リリー29 (十六歳)



  雷に撃たれたって、このことだよね。


  聖女って聞いた後に、フェアリーを思い出して、更に連想に続いたのは白ウサギ。


  「いた、覚えてる。聖女、フェアリー、白ウサギ。思い出した」


  攻略対象にいたあいつ、印象的な白髪で赤い目のあいつ。あいつのチビキャラがウサギみたいにふわふわで可愛くて。


  あれだ。あのゲーム!


  ーー教会のフェアリーだ!!


  登場キャラのチビ化が可愛くて、ついインストールしたあれだ!


  確かに、お兄ちゃんズも居たかも。銀色の、目付きの悪いお兄さん、そのチビキャラクターズも、なんとなく、ぼんやり思い出せてきたような…。


  重要なのは、ストーリー。


  「ウサギが好きって言ってたから、にやってみる? って、攻略してもらって、それから…、それから…、」


  それから…?


  ほとんど全部、隣のあの子に攻略してもらって、スチルだけ見たような気がする……。


  え? まさか、自分でクリアしてないの…?


  「…………」


  おぉおぉ、おぉおぉ、役立たずっ!


  せっかく思い出したのに!!


  私の、役立たずっっ!!!


  まさに今、ズドーーン……て、四つん這いに床を見つめたくなる心境だけど、私、右側ダナーという、家族経営の大きな看板を背負っているから、そんなみっともない格好は、誰が見ていなくてもしない……。


  そうかー…。あれかー…。フム…。


  思い出したところでドウにもコウにも出来ないのだけれど、少しだけ、スッキリした…。


  でもそういえば、フェアリー、てっきりグーさん狙いかと思ってたのに、なんでピアンちゃんと一緒に居るんだろう。なんか髪伸ばして染めて、イメチェンしてたし…。


  いや、私が勝手に主人公ヒロインは王太子グーさん狙いだって決めつけてただけで、実は別の人が攻略対象かはわからないけど…。


  (むーーん……)


  グーさん、じゃないの? それともまさか、皆の親密度まんべんなく上げる、全員に好かれるタイプの逆ハーレムなアレ?


  (まあでも確かに、グーさんは見るからに忙しそうで、とても恋愛イベントをこなせる状況にはなさそうだよね)


  だから別のキャラに変えたのかも。…でも何故ピアンちゃん?


  ピアンちゃんの、知り合いが攻略キャラなのか?


  (え? まさか、さっきの……)


  お兄さん? 攻略対象だったの…? 彼って今は、犯罪者? そんな裏社会のゲーム、菓子パンヒーローやポケットにゲットするモンスターで頭が一杯になる年代、六歳のあの子にやらせてたの?


  ヤバイ。このゲーム、年齢制限あったかな……。全年齢で、ありますようにっ!


  「じゃなくて…………駄目だ」


  どんなに考えても、白ウサギの可愛いチビキャラしか印象に残っていない。


  ……なんか、屈辱……。


  だって絶対に推しじゃないと思っていたのに、結局、あいつしか、はっきりと思い出せないなんて…。


  赤い目が、きゅるん、て……。


  これは絶対に身内に知られる訳にはいかない。真っ黒な秘密は、深淵の闇に封じなくてはならない。


  そんな事より、忘れてはいけない最重要ポイント。


  ピアンちゃんのニューフレンドになってる聖女フェアリー。彼女が今もエンディングしないで活動中ってことは、悪役わたしまだ、脱悪役してないんじゃない……?


  (真剣に、気持ち入れ直さないと…)



  ーーカー…ン……。カー…ン……。



  いつの間にか授業は終わってて、鐘の音が鳴り響いた講堂内。黒色たちにバレないように、急いで戻らないとって講堂から小走りに飛び出て、教室への曲がり角で人とぶつかりそうになり、慌てて急ブレーキする。


  『あっ、すいません』

  『いえ、こちらこそ』


  ギリギリですれ違い、お互い会釈で通り過ぎる。でも何かの違和感に、あれ? って振り返った。


  同じ様に、立ち止まる深緑色の制服。


  茶色の長い髪に、スラリとした女性。だけど違和感の正体は、この国の学生には珍しいはっきりとした化粧。


  アイシャドウ、アイライン、口紅も塗ってる。


  (…先生……? なわけないか、制服だよね、あれ)


  驚いた顔の女の人も、こちらをじーっと見つめていた。

 

  『あなたもしかして、リリー・ダナー?』


  !?


  このワタクシを、呼び捨てって……まさか。


  『あ、やっぱりそうだ!』



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