魂の砂漠 ～聖女も悪魔も恋してる。ラバダブみたいな、熱い恋しちゃってる！～

第７節【Rude boy VS Groovy Voice】

「へい、グルービーヴォイスッ！」

　拠点（ベースキャンプ）に戻るなり突然、ガゼルが仕掛けてきた。

　ベースと金管楽器のセッションが、鳴り響いている鮮やかな音色に、気分が乗ったのだろう。ガゼルは俺のことを、【Groovy（グルービー） Voice（ヴォイス）】と呼ぶ。

「俺にゃイケてるフローは、到底むりだが、ぶってぇヴァイブスでぶん殴ってやる！」

　身体を揺らしながら、ハンが楽しそうに踊り始めた。

　ガゼルの声音は、めちゃくちゃでけぇし半端（はんぱ）ねぇ。だから俺は、ガゼルとのクラッシュにも余念はねぇ。

「それで、こいつはクラクラッ！」

　俺を指差してガゼルは、シャウトする。

「そんで、お前らメロメロッ！」

　両手を開いて、皆を煽（あお）る。

「だからくれよ、Clap（クラッ） Clap（クラップ）ッ！」

　手を叩くガゼルに、手拍子が始まる。

　演奏者（セレクター）たちを手で静止するガゼル。

　無音の中、手拍子のなかで、ガゼルの声が鳴り響く。

「おまえら、聞いてくれ。俺の腹んなかをさらけ出すから、笑わずに聞いてくれッ！」

　急に真顔になって、メロウなリディムで歌い出した。

「俺にゃ、惚れた女がいる～。ヤバいくらいに、惚れている～」

　全員が、聞きかじっていた。

「だけど、昨日～。ふられちまったぁ～ッ！」

　リディムが止むと同時に、大爆笑が起きた。

「ヤーマンッ！」

　俺の言葉に合わせて、ガゼルと拳を突き合わせる。

　手に伝わる衝撃と同時に、演奏者（セレクター）たちが息を吹き返す。

「くよくよすんなよ、Rude（ルー） boy（ヴォイ）！」

　ゴンフィンガーを天高く突き上げる。

「BUN（バン） BUN（バン）BUN（バン） 撃ち落とすshooting（シューティン） star（スター） 恋に落ちた奴が負け　なら 歌って 落とすぜ 恋の歌」

　手を上下に振り上げながら、あとを続ける。

「揺らすＢｅａｔ（ビート）で心ゆらす なら 降って 落ちるは 言の葉 shooting（シューティン）！」

　一気にリディムを加速させると、高速のラガを俺は軽やかに歌い始める。

「ブーイング は要（い）らねぇ 歌わんとなんも始まらねぇ から ここから沸かす 構わず打ち鳴らす音（ラガ）のＧＵＮ（ゴン） ぐわんぐわん ぶっ放すところ構わず撃ち放題 で Pon（ポン） de（デ） popopo（ポポポ） Pon（ポン） di（ディ） ＧＵＮ（ゴン）！」

「やるな、グルービーヴォイスッ！」

　間髪入れずに、音を割り込ませるガゼルの眼には、何故（なぜ）か涙が浮かんでいた。

「だけど 俺にゃフローはねぇ から 上げてかますぜ ヴァイブス頼みの ぶっ飛んだ ラガッ！」

　振られた女のことでも、考えているのだろう。

　ガゼルの声からは、異様な熱が感じられた。

「ぶっ放す言葉 愛の矢 なりふり構わず ぶち込み 上げてく Ｉ（アイ） ｌｏｖｅ（ラブ） Ｕ（ユー） から　俺のＨＥＡＲＴ（ハート）を あげます 捧げます」

　叫びという名のラガが、ガゼルの心をさらけ出していく。

「でも　でも　でも　ふられちまったぁ～ッ！」

　頭を抱えてガゼルは、首を大げさに振った。

「だって　だって　だって　あの子には　旦那が居たッ！」

　ガゼルのその声は、とても澄んでいた。

「で　ラスタは俺を 慰める そんで 俺はラスタに心を籠（こ）めて　ＫＩＬＬ（キル）を送るッ！」

　涙を拭いて、ガゼルがシャウトする。

「こい、ラスタッ！」

　まったく、ガゼルは面白いやつだ。

　ハンが腹を抱えて、笑っている。

「駄目、駄目、駄目！ 人妻は駄目 だぜ ガゼル！ だから この ラガ のリディムで 心 癒されちゃいな そんで 女のことなんか 忘れちまいな おいらは上げて沸かす音の信者 ＵＰ（アップ）なboiler（ボイラー）は 奏でて 外（はず）す恋のｄａｍａｇｅ（ダメージ）！」

　すでにガゼルの眼には、涙はなかった。いまはもう、笑顔しか浮かんでねぇ。

「次は だれ だれ 誰？ 殺す？ ガゼル だぜ へい Rude（ルー） boy（ヴォイ）！」

　リラがいつの間にか、身体を揺らしながら、こちらを見ていた。

　その表情には、笑顔が張りついていた。

「君は 誰？ 何故 俺を見るの？ 何故 おれ 君を見るの？ だって だって だって 君が 気になるんだ！」

　最後は完全に、リラに向けたラガだった。

　ラサと同じ瞳を持つ彼女が、気になって仕方ねぇ。

　だから、いつの間にか視線がリラに、吸い込まれていた。

　――不意に、リラのハミングが聞こえてきた。