第8節【ガゼルの叫び】

 あっという間に、悪魔の一団は壊滅した。


 騎士団も皆、死んでしまった。



 夢のなかで、何度もみた彼が目の前にいる。

 彼が、わたしを見ている。


 正確には、わたしのなかに居るラサを見ているのだ。



「わたしのなかには、悪魔が居ます。そのせいで、悪魔を呼び寄せてしまいます」



 なるべく平静を装いながら、そういうのが精一杯だった。

 きっと、彼――ラスタは、わたしになんて興味がない。ラサを見つければ、そっちを見てしまうんだ。



「悪魔をはらうためにも、世界を救うためにも、私はザイオンに向かわなければなりません」



 どうしようもなく、哀しい気持ちが胸を埋めている。

 だけどそれを、気取られたくなかった。



「お願いです。私を、ザイオンまで連れていってくれませんか?」

「悪いが、協力はできねぇ」



 ガゼルと呼ばれていた大きな男が、毅然きぜんとした態度できっぱりと言い放った。


「俺たちは只の盗賊団だが、目的がある。だから、教会のある大きな街までしか、送り届ける事はできない」

「それで、充分です。ありがとうございます!」


 頭にターバンを巻いた小柄な男――確か、ハンと呼ばれていたかな――が、静かに口を開いた。



「まずは、俺たちの拠点に案内してやる。詳しい話は、それからにしようか?」


 ほんの少しだけ、心が落ちついてきた。


 ほんのわずかな間に、色んなことが起きたのだ。無理もないよね。

 巡礼の旅が始まって、悪魔に騎士たちを殺された。そこにラスタが現れたんだから、正気ではいられない。


 いられる訳がないんだ。




   ●




「へい、グルービーヴォイスッ!」


 拠点ベースキャンプに着くなり、ガゼルが叫び出した。


「俺にゃイケてるフローは、到底むりだが、ぶってぇヴァイブスでぶん殴ってやる!」



 身体を揺らしながら、ハンが楽しそうに踊っている。何故かわたしの心も、踊っている。

 音楽だけが、わたしの唯一の『救い』なのだ。



「それで、こいつはクラクラッ! そんで、お前らメロメロッ! だからくれよ、Clap Clapクラックラッッ!」



 手を叩くガゼルに、手拍子が始まる。

 演奏者セレクターたちを手で静止すると、無音のなかで――手拍子のなかで、ガゼルの声が叫ぶように歌を続ける。



「おまえら、聞いてくれ。俺の腹んなかをさらけ出すから、笑わずに聞いてくれッ!」


 物凄く、真面目な顔をしている。とてもメロウなリディムで、それは始まった。



「俺にゃ、惚れた女がいる~。ヤバいくらいに、惚れている~」


 その場にいる全員が、耳を傾けている。



「だけど、昨日~。ふられちまったぁ~ッ!」


 リディムが止むと同時に、大爆笑が起きた。



 気づけば、わたしも笑顔になっていた。

 嫌な気持ちなんて、吹っ飛んでいる。


 今はとにかく、この時間を楽しみたい。


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