リリー28 (十六歳)
グーさんと会うたびに、どこからともなくやって来る白ウサギとバチバチしつつ、これといったイベントも特に無く、学院に通い続けてる。
その間、ピアンちゃんには完全に新しいお友達が出来たみたいで、私に入り込む余地はない。
そうだよね、同じ教室の深緑さんたちの方が、いいわよね…。
顔ははっきり見たことがない。
ただお昼休みに、いっつも中庭で二人で楽しそうにおしゃべりしているのを、二階の窓から私が指をくわえて見てるだけ。
茶髪、ロン毛、細身の後ろ姿。
双眼鏡が手元にあれば、もっとじっくりと観察出来るのだけど、さすがにそれはしていない。
黒色メンバーズに、ピアンちゃんが誰と仲良しなのか、聞かないのかって?
一人だけのお友達が別のこに取られたのが、思った以上にダメージで。私は内心でいじけていて、お友達取られた事もなんだか身内に打ち明けるのが恥ずかしくて、表では平気なふりをしている。
だからテーブルに小さなのの字を書くだけで、このイジイジはやり過ごしているの。
そんな感じでいじけていたら、授業中に、さりげなく隣の席のこからお手紙まわってきた。
どこから来たのか、差出人のわからない、クラスメイト間を渡り歩いてたどり着いたお手紙。宛先だけ、私の名前が記入されている。
「……」
授業中、先生はこちらを見ていない。脱悪役したばかりなのに、ここで教師に目をつけられる悪い子は、即家の者たちに報告されてしまうかもしれない。
細心の注意をはらい、手紙の封筒をチェックする。
この手の差出人不明のお手紙には、封筒にカミソリが仕込まれているって、過去世の漫画で学習済みなの。
(……大丈夫そう)
封筒のボディーチェックを完了し、教師の動向を確認しながら慎重に中身を開く。
「……む、」
これって……。
ーーアーナスターについて、至急、お伝えしたいことがございます。詳細は旧教の講堂にーー
かなり怪しい内容だ。だけどピアンちゃんの事で至急って……。
まさかまた、あの中途半端な悪役たちが、ピアンちゃんをいじめているとか?
そして私は閃いた。
授業中、不自然なお手紙、ピアンちゃんに関する至急、それがかつての悪役である私の元に到着。
これってきっと、深緑さんの誰かが、ピアンちゃんが今も中途半端な悪役たちに絡まれているから、自分ではどうにも出来なくて、助けてって、ヘルプしてきたとか!
……それとも影の薄い番長が待ち構えていて、逆に悪役であった私に、今さらタイマンしよって言い出したりしないだろうな……。
(……どうかな。名探偵しすぎ?)
手紙を送ってきたのは誰か、ここで思い出すのはピアンちゃんのニューフレンドさん。
番長や私に対する別の挑戦も思い浮かぶけど、敵と呼べる白色メンバーズは、きっとこんな面倒で姑息な事はしなさそう。
影でこそこそ、しかも境会の講堂よりも小さな、物置小屋感が否めない、旧講堂に来いなんて言わなさそう。
(ふーーむ……)
やっぱり
ーー必ずお一人でーー
きっとこれ、ピアンちゃんと違って、黒色メンバーズが怖くて、彼らの壁を突破出来ない深緑さん。
(でもいつって、時間指定ないんだよね)
なので私は、
脱悪役したのに不良でしょ?
けっこう規則正しく優良学生続けている私。初めて授業をさぼった背徳感に、今はムフフってあまり感じない。
強権力の私が今さら番長によって、どうにかなるとは思っていないんだけど、なんかこの呼び出しにはちょっとだけ不安。
(……)
教室からは差ほど離れていない。意外と近かった旧講堂。
(誰もいない……)
それはそうだよね。お手紙もらって、気まぐれに様子見に立ち寄っただけなんだもの。
ほとんど使用されない、薄暗くて小さな講堂。灯りなんか点いてなくて、天窓からうっすらと光が射し込んでいる。
「……」
「お久しぶりです」
教室に帰ろうとしたら、後ろから声をかけられて身体が上下に揺れたよね。
「……あら、……?」
振り返って、声がした席の最後尾、薄暗い席にピアンちゃんがって喜んだのに、よく見ると別人。そして近寄ってきたその人の顔には、大きな傷がついていた。
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