リリー18 (十六歳)




  「知らない人から物を貰ってはいけないと、言ってたでしょう!?」



  だよね、それ。過去世のマミーにさんざん言われ続けてきたやつ。


  あとそれとセットに、知らない人についていったらいけません、てのもあったよね。


  ただじゃないよ。ブローチと交換したよって言い訳したら、尚更怒りそうな雰囲気をかもし出したので作戦変更する。


  しょんぼりしてみせ、セオさんの怒りを中和させる。セオさんは二人の兄貴たちより粘着力が弱いので、直ぐにはがれて教師として現場復帰出来そうだ。


  よかったね。


  「それよりも、なんだか今日は、校内が静かではありませんか?」


  怒られていたけど気になってたんだよね。さっきから。


  一部の貴族生徒が社会見学に出ていないのは分かるけど、深緑の一般生徒たちも少ないような?


  「…特別授業が終われば、そのまま帰宅する生徒もいますからね」


  「え、そうなのですね」


  知らなかったなー。まさかうちの人たち、中央公園で待ってたりしなかったよね?


  警備員たちとの連絡ミスに、帰宅後の上の兄の静かな怒りが思い浮かぶ。


  でも、それにしたって静かすぎない?




 **




  布を被せた籠を抱えていたらね、まず黒色メンバーズの一人に廊下で驚かれ、そして学院玄関で警備員に驚かれ怒られ、更に家に帰ったら二人の兄貴に怒られたよね。


  どうやってゲットしたのか、追及されたよね。


  自白したら、珍しく下の兄貴も目を瞑って無言になったから、逆にハラハラしたよね。


  だからこそ。


  「ねぇ、にゃんっ、言ってみて、ねぇ、」


  子猫の可愛さで周りを押さえ込もうと努力したけど、被せてた布を取ってから丸まるだけの子猫は、ぜんぜん私に協力的ではなかった。


  むしろ子猫は、悪役の私に脅迫されているみたいにぷるぷるだったよね。


  でもなんだかんだで、お兄さまたちは仕事に追われてるみたいで、更に私の子猫持ち込み企画に二人で頭を抱え始めて、それ以上は怒られなかった。


  ほっ。


  パピーとマミーには、柔らかく表現して伝えてね。

 



 **

 



  夕御飯の後にやって来たのは、我が別邸の裏庭と称する森の中。


  「大丈夫」


  「……」


  私に大人しく抱っこされている子猫。


  水やミルクを口に入れても、葉っぱやお肉の欠片を近付けても、ぜんぜん何にも食べなかった。

 

  檻に入れられていた子猫(このこ)はね、可哀想だから自然に帰してあげようと思っていたんだ。


  ちゃんと警備員にいろいろとアドバイスも受けたよ。


  人間に飼われていたこが突然野生に帰されても、逆に生きていけないこともあるって、過去世のパピーに聞いていたから。


  (初めてこんなに奥に来た)


  鬱蒼とした裏庭の森。もちろん警備員たちも同伴してくれてる。


  「姫様」


  警備員師匠たちと黒色メンバーズも皆が緊張してる。


  月明かりが射し込む黒の森。青と黒の闇の中、よく見ると大きな影がある。


  熊なのか、それより大きいのか、動物園でしかみたことないから分からないけど、尖った耳にしなやかな身体のラインは猫っぽい。


  (でも絶対、ライオンとかより大きそう)


  離れた場所からこちらの様子を見ている。その時、両手の中の子猫がもぞっと動いた。

 

  (迎えに来たんだ。よかった…)


  皆はすごく緊張してるけど、私はなんとなくそう思った。


  手に包んでいた子猫をそっと下に降ろす。


  バイバイマスコット。


  本当なら、主人公のペットとしてか、安らぎキャラクターとしてか、画面の隅にnow roadingの度に走らされていそうなこの子。


  もう捕まるんじゃないよ。


  「さあ、行って」


  ーーガブッ!


  「…………、」


  「グーー」


  まじかよ、マスコット、私の手をかじりやがった。しかも今、ぐーーって、唸らなかった?


  タタッ!


  パピーがマミーの元へ、被害者として一目散に逃げていく。


  保護者の元に、無事にたどり着いた被害者子猫。ペロって味見をされている。


  「た、食べないでよ、」


  かじられた手を宙ぶらりんのまま、私は呆然と立ちすくみ、舐められている子猫を慎重に観察。


  そして、奴らはこちらに礼を言うこともなく、子猫は名残惜しげに私を振り返ることもなく、背を向けその場を素早く走り去った。


  「…………良かったのよね?」


  あれ? もしかしたら、今ので加害者レベルアップしたのかな?


 

 

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