第4節【Rub-a-dab】

 眠りたくない。


 ――眠りたくないんだよ。



 わたしは時折――どうしようもなく、心がざわついて壊れそうになると――夜中に教会を抜け出すことがあるんだ。夜の街の灯りが、優しくこっそりわたしの心をなぐさめてくれるんだ。


 ゆっくりと、流れる景色を眺めながら歩くんだ。ひっそりと、穏やかに心をひそめながら歌んだ。



「わたしは、どこへ向かうの? わたしは、何をすればいいの?」


 音楽はわたしを、違う場所へ連れていってくれる。


「皆、死ねばいい。死んでしまえばいい」


 音楽はわたしを、別人に変えてくれる。



「すべて、壊れてしまえ。世界なんて、ぶっ壊れてしまえ」


 素直な気持ちを、音に籠めて歌うんだ。


「わたしは、聖女なんかじゃない。普通の女のこなんだ」


 流れる音とともに、わたしは目的の場所へと向かった。




   ●




 アップテンポな音楽と、流れるリディムが心を躍らせる。


 コザの街で生まれたラガは、聖教団では禁忌きんきとして扱われている。

 歌っているところや、聴いているところを聖教団に見つかると、異端審問いたんしんもんにかけられるのだ。

 だから聖女であるわたしが、ラガをやることは本来ならば御法度ごはっとどころの騒ぎではなくなってしまう。


 だけど、そんなことは関係ない。



「わたしは夜を抜けだし 〝Fremyフレミー〟な時間を過ごすの そう Microミクロいて この Rub-a-dabラバダブで吐いて 気持ち上げて Soソー Takeティキ itット Easyイージー



 周囲には見知らぬ男女が、わたしを含めて五人いる。



「街の外れにある この酒場が今宵こよいの〝Stageステージ〟 そんな墓場みたいな 場所 に集まった仲間 YoヨーSTANDステンダ UPップ〟 そう これが〝STANDARDスタンダード〟 だから次は お前がくれよ Nextネクスト Stageステージ!」



 わたしからのバトンを受け取るように、小柄なオジサンが後を続ける。


 グルーブもフローも、微塵みじんも感じないミジンコみたいなオジサンのラガ。正直、まったく上がらない。だけど教会で眠るよりも、幾分いくぶんかは良い。

 それまでリディムに身を任せて、身体を揺らしていた少女が間に入ってくる。突然の乱入に、ミジンコなオジサンが戸惑っている。そして少女は、可愛い――そんな声で、ラガをやる。



「下手くそなんだよ 下がってな! お前らも こんなクソみたいな音で 上がってんなよ!」



 小動物を思わせる少女――が、いきがってて、何だか可愛い。


「アタシのMagicマジックで 上げてやる! だから このlyricリリックで 歌ってやる! そんで 飛んで やるよ Ponポン de MICミック!」



 こちらを、手招きしている。


 少女がわたしに、喧嘩を吹っかけてきのだ。

 面白いから、全力で応えてあげる。



Ponポン de MICミック! を ありがと~」


 語尾を、とびきり可愛らしく歌う。


「だから 起こすぜ Pandemicパンデミック!」


 他の連中は、案山子かかしみたいにつっ立っている。


MIXミック な フロー で HELLOハロー HELLOハロー で 〝ARROWアロー〟 貫く心が クラクラする間に Warningワーニン Warningワーニン だから 聴いとけ わたしからの LOVEラブ LIVEライブ な 〝Rub-a-dabラバダブ〟」


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