第3話 ダイセンジユウエン(父)

ご飯を食べた後に「お父さん」は再び本屋に来た。


「お父さん、なんでさ、なんで行き方わからないならさ、そこにいるオバサンに聞けばいいじゃん。富山県の人なら知ってるんじゃないの?」


「待ってなさい。もう!だから。うるさい子だね!」


「なんでお父さん怒るん?」



「れい、いいわね、お父さん探してるんだわね。」姉のサホが言った。


 考えたらお姉ちゃんだって高学年だし、わかりそうなモノだ。あの時になぜ姉がお父さんを追及しなかったのか僕は未だに知らない。


 

夕方まで何をしたか「忘れた」。





お父さんは無言で「富山駅」に僕らを連れて行った。戻ったのだ。


駅に戻り、切符を3人分、「糸魚川駅」まで買う。その時だった。






壁にこんな張り紙があった。

「ダイセンジユウエン行きバスは矢印の先」




「お父さん!書いてあるじゃん。駅の人にやっばり、聞けば良かったじゃん。僕、今から遊園地に行きたいよ。お父さん。お父さん。お父さん。」


お父さんは、困った顔をして

「お父さんな、人に聞くのが恥ずかしかったんだ。」


ポツリとそう言った。







「えっ!なんで?わからないことをわからないって言っちゃだめなの?」




「無言……。」


サホは「れい、行くよ。」

そう言って北陸本線のホームに手をひいて行った。


「お父さん、粒っ子飲みたい。」自販機を僕は指差した。



オレンジ果汁につぶつぶの果肉の入ったジュースだった。


「うん、サホはいるの?」

「いらない。」


僕は、粒っ子を手にするとごくごく飲み干した。一気に飲んだから、ジュースが溢れて、手の袖につたって、流れてきた。


「お父さんベタベタするんだけんさ。」


「知らんわね。」



あとから母親に聞いた。お父さんは頭がいい。国立大学を出て高校教諭になった。

「人にものを聞いたことがない。」

そんなヘンテコリンなとこが昔はあった。



今のお父さんは普通に「お父さんにはわからない。」直ぐに言う。





「聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥」

お父さんは幼少期に体験的に教えてくれたのだ。優しいお父さん。






1話〜3話「ダイセンジユウエン」おわり。

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