第6節【聖女リラ】

 砂の暗幕が、聖女のシルエットを包み隠していた。


 大きく振りかぶった大剣・ベルセルクから、鈍い衝撃が伝わる。トカゲの悪魔の胴体が、腹から裂けて真っ二つになる。後方でハンが悪魔のもとに飛び込んでいるのが、気配で理解わかった。その両の手には、おそらくナイフが握られているだろう。



「へい、ベイビー!」



 ガゼルの叫び声。


 見ると巨大な炎のかたまりが、悪魔に向かって飛来している。

 ガゼルは強いが、加減を知らない。だから気をつけないと、巻きえをくらってしまう。俺は一目散に、聖女のもとに駆け抜けていった。


 ハンとガゼルが、悪魔を倒してくれるはずだ。



 ――光をくれ。



 鼓膜を震わせるラガが、心を揺さぶる。

 その澄んだ歌声は、聖女のものであった。


 だけど、その声はラサのものではなかった。


 頭の中を、大きな疑問が渦をまいていく。聖女の正体が、解らずに心が焦燥に駆られている。ラサだと思ったのに、そこに居るのはラサではなかった。



 ――光をくれ。



 聖女のラガが、光のおびとなって悪魔を縛りあげていく。自由を奪われた悪魔たちが、ハンとガゼルに次々とたれていく。

 次第に砂の暗幕が晴れて、聖女の姿を浮かび上がってくる。



「助けていただき、ありがとうございます。私の名は、リラと申します」


 甲高いその声は、ラサとは程遠いものだった。




   ●




 既に聖女ラサの護衛は、全滅してしまっていた。


 悪魔の群れも、こちらで殲滅(せんめつ)させた。

 残された彼女を一旦、保護することにした。



「私のなかには、悪魔が居ます」


 そういったリラの瞳には、ラサと同じ月瞳ムーン・アイズが浮かび上がっていた。


「そのせいで、悪魔を呼び寄せてしまいます」



 哀しそうに眼を伏せるリラからは、聖女の面影おもかげは感じられなかった。自分のる聖女のイメージ――といっても、ラサの印象イメージであるが――とは、まったくかけ離れている。



「悪魔をはらうためにも、世界を救うためにも、私はザイオンに向かわなければりません」



 自分の良くしるその場所は、コザの街の外れにあった。

 これも何かの因果なのかも、しれなかった。



「お願いです。私を、ザイオンまで連れていってくれませんか?」



 確かに悪魔に狙われるなかを、護衛もつけずに向かうのは無謀であった。


 ――だが。



「悪いが、協力はできねぇ」


 ガゼルの言葉は、決して無情などではない。



「俺たちは只の盗賊団だが、目的がある。だから、教会のある大きな街までしか、送り届ける事はできない」

「それで、充分です。ありがとうございます!」


 リラの表情が、とたんに晴れやかになった。


「まずは、俺たちの拠点に案内してやる。詳しい話は、それからにしようか?」



 すでに日は、傾いていた。


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