リリー27 (十六歳)


 

  そういえば、甘いもの食べ過ぎたら、身体が巨大化するとか、血糖値が爆発しそうだよねって思うでしょ?


  実はね、現在世のお菓子類ってね、過去世のお菓子ほど甘くない。見た目にあっまーいケーキでも、過去世のケーキよりもきっとお砂糖は三分の二程度。


  甘いよ、甘いは甘いんだけどね、なんかこう、残りの三分の一の甘さを、いつも追い求めてしまうの。


  過去世の甘味、ピーナッツぎっしり詰まったチョコとかね、キャラメルにぐるぐるにコーティングされたチョコとかね、あの完全なる甘さと、出会った事が現在世ではない。


  魂が、完全なる糖分を追い求めている。


  でも何事もほどほどが大事だとも、ちゃんと分かっているつもり。


  甘いものを頬張るのは、学院とお誕生日、後はお出かけした時くらいだからね。


  その他のお食事は、うちの調理スタッフに、徹底的に管理されているのだから。


  しかも彼らは、黒色メンバーズがグレイお兄様に、私の学院ライフの全てをいちいち毎日必ず報告している内容から、昼食項目を抜粋して、摂取した糖分を計算し、その結果の夜ご飯を用意してくれる。


  ……そうだよ、だから野菜だけのスペシャルディナーだとか、パンとか主食が取り上げられている夜もある、可愛そうな私。


  それはまさに今日、本日のディナーに用意されたお皿の上には、野菜ばかりがこれでもかっ、これでもかっと乗せられていて、前菜に続く野菜、色違いの野菜、スープも野菜、メインディッシュは茹でられた野菜、デザートに至っては、すりつぶされて、アイスみたいに丸められた甘くない野菜だった。


  「…………」


  いつもよりも、野菜に力が入っている。


  ここに昼間のメルヴィウスの怒りの矛先を感じる……。


  あいつ、持ち帰りに選びに選びぬいた、私のスィーツコレクションを取り上げやがったんだよね。


  ぺって舌出して見せただけなのにっ!


  メルヴィウスみたいに、人様に唾なんかぶっかけてないよ。紫色、出して、見せた、だけなのに。


  しかも道端だったから、他人の目も気にして、お嬢様の自覚もあるから、ちょっとだけ、一瞬だったのにっ!!


  これはかき氷の後に起こった出来事だ。


  私のベロを見たメルヴィウスは、スッと表情を消した。そして無言でけっこうな力で私の肘裏を掴むと、ぐいぐいと黒の荷馬車に連れていく。


  まるで自動ドアの様に係員に開かれた扉。


  担ぎ上げられた荷物わたし


  ドサッて放り投げられる事はなく、怒りの紳士はそっと座席に荷物を下ろす。


  そして地獄の無言の荷馬車タイムが始まった。


  無言て言っても、対面に座ったメルヴィウスは、荷物を凝視。なんか喋ったら、ちょっとでも動いたら、○スゾ的な眼を逸らさずに荷物を睨み続けていた。


  笑えないでしょ?


  奴は普段はマミーに似てるけど、怒ると怒ってるパピーにそっくりになるんだよね。普段からパピーに似てる、上の兄貴とも少し違う怒り方。


  親切に紫色のベロを見せてあげただけの私は、奴の理不尽で過剰な怒りには屈せずに、もちろん反省なんてすることはなかったのだった。


  ふりはしたけれどね…。


  そういえば、街ぶらして気がついたんだけど、やっぱり王都にも貧困格差がけっこうあって、路地裏には痩せた子供の姿を見かけた。


  右側うちの領地にもやはりそれは起こっていて、各領主はそれぞれ対応策考えてはいるんだけど、全てがよくなってはいない。


  だから私みたいに、お金持ちの家の子供が孤児院運営したりして、少しずつでも救済手伝ったりもしてる。


  でもいろいろ学ぶと気づくんだけど、右側うちにも左側アトワにも、王都ここから逃げてくる難民の人たちがけっこういて、孤児院に保護される子供は、その人たちが育てられない場合が多いんだ。


  街を見て分かるんだけど、王都ってさー、積極的に貧困層を放置してる感じなんだよね。


  そこでふと思ったのが、あの保冷庫の話。


  保冷庫だって、本来は庶民の味方の代表家電。


  貴族よりも、一般化家庭にこそ必要で、アイスや甘味だけを運ぶ物ではないんだよね。


  私の様に、貴族この立場の人たちは、自分で料理なんかしないし、食べたい物も、その日のうちに街からテイクアウトで用意してもらえる。


  いつまで経っても怒れるメルヴィウスにゴマをするため、表面上はごめんねってすり寄って、怒りを紛らわせるついでに、気になっていた保冷庫の質問してみたんだ。


  大量製産して、貴族よりも庶民の皆様のお手元にって、過去世の知識披露しようとしたんだけど、保冷庫の構造が問題で、それを提案することは止めた。


  保冷庫、電気じゃなくて、捕まっていた子猫の仲間たちの心臓なんだって聞いたらね、それは絶対に無理だなって。


  右側うちの領地は気候の関係もあるけど、天然の保冷庫作っているから、その技術を応用して後々に王都の一般家庭にも手に入りやすくなるかもしれない。


  動物殺して急速に進化するよりは、時の流れに身を任せた方が良いのかなって、そう思ったんだよね。


 

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