あの人は今?

数年前、ゲームにより結婚相手を決める。

そんな馬鹿げた勝負を吹っ掛けたのは、長沢洋子、当時25才だ。


そのゲームに勝ち進み、最後の勝負となった時ーー自らの未来よりも、彼女との暮らしを選択した男ーー。

それが村上亮である。


当時、世間を騒がせた二人は今どうしているのだろうか?


そんな言葉からその番組はスタートした。


当時ツイッターやフェイスブックなどにも上げられていたあの瞬間の動画が、ショートカットされて、再び、テレビ画面に写し出される。


「えー三年前の3月14日、勝負をしかける。と言った事がツイッターなどにアップされ、その翌日、参加する方は○○公園に集まって下さい、との事で、見ている方を覗くと10名の人たちがその勝負に参加されました」


司会者がその説明をした後で、参加者の名前を読み上げた。


山下誠やましたまこと

村上亮むらかみりょう

川中康司かわなかこうじ

磯崎昇いそざきのぼる

前田博司まえだひろし

高坂享こうさかすすむ

香取茂かとりしげる

鈴木孝すずきたかし

河村学かわむらまなぶ

鈴森寛人すずもりひろと


「えー番組では当時の参加者すべてに会い、なぜ勝負に参加したのか?聞くことが出来ました」


司会者が言う。

一人ずつ、テレビ電話に出るとなぜあの勝負に参加したのか?司会者から問われた。


山下誠ーー。

「そうですね。単に長沢洋子の顔がタイプだったので、、」


磯崎昇ーー。

「結婚願望が強かったので、こんな簡単に結婚出来るなら、と思って参加しました」


前田博司ーー。

「楽しそうだったから、かな?ーーでも、彼女と結婚したかったな」


高坂享ーー。

「結構好きなタイプだったんで、参加したんですが、今となっては結婚出来なくて良かったと思ってます」


香取茂ーー。

「面白そうだったから」


鈴木孝ーー。

「漠然と参加しただけなんで、なぜ参加したのか、、わからないですね?」


川村学ーー。

「いやーわかんないですね。当時、何を思って参加したのか」


鈴森寛人ーー。

「漠然と参加しただけです」


それぞれが参加した時の事をそう言った。


川中康司ーー。

「俺は昔から長山洋子の事が好きだったんです!だから、参加したんですが、結果負けたので残念です」


村上亮ーー。

「面白そうだと思って参加しました。俺は警察に捕まりましたが、あの時は勝負して勝った人と結婚する、なんて面白い発想だな、と思ったんで、参加してみたんですが、まさか結婚出来るとはーー今でも驚いています」


結果、傷害事件を起こす事になってしまった村上亮さんに、引き続き話を聞こうと思います。


テレビ電話は繋がれている。


ーー残念ながら被害者となってしまった川中康司さんに対し、あなたは今どう思っていますか?


「とても申し訳なく思っています。ーー俺らが警察署に連れていかれたその日に、川中さんが目覚めた事を、警察官に聞かされました。謝罪に行きたいといったのですが、当然の様にダメだと言われーー」


村上は感極まっていた。そのせいで涙が流れていたが、止められなかった。


ーー恥ずかしい。テレビで泣き顔を晒すなんてちょっとした醜態だ。


理性と呼ばれる部分が、俺にそう訴えかけたが、もうどうしようもなかった。


「必ず、お詫びしに行きますので、その時はどうぞよろしくお願いします」


鳴き声のまま、村上は頭を下げる。


番組は村上の醜態のまま終わる。

ちょうど放送時間が終了した様だった。



ーー許さない。

ーーこの女、長沢洋子を許さない。


涙を流しながら、女はうつむいた。


ーー私がずっと想い続けた人を、あんなゲームで犯罪者にした挙げ句、奪ったあの女を私は許さない。


あの事件からずっと引きこもっていたが、今日は外に出てみようと女は思った。


ーー何せ今日は特別な日。


黒いパーカーについている黒いフードを被り、黒いマスクをした。

鈴木由美子は、上下真っ黒の服装だ。


久しぶりの外は随分と気持ちがいい。


白い雲がウッスラとかかっているが、青い空だ。


ーー大丈夫。

ーーきっと上手くいく。


心の中で、由美子は自分に言い聞かせた。


○○刑務所。

目的地はそこである。


ーー今日はやっとあの女(元長沢洋子)が、出て来る日。


○○刑務所の入り口で待っていると、疲れはてたおばさんの様な顔つきで、長沢洋子が現れた。


まだ30より手前だったはずだ。

もっとも、当人が嘘をついていなければーーだけど。


刑務所の中で、随分と年を食ったようで、もう見た目は30半ばくらいの年に見える。


「ーーすいません。長沢洋子さんですか?」


後ろから声をかける。


ーーはい。そうですが何か?


長沢洋子が振り返ろうとしたその瞬間。

腰の辺りが熱くなった。

よろける。


「ーーあ、あなたは...ダレ?」


声も途切れ途切れに尋ねながら、長山洋子は倒れた。


その場が血で滲み始めると、目が霞んできたのを感じた。


ーーもしかして、私、このまま死ぬのかな??


だんだんと意識が遠退いていく。


「おいっ、、大丈夫か?ーー洋子!!」


村上亮が抱き抱える。

そうしている間に救急車が到着した。


ちょうど同じ日。

二人が出所していなければ、こんな場面に遭遇する事もなかったはずだ。

だが、ちょうど同じ日に二人が出所していたから長山洋子を助ける事が出来たのだと思った。


そして俺は見た。

あの時、洋子を刺したその犯人の顔をーー。



現場で待機していると、刑事が来て俺はまた事情を聞かれる運びとなった。

今回は目撃者として、だが。


「それで、長沢洋子さんを刺した相手を見たんですよね?」


「はい」


「どんな人でした?」


「フードを被り、マスクをしていたので顔まではわかりません」


「分かる範囲で構わないので、似顔絵の作成にご協力頂けますか?」


「はいーー必ず、洋子を刺した犯人を捕まえてくださいね?」


俺はお願いした。


「お任せください!」


刑事が言った。


「それでは特徴を話してください」


「女性の様な華奢な体つきで、、顔が小さく見えたかな?」


「それで?」


「黒いパーカーのフードを被っていて、服装は上下黒でした。そして黒いマスクをつけていました」


「目元に特徴などはありましたか?」


「一瞬だったんで、ハッキリとは言えないですが、目元... とゆーか頬の辺りに、大きな目立つホクロがあったと思います」


似顔絵の作成をする。


「輪郭はマスクのせいかも知れないですが、丸かったように思います」


絵が書き上げられていく。


ーーすごい。これがプロの仕事か。


「あ、その人物です!」


あの時、俺が見た人物そっくりに描かれていた。

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