第3話 活動初日
遂に放課後になった。
一度部に向かって行った七海ちゃんには、まだ教室で待機と言われたので待っていたが、しばらくすると戻って来て
「それじゃぁ、行くっスよ!」
と言われて七海ちゃんについて行ったんだけど、なんか妙な感じだった。
なんか七海ちゃんが先に歩いていて、曲がり角とかでは、何故かストップさせられて、七海ちゃんが先の安全を確認してから進む……みたいになってて、明らかにおかしいんですけど。
どういうことなの? って声をかけても全く聞こえてないみたいだし、一体どうなってるんだろ。
しばらく七海ちゃんについて歩いていくと、昇降口の近くで、先行した七海ちゃんが戻って来て
「燈梨さん。来ちゃダメっス! 沙綾っち!」
と言うと、脇の通路から薄い茶髪のロングヘアの娘が出てきた。
確か、名前は
大人しそうに見えるが、キックボクシング同好会に所属していて、高校生女子では全国1位らしい。プロのスカウトも受けていたが、断って自動車部に移籍したというツワモノだ。
そして聞いたところでは、七海ちゃんの幼馴染らしい。
その沙綾ちゃんが私の手を掴むと同時に、口に人差し指を当てて
「ちょっとアクシデントが発生したから、こっちから行きます。それと声は出さないでください」
と真剣な表情で言った。
私は引きずられるように、中庭から第二体育館まで上履きで移動させられて、第二体育館の奥にある部室へとやって来た。
部室の前で沙綾ちゃんは、ドアを開けて中を確認してから
「さぁ、入ってください」
と言うと、私の背中を押して中へと入れて、中にあるパイプ椅子へと座らせ、スマホでどこかへメッセージを送ると、直後に返信が入って、それと同時に七海ちゃんが入ってきた。
「ナミ、どうだった?」
「う~ん、なんか、水野の言い方が悪かったみたいで警戒してるんだよ。『お腹痛いから帰る』って言ってたけど、聞こえないフリして逃げてきた」
「あとは、ズッキー先輩に賭けるしかないね」
沙綾ちゃんが声をかけて、七海ちゃんがそれに答えていた。
何のことを言ってるのかよく分からないんだけど、ズッキー先輩っていうのは、恐らく3年生の
毒親から逃れて、これからどうやって生きていこうかに悩んでいた私とこの学校、そして別れてしまったかつてのクラスメイトの
年齢は同じだけど、私は家出期間の関係で、1年遅れの高校2年からのスタートなので1年先輩だ。
彼女はこの自動車部の副部長で、元は格闘系部活の名誉部長をやっていたらしい。
この部の1、2年生に、七海ちゃんや沙綾ちゃんのような格闘技経験者が多いのには、きっとこの柚月ちゃんが関係しているんだと思う。
一体どうしたというのだろう?
そんな私の表情を見た2人は、慌ててニコニコすると
「燈梨さんが気にすることじゃないっス!」
「もうすぐ、3年生も来るから待っててくださいね」
と言って、冷蔵庫からイチゴ牛乳を出して薦めてくれた。
私が一口飲んで一息ついたところで、通路からガヤガヤし始めた。そして
「放せよぉ~! 私はお腹が痛いんだって~! もし、明日重病になってたら訴えてやるぞぉ~!」
「さぁ、マイ~、いこか~!」
という柚月ちゃんと、もう1人の声と共にドアがガチャッと開いた。
すると柚月ちゃんに続いて、羽交い絞めにされて右足と左足をそれぞれ別の娘に捕まえられた娘が運び入れられて来た。
その娘の顔に見覚えがあった。
この娘こそが、自動車部の部長で、私をここへと導いてくれたその人だった。
名前は
私がこの学校にやって来て、最も会いたかった人間で、私の恩人の1人なのだ。
なんか物凄く騒いでるけど、そんなにお腹が痛いのかなぁ……でも、さっき七海ちゃんが言っていた言葉からするに、さっきの七海ちゃんの話の相手は舞華ちゃんのようだった。
すると舞華ちゃんは、私に気付くと驚いたように言った。
「燈梨ぃ! 燈梨じゃない!? いつの間に、転校してきたんだよぉ」
私は、それに驚いた。
私は転入試験を受けて合格した時に、綾香にそれを伝えたのだ。
綾香は、転入試験の時もわざわざ会いに来てくれて、その後も合格を伝え、その際に『舞華っち達には伝えた?』と訊かれ、まだ連絡してない旨を伝えると『だったら私が伝えておくよ。燈梨は色々忙しいだろうから、その方が良いよ』と言われていたのだ。
なのでそのことを舞華ちゃんに伝えると、彼女は脇にいた少し小柄な、色白で黒髪ロングの娘を、激しく睨みつけた。
この娘とも、前に会っている。
綾香の友達で、確か
舞華ちゃん達の計らいで、私と綾香が再会した時に彼女も一緒にいたのだ。
舞華ちゃんが赤いスカイラインで、この娘は、同じ型の白いスカイラインに乗っていたはずだ。
すると優子ちゃんは、ビクッとしてから
「ちょっと、ここのところ、ケータイの調子が悪くて、連絡が行ってなかったかもしれないね」
と明らかにウソと分かる言い訳をしていたが、舞華ちゃんから更に責められると
「悪気があったわけじゃないんだよ~、ギリギリまで伏せておいた方が、嬉しいかな~って」
と言っていた。
どうやらサプライズがしたかったみたいだ。
でも、どうにも上手くいっているようには見えないんだよね。
2人の話が終わった後で、舞華ちゃんが私の所へやって来て
「じゃぁ、早速今やってる活動を見て貰って、流れを掴んでもらうよ」
と言って立ち上がり、2人で第二体育館から出ると、隣接して建っているガレージへと案内してくれた。
実はこのガレージ自体は、学校見学に来た際に見学させて貰ったんだけど、時間の問題もあってさっと見ただけになってしまっただけに、今日は少しゆっくり見られるのが嬉しかった。
今は、文化祭に向けて展示の車を作ることに決まって、その作業に入っているとのことで、何台かの車が置かれていて、部員の娘達が外装や足回りの作業に没頭していた。
「今回は創部して初めての文化祭で、考える時間が無かったから展示だけだけどさ、反響次第で来年は出店とか、そういう事も考えて良いと思うよ」
舞華ちゃんはニコッとして言った。
そうか、来年の文化祭は私達の学年がメインでやることになるんだ。
なので、今年の文化祭は色々な面で勉強になる文化祭になるという事だ。
私は、今までまともに文化祭に参加した事は無かった。
クラスの出し物だって、可能な限りみんなと関わらないような最小限の協力をするだけだったし、当日も出し物の裏方の目立たない所にいて、適当に時間が過ぎるのを待っていただけだった。
でも、今年からは違うんだ。
部の展示を成功させたいし、来年の出し物に繋がるヒントも得たい。
私は思わず、拳を握って意気込んでいたところを舞華ちゃんに見られてしまい
「燈梨、あんまり意気込みすぎて、思いつめなくて大丈夫だからね」
と言われ、ちょっと恥ずかしくなってしまった。
でも、なんか部活が楽しくなってきた。
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■あとがき■
お読み頂きありがとうございます。
早速、★、♥評価、ブックマーク頂き、大変感謝です。
今後の、創作の大きな励みになりますので、今後も、よろしくお願いします。
感想などもありましたら、どしどしお寄せください。
次回は
再び七海たちの案内で部内を見て回る燈梨。
遂に部車たちが登場します。
お楽しみに。
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