第8話 戦争

 アレフの長い兵役生活が始まった。基本は城で訓練する。アレフは休憩中に時折、街を見渡した。その時にちらりとリリィが見えることがあり、それがアレフの心の支えとなるのだ。

 アレフがイミタルであることは軍人らはみんな知っている。迫害されるかと思いきや、むしろ長い間軍人でからと大賛成だった。アレフにとっては少し不服だったが、リリィと同じ国にいれるならと自分を納得させるしかなかった。

 十年、二十年。アレフは必死に訓練を続けた。

 そしてアレフが軍に入ってから二十二年が経った日。ついに戦争を仕掛ける話があがった。対するはロンジェカンという国らしい。アレフは聞いたことない国だったが、剣術に長けているため最前線で戦うことになった。

 船を使っての大移動。国中が見送った。アレフは船から必死にリリィを探したが、その姿は見つからなかった。移動中、アレフが部屋でぼうっとしていると、軍の隊長が入ってきた。そしてアレフの背中を叩く。


「お前の活躍、楽しみにしてるからな。間違っても裏切るとか、戦意喪失とかするなよ。前にそういうやつがいたから」

「はぁ……」


 隊長はにかっと笑い、そのまま部屋を出ていった。この戦争に勝てばたくさんのお金が貰える。そうすればリリィのことを養えるし、プレゼントもあげられる。


「プレゼント、何なら喜ぶかな。腕時計とか……つけてくれるかな」


 そう呟いた時、騒がしい足音が聞こえた。


「見えてきたぞ! 戦いに備えろ!」


 隊長の声が響き渡る。アレフも甲板に出て、国の姿を目にする。


「……え」


 思わずそう声が出た。なぜならその国はアレフの故郷、イミタルの国だったからだ。


「裏切るなよ」


 隊長の重圧感のある声で釘をさされてしまったアレフ。迷いが生じれば死ぬ。それが戦争だ。アレフは故郷に降り立った。イミタルたちを殺すために。

 アレフはリリィのために、戦う以外の選択肢はなかった。


「行けぇえッ!」


 隊長の叫びでアレフたちは走り出した。目の前の敵にアレフは剣を振り下ろす。

剣どうしがぶつかり合う。その衝撃で敵の前髪が揺れ、その顔があらわになった。それはアレフにとって見覚えのある顔だった。思わずその名を口にする。


「……っ、カイナル……!」


 カイナルもアレフの存在に気づき、互いに距離をとった。


「アレフ、お前っ……なんで」


 カイナルの存在に、アレフは動揺を見せる。かつての友人と……幼なじみと戦わなければいけないのかと。だがアレフは生き残らなければならないのだ。リリィのために。自分のために。

 アレフは泣き叫びながらカイナルに向かっていった。


――キィィィン


 街を歩いていたリリィはアレフの叫びが聞こえたような気がして、思わず立ち止まった。


「……アレフ?」

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