第12話 タコメーター
七海ちゃんが突然言い出した持ち主のお爺ちゃんの事で、一瞬ビックリしちゃったけど、早速作業に取り掛かる事にして、舞華ちゃんと私で打ち合わせを始めた。
七海ちゃんはさっきの発言の後、柚月ちゃんに連れられて、ガレージの奥にある小屋みたいなスペースに入って行っちゃったよ。
みんなの話によると、あそこは塗装ブースなんだって。
ジムカーナ大会に出場したノートの塗装はあそこでやったんだって聞いた。正直、塗装なんて業者でないとできないものだと思っていたけど、部のノートを見ると凄く綺麗に仕上がっているので、何でも自分でやってみようという姿勢は大事なんだな……と思った。
2人で何を塗装するのかな? なんか、さっきから七海ちゃんの声で『お助けっスー!』って聞こえてる気がするんだけど、なんか舞華ちゃんも気のせいだって言うので、とにかく私は自分の作業に集中することにした。
今日は、まずは手元にあるタコメーターの取り付けをして、明日以降でやって来る水温、油温、油圧の計4つのメーターを取り付けるんだけど、4つもメーターをつけるとなるとスペースやレイアウトが重要になるので、ドライバーである舞華ちゃんと柚月ちゃんの意見を基に、レイアウトを決めているところなんだ。
エッセのスピードメーターは、ちょっと変わっていて運転席の目の前でなく、ラジオや空調などのある真ん中にレイアウトされているため、運転席の目の前ががら空きになっているので、そのがら空きになってる位置に4つのメーターを並べようという事なんだ。
でも、問題はどのメーターをメインに置いて、残りをどうレイアウトさせるかで、それによって、大きく変わってくるそうだ。
「メインはタコメーターだよ、大きさも一番大きいし、一番目にする情報だからね。でも、他の3つの優先順位は、常に見るんじゃなくて、要所要所でチラッと見る程度の重要性なんだよ」
と舞華ちゃんは言った。
確かに、普段の車の運転でも、タコメーター程の頻度で水温計は見ていないので、それらに関してはそうなんだろう。
でも、追加するには、重要なんだろう。残った問題は、あとの3つの重要性だね。
あ、柚月ちゃんと七海ちゃんが戻ってきた。
「燈梨ちゃん~、お待たせ~。それじゃぁ、始めようかぁ~」
と柚月ちゃんが言ったが、既にもう半分まで話は進んでいた。
「何言ってんだよ柚月、もう、タコメーターの位置までは決まったんだよ。あとは他の3つのレイアウトだよ」
舞華ちゃんが言うと
「だったらぁ、やっぱり水温メインじゃない~? ぶっちゃけぇ油温は水温が管理できてれば大丈夫なケースが多いし~、油圧だって、ノーマルエンジンなら~問題にはなりにくいじゃん~!」
と柚月ちゃんが言った。
柚月ちゃんの話し方は、妙に鼻にかかっている上に、語尾を伸ばすので、人によってはとてもイライラするって、前に舞華ちゃんが言ってたけど、確かに私の母さんだったら、イラっときてヒステリーを起こすかも……とふと思い出して、フフフっと思わず微笑んでしまった。
舞華ちゃん達と話し合った結果、レイアウトはスピードメーターの脇にタコメーター、そして、その脇に水温、油圧、油温の順番に置くことにした。
水温と油温を並べなかった理由は、同じ℃の単位のメーターが2つ並んでると、瞬時にどちらか分からなくて混乱する可能性があるんじゃないか? という舞華ちゃんの意見から決まった。
タコメーターの位置に関しては、どうやらスポーティグレードにはタコメーターが標準装備されていて、そのタコメーターの位置が、私達が決めた位置だったので、どうやら間違ったチョイスではなかったみたいだ。
置き場所が決まったので、早速タコメーターの取り付けにかかった。
最初に舞華ちゃん達と取り掛かったのは、
タコメーターが付いていなくても回転信号は、車の情報としてECUが把握しているケースがほとんどなため、そこから回転数を読みだすのだが、その線がどれなのかが分からないので、ここでも配線図の出番となった。
