リリー17 (十六歳)



  主人公にも王太子にも遭遇しないまま、何の進展もないままに、時は過ぎ去っていく。


  でも学院行事だけは定期的にやってくる。


  今日は待ちに待った社会見学。


  世間を知らない貴族のお子様に試練を与えようと、王様が企画した、庶民の暮らしを覗いてみよう見学会!


  だからなんと、黒色メンバーズもうちの警備員たちも、皆様まったく居ないのです!


  (新鮮……)


  不安げに公園をうろうろしている白と黒と紺色。


  先生達が決めた見学範囲は、中央公園の外周を一回り。店を覗くのも物を買うのも個人の自由。ピアンちゃんのお家に行く口実に、狙っていたあの場所、そう。


  もちろん出店だって入れるよ!


  でもやはり私はノーマネー…って思うでしょ?


 

  じゃーーーーん!!



  ここに、セオさんから貰ったお小遣いが登場するのです!


  (なに買おうかなー、やっぱり最初はフルーツ飴にしようかな?)


  「これ、いただくわ」


  チャリーン!


  ゲットしたのは、赤と黄色のつぶつぶが沢山ついたフルーツ飴。


  あむっ!


  あっまーい、うっまーい!


  念願の食べ歩きを堪能し、次の標的はこの公園内を支配する串焼き匂。


  でもとりあえず、フルーツ飴が無くなるまでその辺をぶらつこう。


  あむあむ、ムフフ。


  小物店、果物店、スィーツ店。


  お、あそこに、氷菓子店を発見。前にグーさんがうちに来てた時、何回かお土産してくれたことがあった。あそこで買ったのかな?


  「?」


  商店街の少し外れに、お洒落なテントを発見した。まるで過去世のお祭りを思い出させるテント。


  少し覗いてみたら、ステージを見ている超混雑している大人たち、だけど受付のおじさんにチケットを確認されたので撤退する。


  (なんか、気になる物が見えた)


  ステージの上に並べられた檻っぽい何か。


  「……」


  さりげなく裏口に回り、様子を確認。


  開いていた天幕の隙間を覗き込むと、薄暗い中に何かが一つ置かれていた。


  (これって…)


  鳥籠の様な檻に閉じ込められた綺麗な子猫。


  しょんぼり俯く子猫は、見たことの無いエメラルド色の光沢を放っている。ちらりとこちらを見た、大きな悲しげなピンク色の瞳。


  予感が的中した。ここはやっぱり大人の競り市場。


  「うーーん…」


  ここから出してって訴えかけてくる瞳。


  ここでよくある競り市場設定は、お節介な主人公が出品物を助けようと、自分が代わりに捕まって出品されるというジバク・チャレンジ。


  もしくは主人公が競り主となり、大金ちらつかせてハイハイって札を上げるバクチ・チャレンジ。


  でも私は主人公ではない。


  けどなんか、ジバク、バクチって、悪役っぽくない?


  やっておいた方がいい?

 

  やっぱりお金? お金をチラ見せする?


  でも正直、私の手元には…。


  チャリ。


  覗き込んでみた巾着袋。


  (にーしーろー…、)


  セオさんが手渡してくれた小銭の入った巾着袋。


  これは、屋台のおやつに使う小銭。


  残りはだいたい串焼き八本分。


  きっと多分、この小銭では、ハイハイ札を貸してもくれない。


  なんで悪役のくせに、大金くらい待ち合わせてないのかって?


  家族は私に信頼と安心を得る事が出来なかったのか、大きなお金を握らせてくれたことはない。


  いつものお買い物は、係のお姉さんか警備員の誰かが払ってくれる。


  孤児院の運営資金だって、紙でしか見たことないよ。


  だから? つまり?


  この現状を、指をくわえてみてるだけ?


  それってやっぱり悪役らしくないんじゃない?「おほほほっ」て、登場しなくちゃ意味ないんじゃない?


  迫る子猫の競りタイム。


  「これはこれはお嬢様、そちらをお買い上げくださるのですか?」


  「…………」


  見上げると、変態仮面のヤバいやつ登場。変態とか言ったけど、ブラとかパンツはかぶってない。例えるならば、サディスティックに鞭でビシッてやる方の変態仮面。


  鞭……。


  腰についてるあれ、まじもんのほんまもんのやつじゃない?


  マジかよ。


  凶器に釘付けになっていた私。だけど変態仮面は意外にも、ブローチ一個との物々交換だけで子猫を私に譲ってくれた。


  そしたらね、学院でセオさんに、初めてめっちゃ怒られたの。



 

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