第9話 moonlight dancehall
国王「
「この後執務室に参れ。たまにはゆるりと話を聞かせてもらおう」
フランツ、ロベルト「はっ」
ーーー
国王「入れ」
フランツ、ロベルト「失礼致します国王陛下」
国王「堅苦しい話は抜きだ」
「ここには内務卿と
ピエリス内務卿「国王陛下もかように仰せです」
「そちらへお掛けください」
ロベルト「光栄にございます閣下」
ピエリス内務卿「お久しゅうございますなフランツ殿下、ハイセスアイゼン卿」
フランツ「はい。お陰で息災におります」
国王「して、復興の進捗は如何であるか」
フランツ「はい。
「間もなく彼の地にも聖堂を再開する予定でおります」
国王「左様か。臣民の悠久の平穏こそが国の大願である」
「今暫くの難儀であるがしかと勤めよ」
フランツ「勿体ないお言葉」
国王「よいよい。朕と其方は従兄弟同士。その様な堅苦しい喋り方などやめて昔の様に話そうぞ」
内務卿「では私めはハイセスアイゼン卿と別室にてお相手致します故」
国王「気を遣わせて済まぬな内務卿」
「一時程したら遣いを出そう」
内務卿「仰せつかりました陛下」
内務卿「してハイセスアイゼン卿、ここには誰もおらぬ」
「ロベルト、と呼んでも構わぬか?」
ロベルト「も、勿論に御座います閣下」
「
内務卿「ぬっはっは!昔とは印象が違うのぉ!」
「貴卿の叔父上のガルバドス子爵に連れられ王宮参った時はハナタレ坊主じゃったというに!」
ロベルト「叔父上をご存知なのですか?」
内務卿「ぬ?小さくて覚えておらぬか」
「彼奴とは騎士見習いのライバルよ!」
ロベルト「そうでしたか」
内務卿「鉄斧などと二つ名で呼ばれておるが儂とはいつも五分でのぉ!ぬっはっは!」
「互いに競い合ったもんじゃ!」
「
「数奇なものでどちらも副団長止まりじゃ!ぬっはっはっは!」
「ほんに惜しい
ロベルト「
内務卿「なぁに国の為、臣民の為の騎士である!」
「貴卿の中にあの鉄血が受け継がれておればそれで充分である!」
「それより呼び立てたのは別件での」
「今宵の陛下主催の舞踏会にはお主も来るのであろう?」
ロベルト「は、はい。ですがどうにもあの様な場は苦手でして…」
「自領ではあの様な華やかな場はありませんでしたから…」
内務卿「ぬっはっはっは!叔父御によく似て居る!」
「まぁ良い!必ず参加するのじゃぞ!」
ロベルト「…畏まりました」
ーーー
『王宮』
今の地に据えられて既に10人以上の王を迎えたがその佇まいは
周囲に聳える尖塔は遷宮の折より年々数を増し、フランツの言う通り双月や星々の煌めきから王宮を覆い尽くすばかりに犇めいていた。
「こうも違うものか」
『大鬼』どもの
亡き曾祖父や祖父の心境を鑑みると胸の紋章の辺りに
思えば訓練の日々であった。
打ち据えられた我が身には太刀筋の数だけ鋼鉄が染み入っている。
『鉄血』とは正しく我が身に流れる
「フランツ・フォン・フロス=ロートリンゲン王弟子殿下!並びにロベルト・ハイセスアイゼン炎竜討伐伯爵!おなーーーりーーー!!」
刹那の静寂と歓声に我に返る。
この
我らが鉄血騎士団の包囲陣系よりも強固な鉄壁である。
抜け出し方を知らない俺は、まるで弱ったトサカイノシシみたいに為す術を失い、柄にもなくこれまで味わった事のない種類の緊張と対峙するハメになった。
「失礼。私めと先約が御座いますの」
雲間から暖かい陽光を浴びた気がした。
明るい栗色の滑らかな髪。陶器を思わせる乳白色の肌。そして
救いの御手は俺を囲む鉄壁の包囲陣系を一騎駆けしていとも容易く打ち破り、怯えるトサカイノシシを戦場の騒乱から静寂のバルコニーへと導いてくれた。
「お初にお目に掛かりますロベルト・ハイセスアイゼン卿」
ロベルト「あ、あぁ助かりました」
「こういう場は初めてなもので」
「えっと」
「あら、改めましてリリー・フォン・ピエリスと申します」
ロベルト「ピエリス?」
「!」
「ピエリス大公内務卿閣下の御息女でしたか!」
「これはご無礼を!」
リリー「ふふふ。私めが連れ出したのです平伏など結構ですわ」
「先程は父が無理を申し上げて失礼致しました」
ロベルト「いえいえ!辺境育ちなものでご尊顔も存ぜずとんだ無礼を致しました!」
リリー「いいのですよ。私は王都出立の際にお見掛けしていてお顔を知っていただけのこと」
あの
リリー「とあるお方が貴方様の事を話されていて興味を持ちまして」
「父上に手を回すようお願いしてしまいました」
「お邪魔でしたか?」
ロベルト「め、滅双も御座いません」
リリー「今日は沢山お話聞かせて下さいませね」
あの狸親父め。叔父上とライバルとうのも頷ける。
しかし、然程負の感情が湧かないのは
女性が聞いても面白い話とは言えない『大鬼』との戦物語や『顎豹』『泥鎌』なんかの魔獣の話、叔父上の鉄斧や俺の剣の話、『炎竜』との死闘。
時には真剣に、時には涙まで見せて街のチビスケ共の様に聞き入ってくれた。
公爵令嬢とは思えぬ様な屈託のない笑い声は詩。一拍遅れて揺れる栗色の髪の毛は心を落ち着かせる拍子。
尖塔の隙間から覗く双月や星々を楽団にして束の間の舞踏会は予期せぬ出会いと高揚を伴って
次回 『empty chair その一』
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