事情聴取
こうして僕らが暮らし始めたばかりの家は、何年間か、空き家になった。
誰も帰らない。寂しい家になるのは明白だ。
動画で見ているはずなのに、警察署に連れていかれて、なお、同じ説明をしないと行けないようだ。
「ーー俺、確かにあの時、川中康司という人物を撃ちました。が、あの時、初めて会ったので、俺との繋がりはまったくありません」
「なぜ、撃ったんだ?」
「あの時の番組を見てたら分かると思いますが、勝負だったんです。何なら見てみますか?俺、家にDVD持ってますよ」
「あぁ、後で見てみよう」
刑事が取調室の部屋をノックしたと思ったら、何やら耳打ちして、その刑事はすぐに取調室を去っていった。
「お前が撃った川中康司だがな。5針くらい縫ったそうだが、目が覚めたそうだ」
「ーー良かった」
村上亮は涙を浮かべる。
「刑事さん、お願いがあります。。俺、川中さんに謝りたいんです。お見舞いに行かせてくれませんか?ーー逃げないので」
「お見舞いか。行かせてやりたいところだがそうもいかないんだ」
「そうですよね」
残念そうに村上が言う。
「それでお前は元、長沢洋子をどうして知ったんだ??」
「俺、たまたまインスタグラムで彼女のページを読んでて、それで知ってたくらいでーー会ったのはあの時が初めてです」
「そっか」
「なぜ彼女を取り合う勝負をしようなんて思ったんだ?」
「それは単に面白そうだったから」
「なるほど」
警察官が納得したように頷く。
※
その頃。
最後まで残っていた川中が、目を覚ました事を知った。
腕の傷は5針程度、縫うケガをしたようだ。
痛いのが嫌な川中は治療の為麻酔をかけてもらい、眠っていたが目が覚めたらしい。
「テレビ見てましたよ!」
目が覚めたのと同時に、看護師に囲まれていた。
「あなたは優しい方なんですね。あの状況で銃を撃たなかったなんて...」
看護師から言われる言葉を元に記憶を辿る。
ぼんやりとしていた頭で。
ポロポロポロ。
思わず涙が溢れる。
その姿を見て、看護師が慌てた。
「川中さん、まだ腕が痛いですか?」
「ーー違うんだ。そうじゃない」
川中は涙を拭って、看護師を見た。
トントン。
病室のドアが開く。
「こんにちは」
昨日見た、村上亮のファンの子達だ。
「ーーどうも」
川中にとって彼女らは、何の関係もない。ただ見たことがある程度の人だった。
「昨日、村上亮さんが逮捕されました。長沢洋子さんと一緒にーー」
「ーーそっか。。そうだよな。。」
川中は少し残念だった。
昨日までは敵だったけど、彼らと争う事が出来て楽しかった。
「それで、ケガはどうですか?」
「あぁ、もう退院出来るらしい」
「良かったですね。一つ質問なんですが」
「うん。なに?」
「あなたは長沢洋子さんが好きだったんですよね?ーー結婚したいほど」
「あぁ、そうなるね?」
「なぜあの時、村上さんを撃たなかったんですか?」
「ーー俺、度胸がなくてさ。。撃てなかったんだ。撃てば犯罪者ーー結婚して、犯罪者になったらつまんないだろ?だから、、」
川中もまたあの番組で、一躍有名人になっていた。
そして、被害者である川中がその優しさでもて始める事になる。
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