第4話 部車紹介

 舞華ちゃんからの説明の後、七海ちゃんと沙綾ちゃんが部内について案内してくれた。


 「まずは部車から紹介していきますね」


 沙綾ちゃんが言って目の前にある白い車から説明してくれた。


 まずは、スカイラインのR32型のGTS-tタイプMっていう、2WDでは最強のグレードだそうだ。

 この車はパワーがあるから、主に運転練習の応用に使うのが主な使用用途らしい。


 次に同じく白のR32スカイラインだけど、4ドアで後部ドアの後ろに虹みたいな七色の模様が描かれている。

 これは前に見た部の案内に載っていた、1、2年生の免許取得に向けた練習に使う教習車だそうだ。


 「助手席にブレーキがあるので免許取得者が同乗して、いざって時は止めるんです」


 説明してくれた。


 「ねぇ沙綾ちゃん。私達クラスメイトで同級生だからさ、無理に敬語使わないで良いよ」


 私が言うと


 「それじゃぁ、いきなりは無理なので、少しずつ……」


 と答えた。

 この学校はこういう転入生は多いみたいだけど、やっぱりいきなりタメ語というのは難しいみたいだ。


 次は、ガレージから外に出て、すぐ隣にあるグラウンドみたいな所に移動した。

 なんか、自動車部らしからぬ場所だなと思ったら、最近までサッカー部とハンドボール部が使っていた球技練習場の跡地らしい。

 その練習場の手前側には、数台の車が佇んでいた。


 手前にあるシルバーのプレミオは、特にこの部に似つかわしくなかった。

 普通のおじさんの乗るセダンでAT、正直、何のためにあるのかが分からなかったが、七海ちゃんが


 「これは校長が元々乗ってた車で、部の設立条件に押し付けて行ったそうっス。使い道がなかったんだけど、今はグラウンド整備車になったっス」


 と言って後ろに回ると、バンパーが取り外されて、グラウンド整備用のトンボがいくつも取り付けられるように改造されていた。

 

 そして隣には、紫のムーヴも止まっていたけど、これも同じような用途なのかな? と思っていると、沙綾ちゃんが


 「これは、誰かが不法投棄していった物らしいですけど、今はグラウンドに水撒きする用途とか、荷物運びとかに使ってるん……だよ」


 と説明してくれた。

 どうやら、当時は今ほど活発に活動していなかった事もあって、そんな事もあったらしい。


 そして、隣には赤と黒のツートンカラーになった2つ前の型のノートがあった。

 ゼッケンと学校の名前、それに校章までもがボディに描かれているところから、競技に出ている物に見えた。

 すると、沙綾ちゃんが


 「このノートでジムカーナの学生大会に参加するんだ。今年のはこの間、マイ先輩とズッキー先輩が出場して、初出場で3位に入賞したんだよ!」


 とちょっと興奮気味に説明してくれた。

 興奮したおかげで、すっかり敬語が抜けたのが、私にとって心地よかった。

 更に沙綾ちゃんは


 「それでもうすぐこのエッセで、軽自動車の耐久レースに3年生全員で出場するんだ。こっちは、社会人の人達がメインなんだよ!」


 と更にテンション高めで言うと、隣に止まっていた、オレンジの軽自動車の方へと行ったのでついて行った。


 確かにこの車は、以前の私なら外観に学校の名前が書かれてるだけのお買い物軽自動車にしか見えなかったが、低い車高にちょっと太めのタイヤと軽量そうなホイール、更には室内にロールバーが組まれているこの状態を見て、ただ者ではない事がひしひしと分かった。

 すると、背後から


 「このエッセは、エンジンはノーマルですが、足回り変更と徹底的な軽量化を図った、足回りスペシャルっス!」


 と七海ちゃんがドヤ顔で言った。

 私もその話を聞いて、この競技の意味が分かった。

 これって、エンジンのパワーはイコールコンディションだけど、足回りとドライバーの腕で勝負するっていう、ある意味レースの極意って競技だよね。


 なんかこういう競技にも出る事ができると知って、私は凄くワクワクしてしまった。


 「出場は来年なんですけど、今年は3年生の出場のお手伝いで2年生の中から選抜メンバーが同行することになるんで……だよ」


 沙綾ちゃんがすっかり敬語に戻ってしまった。


 でも、大体の流れは分かった。

 今年は初めての出場ばかりだが、本番は来年以降、つまりは私達の世代が本格始動後初の選手として出場することになるんだ。

 私は、後でこれらの大会の事を調べてみようと思った。


 すると


 「燈梨さんっ」


 という沙綾ちゃんの声がしてふと気付くと、2人は更に向こうに止まっている車の脇に立っていたので、私も慌てて向かった。


 そこにはシルバーのまたR32型スカイラインの4ドアが止まっていた。

 さっきの教習車と同じかと思ったがこちらは2000ccらしい、トランクにはGTEというエンブレムがついている。ちなみに教習車は1800ccだそうだ。


 「これで基本の動きを学ぶっス! シングルカムなので、程々のパワーが扱いやすいっス」

 