「同じ車種でも、年式によって違ってたりするから、事前の情報収集が物を言うよね」
舞華ちゃんがニッコリして言いながら、配線図を見ている間、私と柚月ちゃんは残りの線を接続していた。
他に必要なのは電源になる線と、アース線、あとは、ライトを点けた際のイルミネーション線だが、それらはオーディオの配線から容易く取る事ができたため、すんなりと繋ぎ終えて、あとは回転信号を残すのみとなった。
舞華ちゃんと悠梨ちゃんが、配線図に首ったけになって、運転席の足元の内装を外して見つけ出した線にタコメーター側の線を繋いだところで、エンジンをかけてチェックしてみた。
“ヒュルルルル……フイィィィィィィィィン~”
可愛らしい音をたてながらエンジンがかかると、タコメーターの針もピュッと動いたため、これで成功か……と思われたのだが、何故か次の瞬間、ブルブルと針が大きく震えはじめた。
しかも、1,000rpmと2,000rpmの間を振れているという、あまりにもあり得ない状態なのだ。
どうも、線を間違えているみたいだ。
「おっかしいなぁ、確かに、配線図上では、これが回転信号で間違いないんだけどなぁ……」
と悠梨ちゃんが言うと、
「悠梨、こういう時は、検索も使って有効的に探すんだよ」
と舞華ちゃんがスマホ片手に色々調べていた。
そして、運転席の足元にある配線をあちこち手繰りながら
「その隣にあるこの線に繋いで動いたって情報が幾つかあるぞ、やってみよう」
と言って、摘まみ上げた線に配線を赤い樹脂を使って割り込ませた。
そして、エンジンをかけてみると、今度こそはきちんとアイドリング回転を指していた。
そこから舞華ちゃんがアクセルを何度か空吹かししてみたが、きちんと踏んだ分回転数が上がり、放すときちんと回転数が落ちた。
「よしっ! これでオッケーだね」
舞華ちゃんが言ったので
「うんっ!」
と思わず嬉しくなって言った。
すると、舞華ちゃんがニッコリしながら
「燈梨、こういう感じでさ、ゆるゆる~っとみんなでやってく感じで、よくありがちなピリピリした部活とは違うから、気楽に活動に参加してよ」
と言ってくれた。
私は、次に舞華ちゃんと一緒にさっきコネクターで接続した線を一度外して、ギボシ端子と言う電源端子に作り替えて接続した。
先端が尖っている方がオス端子で、筒状になっている方はメス端子というんだけど、舞華ちゃんの説明では、車本体に繋がっている方の端子はメスで作って、機器側の方はオスで作るのが鉄則なのだそうだ。
どうやら、オス端子の先端は剥き出しになっているために、端子が外れて先端が金属に触れて万一ショートしても、機器が止まるだけで済むのに対して、逆だと車側にダメージが回って、最悪は停止してしまう可能性があるためだそうだ。
なるほど、こうやって具体的に説明して貰えると、頭にも入りやすくて、私にとっては凄く有り難かった。
今まで、機械いじりなんてやったことが無くて、今でもちょっとちんぷんかんぷんな面があるのだけど、こうやって分かりやすく一歩一歩と進める事ができるなら、何となくだけど、私にもできそうな、根拠はないけど大きな自信が湧いてきて、さっきまでの部活に対する不安は無くなったんだ。
そして、配線を作り直して接続し、メーターを仮固定した頃にはすっかり暗くなっていて、今日の活動はここで終了となった。
帰り際にスピードメーターの横に並ぶタコメーターの姿を見た私て、物凄い達成感と、この部に入って本当に良かったという満足感に包まれていた。
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■あとがき■
お読み頂きありがとうございます。
たくさんの★、♥評価、ブックマーク頂き、大変感謝です。
今後の、創作の大きな励みになりますので、今後も、よろしくお願いします。
感想などもありましたら、どしどしお寄せください。
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