事情聴取

こうして僕らが暮らし始めたばかりの家は、何年間か、空き家になった。

誰も帰らない。寂しい家になるのは明白だ。


動画で見ているはずなのに、警察署に連れていかれて、なお、同じ説明をしないと行けないようだ。


「ーー俺、確かにあの時、川中康司という人物を撃ちました。が、あの時、初めて会ったので、俺との繋がりはまったくありません」


「なぜ、撃ったんだ?」


「あの時の番組を見てたら分かると思いますが、勝負だったんです。何なら見てみますか?俺、家にDVD持ってますよ」


「あぁ、後で見てみよう」


刑事が取調室の部屋をノックしたと思ったら、何やら耳打ちして、その刑事はすぐに取調室を去っていった。


「お前が撃った川中康司だがな。5針くらい縫ったそうだが、目が覚めたそうだ」


「ーー良かった」


村上亮は涙を浮かべる。


「刑事さん、お願いがあります。。俺、川中さんに謝りたいんです。お見舞いに行かせてくれませんか?ーー逃げないので」


「お見舞いか。行かせてやりたいところだがそうもいかないんだ」


「そうですよね」


残念そうに村上が言う。


「それでお前は元、長沢洋子をどうして知ったんだ??」


「俺、たまたまインスタグラムで彼女のページを読んでて、それで知ってたくらいでーー会ったのはあの時が初めてです」


「そっか」


「なぜ彼女を取り合う勝負をしようなんて思ったんだ?」


「それは単に面白そうだったから」


「なるほど」


警察官が納得したように頷く。



その頃。

最後まで残っていた川中が、目を覚ました事を知った。


腕の傷は5針程度、縫うケガをしたようだ。


痛いのが嫌な川中は治療の為麻酔をかけてもらい、眠っていたが目が覚めたらしい。


「テレビ見てましたよ!」


目が覚めたのと同時に、看護師に囲まれていた。


「あなたは優しい方なんですね。あの状況で銃を撃たなかったなんて...」


看護師から言われる言葉を元に記憶を辿る。

ぼんやりとしていた頭で。


ポロポロポロ。


思わず涙が溢れる。

その姿を見て、看護師が慌てた。


「川中さん、まだ腕が痛いですか?」


「ーー違うんだ。そうじゃない」


川中は涙を拭って、看護師を見た。


トントン。


病室のドアが開く。


「こんにちは」


昨日見た、村上亮のファンの子達だ。


「ーーどうも」


川中にとって彼女らは、何の関係もない。ただ見たことがある程度の人だった。


「昨日、村上亮さんが逮捕されました。長沢洋子さんと一緒にーー」


「ーーそっか。。そうだよな。。」


川中は少し残念だった。

昨日までは敵だったけど、彼らと争う事が出来て楽しかった。


「それで、ケガはどうですか?」


「あぁ、もう退院出来るらしい」


「良かったですね。一つ質問なんですが」


「うん。なに?」


「あなたは長沢洋子さんが好きだったんですよね?ーー結婚したいほど」


「あぁ、そうなるね?」


「なぜあの時、村上さんを撃たなかったんですか?」


「ーー俺、度胸がなくてさ。。撃てなかったんだ。撃てば犯罪者ーー結婚して、犯罪者になったらつまんないだろ?だから、、」


川中もまたあの番組で、一躍有名人になっていた。

そして、被害者である川中がその優しさでもて始める事になる。


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