 なるほどね。

 そこで、私は2人に訊いてみた。


 「普段は、どの車に乗って活動してるの?」

 「前は、このGTEが多かったんですけど、教習車が来てからは1、2年のメインは教習車での練習になってま……るよ」


 沙綾ちゃんが答えてくれて、七海ちゃんも補足してくれたんだけど、どうやら教習車は学校側の要請で入れたらしく、基本、免許取得前の人間は免許保持者が同乗で、運転の練習をするというスタンスのため、教習車が望ましいという事になったらしい。


 「でも燈梨さんは、どの車に乗っても良いと思うっスよ。免許もあるし、むしろ、燈梨さんに横に乗って貰って、色々な車に乗ってみたいっス!」


 七海ちゃんが語気を強めて言った。

 彼女が言うには3年生の大半は、ほぼ部の立ち上げと同時に免許が取れていたので、満遍なく楽しんでいたのだが、七海ちゃん達は教習車が来て以降、練習が教習車ばかりになってしまって、ちょっと面白くないらしい。


 「私は一発試験で免許を取るべく特訓したっス! 休み中には畑で爺ちゃんの軽トラを使って自主練習に励んだっス、この熱意が学校に伝わればきっと……」


 うん、七海ちゃん。それ、学校側に言ったら、褒められるどころか停学になるからやめた方がいいなと思いながら、七海ちゃんに声をかけようとしたら、沙綾ちゃんが七海ちゃんのお尻を蹴って


 「ナミ! それやったらマジ怒るよ、ナミの停学だけじゃすまないんだからね!」


 と怒りをあらわにして言った。


 「いてぇなぁ~、沙綾っち! お尻が割れ目が背中にまで達したらどうするんだよぉ!」


 と返したが、それを見た沙耶ちゃんは


 「最近、マイ先輩が、ナミのバカっぷりに気がついてきてるフシがあるんだから、気をつけないと、ズッキー先輩みたいになっちゃうよ!」


 と言ったので、私は思わず


 「柚月ちゃんが、どうかしたの?」


 と訊いてしまった。

 すると、紗綾ちゃんはちょっと気まずそうな表情になったがすぐに戻って


 「ズッキー先輩は、私達格闘系女子の神様みたいな人なんですけど、最近はマイ先輩にマウント取られて、土下座させられたり、パンツ脱がされたりして、カリスマが崩壊中なんです」


 それを聞いて私は、最初にあの2人に会った日の事を思い出した。

 確かに、あの日も舞華ちゃんと柚月ちゃんは、掴み合ったりしてたような気がするし、柚月ちゃんがイジられてたような気がする。


 そして、生徒用の駐車場の脇の黄色く仕切られたスペースには、見覚えのある深緑色の車があった。


 「これが、部の用事で外に出かける時に使われるシルビアっス」


 七海ちゃんが説明してくれたけど、これには見覚えがある。

 舞華ちゃんたちに再会した際に、彼女たちが乗っていた車だ。

 私がこの学校に入りたいと強く思った際に、彼女たちが乗っていた車なので、忘れようと思っても忘れられない車だ。

 それに……


 「燈梨さんは、これと同じシルビアに乗ってるんですよね?」


 沙綾ちゃんが訊いてきたので


 「うんっ、色は違うけど」


 と答えると、2人は私を羨望の眼差しで見ながら


 「良いなぁ、燈梨さんは車があって、しかもシルビアなんて超羨ましいんですけどぉ」

 「沙綾っちの言う通りっス! 羨ましいっス! 自分も運転は上手いのに、誕生日の壁が……」


 と言ってきた。

 私は、1年遅れでの学生生活は本当に大丈夫なのかと思って、本当に不安であったが、ことこの学校でこの部にいる限りはそんな心配は何もいらないと、改めて分かった。


 私の学生生活の不安が一気に消えてなくなった瞬間だった。


 ──────────────────────────────────────

 ■あとがき■


 お読み頂きありがとうございます。

 たくさんの★、♥評価、ブックマーク頂き、大変感謝です。

 今後の、創作の大きな励みになりますので、今後も、よろしくお願いします。


 感想などもありましたら、どしどしお寄せください。


 次回は

 部車紹介が終わり、遂に活動に入る事になった燈梨。

 その前に立ちはだかったのは……。


 お楽しみに。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る