちで待っていたのだから四千日ぶりだと君は両の手を広げた。


半年も待ったのに四日も待てないのかと言うと、お互い様でしょと君は頬を膨らませた。



また半年会えないんだな。いっそこのまま君を連れて…。

そう言うとあと半年の辛抱よと君は答えた。


では十八万日の間君に会える日を待っているよ。そう言うと、それじゃあおばさんになっちゃうわと微笑んだ。



聖堂の再開。復興のお墨付おすみつきが出れば宮中伯として王都に返り咲ける事。未だ暫定の騎士団ではあるがそのあかつきには正式に聖金獅子騎士団の旗下きかとして正騎士になれる事。その時は晴れて君と。


五年前は夢物語みたいな話だと笑いあってた未来がもうすぐそこまで来ていた。



次回  『empty chair その二』

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