第8話 けふはおわかれの糸瓜がぶらり

フランツ「お待ちくださいハイセスアイゼン卿!

ロベルト・ハイセスアイゼン炎竜討伐伯!」


ロベルト「ロベルトとお呼び下さいフランツ王弟子殿下」


フランツ「では私もフランツで構いませんよロベルト」

「これから執政官として貴方とともに復興に尽力させて頂くのです。敬称などやめにしましょう」


ロベルト「わかりましたフランツ様」


フランツ「おっと様も結構です」

「二人の時はフランツと呼んでください」


ロベルト「王宮でお見掛けした時よりフランクな方なんですね」


フランツ「いやぁ、所詮フランツ・フォン・『フロス』=ロートリンゲン、所謂傍流ぼうりゅう、王家に何かあった時のスペアでしかありませんから」

「先々代陛下の弟の子供。王位継承権も下から数えた方が早いですし」


ロベルト「そんなものですか。私からすれば雲上人そのものですがね」


フランツ「そんなもの、ですよ」

「実は今回の執政官も自ら志願したのです」

「どうも『あそこ』は息苦しくて」

「私は野山に入ってフィールドワークでもしてるのが身の丈に合ってるのですよ」


ロベルト「急に親近感が湧いてきましたよ」

「なにせ元は『大鬼』が跋扈ばっこする痩せた土地でした」

「彼奴らを先々代と先代当主、それに我らが鉄血騎士団が山脈の向こうへ押し返して久しいとは言え」

「さらにそれに加えてあの炎竜でしたから」

「正直、王家の方をお迎え出来る様な状況ではないもので」


フランツ「勿論、覚悟の上です」

「それに、曾祖父殿が転籍なされた時止められ無かったのは私の祖父の責任でもあるのですから」


ロベルト「やめてください、そんな昔の話」

「それより覚悟といいましたが」

「先だっての被害で我々の寝所には屋根もありませんからね」

「炎竜に屋根ごと持っていかれまして笑」


フランツ「それは星が綺麗に見えそうだ!」

「王宮では尖塔と篝火かがりびが邪魔で星があまり見えませんでしたから」


ロベルト「ふっふっふ」

「貴方が執政官で良かった」

「これから宜しく頼むよフランツ」


フランツ「あぁ任せてくれロベルト」



ーーー

リリー「行ってしまわれましたね…」


マリア「ふん!いつも土塗れで王家の品格もない男よ、いなくなってせいせいするわ」


リリー「従兄妹同士なのですからそこまで仰らなくても…」


マリア「男共なんてやれ戦争だの剣がどうの魔獣がどうの野蛮な話ばかりだもの!」

「あのハイセスアイゼンとかいう辺境伯なんて最たるものよ!シーズンになっても王宮にも舞踏会にも『大鬼』がどうのと託けて出てこない!王家を何だと思ってるのかしら!」

「あの男はその意味ではマシな部類だけど、議会でのオドオドした態度ったら情けない事この上ないわ」

「王家の品格というものを野山に忘れてきたのではなくて?」


リリー「相変わらずですね…」


マリア「ふん!」

「それにねリリー?」

「私には其方そなたさえ傍に居てくれればいいの」

「私のこの気持ち分かっているでしょう?」


リリー「なりません姫様…」

「我々貴族の子女は家の為嫁がねばなりません…それは王家とて同じはず…」


マリア「分かっています。あと数年後には共和国に嫁ぐのですから」

「でもねリリー、その間だけでも…」

「何も野蛮な男共と違って穴ぼこを空ける訳ではないのですから…」


リリー「…姫様…」


マリア「……」




ーーー

フランツ「やあやあ!荘厳な王宮があんなにも遠く見える!君も見てみたまえロベルト!」


ロベルト「フランツ、落ち着いて」

「次の街まで随分と掛かるんだ体力が持たないよ」


フランツ「分かっているさロベルト」

「でも抑えきれないんだ!」

「ずっと王宮で暮らしていたからね」

「フィールドワークなんていうけど子どもの探検みたいなものでさ」

「こんなに遠出するなんて初めてなんだから!」


ロベルト「ふふふ。半年に一度は王宮に報告しに俺と戻るんだ」

「短い別れだよ」


フランツ「はぁ。そんなこと言うなよロベルト…」

「僕はずっと君の故郷にいても良いと思ってるんだから」


ロベルト「ありがとうフランツ」

「向こうに着いて落ち着いたら『大鬼』共の集落跡に行ってみるかい?」


フランツ「それは凄い!」

「話には聞いたがあの牙の持ち主だろう?王宮に飾ってあるんだ!」

「それに炎竜も骨格標本にしてあると聞いたぞ!」


ロベルト「あぁ、まだ途中だがね」

「全部終わったら王宮に献上するつもりさ」


フランツ「勿体ないなぁ」

「君の手柄なんだ傍に置いておけばいいのに」


ロベルト「いや、いいんだ」

「アイツは叔父上や騎士団の同胞の敵だから…」

「手元に置いておきたくないんだ」


フランツ「それは済まなかった…」

「配慮が足りていなくて…」


ロベルト「いいんだ」

「済んだ話、さ」

「…そうだ」

「今度、俺達の街に『樹人』が来るんだぜ」


フランツ「『樹人』?樹人てあれかい?『世界樹の守人』の?」


ロベルト「あぁ、南の獣人の国の世界樹へ巡礼した帰り道らしい」


フランツ「そりゃ凄い!王国の世界樹へ巡礼に来た時はタイミングが合わなくてね」

「また楽しみが増えたよ!」


ロベルト「運が良ければひと月程滞在するはずさ」

「復興で忙しいが拝謁はいえつの時間くらい取れると思うぜ」


フランツ「待ちきれないよ!急ごうロベルト!」


ロベルト「うわ!待ってくれよ!そんなに飛ばしたら持たないって言っただろ!」


フランツ「ははははは!」

「次の街まで競争だよ!ロベルト!」


ロベルト「やれやれ…」



次回  『moonlight dancehall』

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