リリー16 (十六歳)
「本じ……、来て……、ありが……」
うん、よく聞こえないけれど、頑張ってるね。
やっぱり手土産は警備員の皆様がすでに準備していて、私は馬車から商店街に降りる事はなかった。
またね、フルーツ飴。
訪問したピアンちゃんのお家は、超都会のど真ん中の大きな邸宅だった。
大きさは、うちの家には負けるけど。
ピアンちゃんのお部屋に案内されて、もじもじの見学をする。
「…、……、………、」
(聞こえないよ……)
だから椅子を隣にずらして、耳を澄ませて聞くことにした。
「………、………、」
私と同じく長い黒髪は、うらやましいほどのストレート。私はマミーに似てるので、緩やかに天然パーマがうねってる。でもピアンちゃん、学院ではサラサラ下ろしていたのに、今日は休日なのにパンツでスタイリッシュにポニーテールしてるよね。
まさか学院での私のスタイル、真似したの?
(いいじゃん…。真似っこ。新密度上げられてる?)
黄色っぽい目に褐色の肌。綺麗なお顔は耳まで真っ赤で汗だくだよ。なんかこれ、何にもしていないのに、私がこの子を苦しめてるの図?
私、悪役だからね…。仕方ないよね。
見回せば、ピアンちゃんのお部屋は以外と乙女感溢れてはなく、地図とか珍しい置物がいっぱいある。
(ご家族は有名な商人だって言ってたものね)
大半をピアンちゃんの発声練習に付き合いながら、おやつをつまむ。そんな感じでお茶会は終わったけれど、しょんぼり玄関で俯くピアンちゃんに、私は笑顔で頷いた。
「今日はとっても楽しかった。またの会を楽しみにしているわ」
「……はいっ!」
出たじゃん声。成果あり。
ほとんど会話は出来なかったけど、彼女の発声リハビリを口実に、私は次の外出、屋台チャンスを狙うことにした。
**
ピアンちゃんの家で過ごした休日。次の登校日には、久しぶりにグーさんがやって来た。
(そうだ、グーさんに聞いてみよう)
珍しく私の方からランチに誘ってみると、紳士なグーさんは断らなかった。内心、お断り仕返しされるかもと覚悟だけはしていた。よかった。
お昼休み。黒色メンバーズは少し離れて見守っている。そういえば、グーさんはあんまり、紺色たちと群がっているのを見たことがないな。気のせいかな?
「グランディア様の、ご兄弟はこの学院にいらっしゃるの?」
「そうですね。上の兄と弟たちは、在学していますよ」
「……一番上の方と二番目の方は?」
「彼らはもう修了し、国務を担当しています」
「え、」
意外だった。まさかの王太子と二番目が、この学院ゲームの生徒ではないのか?
いやいや待って。誰かとの繋がりで出てきたり、学校関係者だったり、生徒じゃなくても攻略対象はあり得る。
昨日一日考えて、多分ゲーム世界だと絞ることにした。
漫画や小説ならある程度主人公が思い出せるのに、それがぼんやりしてるから、やっぱりゲームだと思うんだ。
だって主人公の顔さえ思い浮かばないからね。
実物のフェアリーエルさんを見たって思い出せないのは、きっと主人公は吹き出しのみで、顔もあんまり描かれなかったゲームの可能性大。
「ご一緒しても、宜しいですか?」
「?」
グーさんと食後のお茶を飲んでいたら、ピアンちゃんがやって来た。
出てるじゃん。声。
ボイストレーナーとして、生徒の成長を温かく見守る私。
「もちろんよ。こちらにどうぞ!」
グーさんにも私の初お友達を紹介して、三人でおやつをつまむ。
和やかな午後休憩のひと時。
もちろん私は、周囲から主人公が見ていないか、柱や通路をしっかりチェックしていた。
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