リリー42 (十七歳)



  歩き去るグーさんと主人公をぼんやり見送る。


  『終わった……』


  婚約破棄、しっかり破れた手応えが無かった。

 

  むしろ私の先手必勝の婚約破棄に、グーさんや主人公ヒロインはイラッとした顔してた。


  だって他の悪役の皆さま同様に、私も生き残る事に必死。時と場所なんて選んでられない。チャンスは逃さない! って、思って焦ってたけど、やばい方向で終わった……。


  グーさん、本当に怒った顔してたよね。


  フェアリオって言ったあの主人公ヒロイン、SNSのフォロワーも多そうな、クラスに一人はいる、皆にちやほやされてる目立った美人。


  過去世ではなく現在世では、自信満々の美人のはずなのに、ちやほやの発信源が常に身内からのエールという私。身内外でのちやほや経験の少なさからか、なんか、なんか、自信、弱まる……。


  「おい!」


  ハッ!


  あ、ウサギまだ居たんだった。このウサギ男とピアンちゃんが来てくれて助かった。お陰でなんとかあの場を乗りきったよね。


  ありがとう……。


  でもそれは、心の中でだけ……。


  「どう思った?」


  ウサギ男の話の中で、ピアンちゃんが危なかったのだと気がついた。普段の私ならきっともっと気を利かせられたのに、それどころではなかった。


  (危ないことはしないでねって、後でピアンちゃんに教えてあげよう)


  この後ウサギ男と境会アンセーマについて話し合い、確かに、主人公ヒロインの恐怖フィルターを外して普通に考えたら、奴らの行動はおかしいかも。


  エンヴィーって、あの教師も態度悪かったし…。


  「……」


  さすが人のあら探しを瞬時に言葉に表現出来る、ハラスメントの白ウサギ。右側うちにだけではなく、全てに的確なハラスメントを行っている。


  褒めてつかわそう。


  でもそれも、心の中でだけ……。


  学院までの長ーい廊下。それをウサギとおしゃべりしながら歩く。左側てきと何を話しているのか気になるでしょ?


  ほとんどお肉の話をしていた。


  向こうが先に聞いてきたんだよ。お肉に飢えてる私が、左側あちらのお肉事情を気にした訳じゃない。向こうが先なの。


  こほん。

 

  だから右側うちで食べられるお肉はジューシーで、春は特に柔らかくって臭みもなくて、沢山食べれるのって教えてあげた。


  あ、今年は少なめかも。だからお裾分けは出来ないのよとも伝え済み。


  「どうされたのですか?」


  エレクトくん、私、無事、生還致しました…。


  ようやくたどり着いた学院の連絡通路。それぞれのお迎えが、変な顔して私たちを見ていたよね。


  ほんの少しだけ、左側そっちのお肉の味も気になるから、「仲良くしましょ」ってお肉同盟結の提案してみた。



 **



  はーやれやれ。


  大変な一日だった。


  でもご存知? 皆さま。わたくし、初めほど主人公ヒロインダメージを受けていない。これって免疫ついてきたのかも。遭遇経験値、レベルアップってやつ?


  そして家に帰ったら、今もうちに居るファンくんに癒される。


  七歳なのに賢いファンくんは、うちの二人の兄達からも一目置かれてて、私が参加した事のない会議にも出席している。


  仲間外れの私は、指を咥えて悔しそうに見ていると思うでしょ? そうでもない。別に悪の中枢であるお兄様達の長々とした座談会に、参加したいとは思わない。


  ただ私が想像している彼らの会話の内容、お子様の情操教育によろしくないんじゃないかって、それだけを心配している。


  「リリー様!」


  会議が終わって、私の一人ぼっちお茶会に現れたファンくん。可愛いよね。弟が居るってこんな感じかな?


  『…………』


  一緒にお茶しましょ!


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