魂の砂漠 ～聖女も悪魔も恋してる。ラバダブみたいな、熱い恋しちゃってる！～

第２節【DEEJAY CLASH】

　クラッシュとは、ディージェイ同士の音のバトルだ。

　俺たちの暗黙のルールで、互いに二小節の２ターン制となっている。

　ハンのラガは、最高のフローに彩られている。だが、俺のラガだって、こんなもんじゃない。

「ふざけんな、ディージェイ。俺に恐いもんなんてねぇぜ。こめかみ、すれすれのＧｕｎ（ゴン） 躱（かわ）して、かますぜアッパーなフロー」

　ハンと俺のスタイルは、良く似ている。

　クラッシュの勝敗は、観客（かんきゃく）のノリで決まる。

「――ＢＵＮ（バン）！」

　ハンのこめかみに、ゴンフィンガーを突きつけて叫ぶ。

「ハン――の、本音は、俺が恐い。ＢＵＮ（バン）――と、ぶちかます、三つの弾丸。Ｒｕｎ（ラン） ＆（アン） Ｇｕｎ（ゴン）」

　オーバーアクションで、ハンの周りを旋回する俺。

「ＯＮＥ（ワン）――の、合図で皆が叫ぶ」

　俺の言葉に呼応して、皆が歓声を上げる。

「ＴＷＯ（ツー）――の、合図で俺が歌う」

　――ＢＡＮ（バン）！

　頭上に高くゴンフィンガーを向けて、叫ぶ。

「ＴＨＲＥＥ（トゥリー）――の、合図でハンが逃げる！」

　笑みを張り付けたハンが一拍、置いて歌い出す。

「逃げるのは、お前だぜ――ラスタ。一息で吐き出す lyrical（リリカル）なｎｕｍｂｅｒ（ナンバー）」

　跳ね上がるチューンが、観客（オーディエンス）を沸かせ始める。　

　ハンは毎度、二ターン目からがヤバいフローを流してくる。

「ragga（ラガ） do（ドゥ） the（ザ） ラスタに、ぶつけるＧｕｎ（ゴン） Ｇｕｎ（ゴン） Ｇｕｎ（ゴン）。吹っ飛ばす、ストレス。ragga（ラガ） to（トゥ） da（ダ） Ｒｕｎ（ラン） Ｒｕｎ（ラン） Ｒｕｎ（ラン） ラスタは、堪らず、降参だぜ。Ｒｕｎ（ラン） the（ザ） escape（エスケイプ）！」

　皆がハンのリディムに、揺られていく――惹かれていく。　

「Fingar（フィンガー） Ｐｏｎ（ポン） の 〝TRIGGER（トゥリガ―）〟 に籠（こ）めるは ＦＩＲＥ（ファイア） ＳＯＵＬ（ソウル） 集る仲間が、打ち鳴らす、万雷の ciap（クラップ） ya（ヤ） ＨＡＮＤＳ（ハンズ）！」

　沸き起こる歓声と、手拍子のなかで俺は切りこんでいく。

「Yo（ヨー） hands（ハンズ） ＵＰ（アップ）！」

　誰が優れていて、誰が劣（おと）っているなんて関係なかった。

「Yo（ヨー） hands（ハンズ） ＵＰ（アップ）！」

　俺は、俺の感じたまんまの音楽を、リディムに乗せて楽しむだけだ。

「万雷の音に、一番のＢｅａｔ（ビート）。俺は沸かすよ、ragga（ラガ）　ruffin（ラフィン）。一番乗りのラガマフィン」

　音に合わせて、身体を揺らす。

「Dan（ダン） don（ドン） di（ディ） now（ナウ）！」

　小気味の良いアップテンポのリディムで、上下に身体を燻（くゆ）らせる。

「燃やせ I（アイ） know（ノウ）,BURNING（バーニング） LOVE（ラブ）」

　ラガのリディムに、心地よく揺られている。

「Din（ディン） don（ドン） de（デ） love（ラブ）！」

　だけどこれは、どちらかが何方（どちら）かを殺すための勝負だ。

　悪いがハンには、死んで貰う。

「ハンにも送るよ。kill（キ） and（ランド） love（ロブ）の最高のＢｅａｔ（ビート）」

　リディムが終わっても、歓声は止まらない。

　拳を突き出して、ハンが笑う。

「やるじゃねぇか、ラスタ。この勝負、お前に持ってかれちまったな！」

　応えるようにして、拳をぶつける。

　それと同時に、ひときわ大きな声が上がった。それは、叫び声だった。

「旦那のおでましだな」