天命を受ける
下界 平頂山(ヘイチョウザン)
*平頂山とは、中国、河南(かなん)省中部の地級市。伏牛(ふくぎゅう)山脈の東麓、潁河(えいが)の支流沙河(さが)の北岸に位置する。4市轄区、宝豊(ほうほう)、魯山(ろざん)など4県を管轄し、1県級市の管轄代行を行う(2016年時点)。人口557万1000(2014)。良質な粘結炭を産出し、漯宝線(漯河(らが)―宝豊)、京広線の両鉄道で武漢(ぶかん)に移出して鉄鋼コンビナートを形成する。石炭、岩塩、鉄鉱石をはじめとする鉱産資源が豊富であることから、電力やコークス精製、化学肥料製造などの産業が発達し、工業都市となっている。*
大きなごつごつとした岩が降り立つ山の中、木々達が風に揺らされる。
青とオレンジが混ざった空から眩しい朝日が差し込み、灰色の雲が流れ行く。
美猿王達は白い岩で出来た長い階段を登っていた。
意識のない小桃を抱えてながら、緑来は黙って美猿王の数歩後ろから階段を登る。
「お前、あの沙悟浄って野郎と会ってから死人みてーな顔してんな。裏切った事に今更、後悔してんのか?あ?」
後ろに振り返りながら、金平鹿が緑来に声を掛けた。
だが、緑来は何も答えず黙ったままであった。
「んだよ、シカトかよテメー。辛気臭せーなぁ」
「やっと我が家に帰ってこれたよ。何年?いや、何百年ぶり?」
温羅が肩を回しながら、美猿王達に問い掛ける。
「百年どころじゃないでしょ、何千年とかじゃないの」
「おいおい、縊鬼。感動味がねーなぁ?」
「嬉しいよ、嬉しいけどさ。僕達はまだ、やる事があるでしょ」
そう言って、縊鬼は前を歩く美猿王の背中を見つめた。
「王、帰ってこれて嬉しいよ」
「ここは俺達の原点と呼べる場所だ。それに、俺の刀が眠る場所でもある」
「あの青龍刀(セイリュウトウ)だよね?王自身が作った刀」
「あぁ、俺にしか扱えん青龍刀だ。故に、神共が消滅したがっていた。ほら、見てみろ月鈴」
美猿王達が階段を登り切ると、辺り一面に白骨化した何百人の死体達が転がっていた。
白い石畳には、茶色に変色した血痕が至る所に付着している。
ただ、中心部分は汚れておらず綺麗なままだった。
照らされた太陽の下、キラリと光りを放つ何かの正体を知るのは美猿王だけであった。
「何だ?この死骸の数は。それに、コイツ等が着てんのは天界軍の鎧か?」
金平鹿はまじまじと白骨した兵士達を見つめる。
「王の言う通り、王の青龍刀を狙って来た軍人達みたいですね。青龍刀の方は無事でしょうか」
「真ん中だけが綺麗だろ?あそこに俺の刀がある」
「あそこに…ですか?」
「俺の作った刀は意志を持っている。世界が一度、終わった時だ。自分の意思で原点で、ここに戻って来たんだ」
夜叉の問いに答え、美猿王は転がっている死骸達を蹴飛ばしながら歩く。
美猿王が手を伸ばした瞬間、転がっていた白骨化した
死骸達が一斉に浮き上がった。
その瞬間、美猿王の目の前に紅色の薙刀が現れる。
*青龍刀(セイリュウトウ) 青龍刀とは、中国の刀剣の一種を指す日本での俗称。柳葉刀と青龍偃月刀の二つが混同されてしまっている。
日本ては薙刀、欧州のグレイブなどがある*
持ち手も刃も美しい紅色の青龍刀から、低い男の声が聞こえてきた。
「何千年振りに姿を見せたか、我が主人よ。少し…いや、随分と帰りが遅かったな。天界軍とやらが、ここに攻め込んで来たぞ」
「ここに転がってる死体どもは、お前に触れも出来なかっただろう?」
「お前が妙な術を我に掛けたからだろうが。それよりも、この死体共は食べて良いのだろう?」
「好きしろ」
美猿王がそう言うと、浮き上がっていた白骨化死体達が一つに集まる。
跡形もなく一つの光の玉になり、青龍刀の中へと入って行った。
「王の作った青龍刀"人喰い刀"。名前の通り人を喰らう刀。殺した人間の魂を食べて強化して行くんだったね」
「縊鬼、一人忘れてねーか?コイツを作るのにシュウセンが居ただろ?俺達の為に刀職人になり、お前等の刀を作った。白鬼の糞爺は?」
「僕の呪術で自害したよ。白鬼様…いや、爺さんは僕達を裏切ったんだから」
縊鬼は眉間に皺を寄せながら言葉を吐き捨てる。
「俺達はここを拠点として、神々達を滅ぼし世界を作り変える。その為には経文とやらが必要なようだ」
「あの時は、王が天之御中主神を殺して…。だけど、相打ちになっちゃったんだよね…。その所為で、世界が神の良いように作り変えられた。今のこの世がね。経文って?なぁに?」
「天之御中主神が死んだ時に、天之御中主神の強大な力を五本の巻物に封じ込めた物だ。どう言う訳か、五本の経文を持って天竺に行かなければ世界を変えられんようだ」
「天竺?」
美猿王の言葉を聞いた星熊童子は首を傾げる。
「これを見てみろ。天地羅針盤と言って経文の気配や妖、神の気配が色の付いたオーラを放っているだろ?それに、この天竺と書かれた場所には、虹色の光が放っている」
そう言って、黒風から受け取った天地羅針盤を星熊童子達に見せる。
星熊童子達は天地羅針盤を囲むように集まった。
「天竺はここからだと…、山を二つ超えた場所にありますね。世界を変えゆる力を分散したのは、手に入れにくくする為って事?」
温羅はそう言って、美猿王に問い掛ける。
「天之御中主神の復活を阻止したかった。それが九割の理由だろう。残りの一割の理由は分からんがな」
「その一割ってのが重要かもよ?王。なーんか、引っかかるんだよねぇ」
「そういやぁ、お前等が戦った人間のガキがいただろ。アイツが三本の経文を手にしている」
美猿王の言葉を聞いた金平鹿は、ハッとした表情を浮
かべた。
「あぁ、あの妙な四人組ですか。マジかよ、殺して取ってこりゃあ良かった」
「あのガキを殺しても経文は手に入らねーだろうよ。どう言う理屈が知らねーが、三蔵の体の中に経文が一時的に取り込めるようになっている。どっちかの手首に一つずつの経文の頭文字が浮かび上がってる筈だ」
「じゃあ、腕だけ斬り落とせば良いんじゃないですかね!」
「いや、三蔵の意思がないと経文は出せねーだろ。腕だけじゃなく、三蔵本人が必要になってくるだろう」
美猿王は金平鹿が出した提案を即座に却下する。
「そ、そっすよね」
「これだから単細胞は」
縊鬼はそう言い、金平鹿の事をチラッと横目で見つめた。
「あ!?」
「すぐキレそうになる所が単細胞なんだよ。少しは成長しなよね」
「何だと!?縊鬼、テメェ!!」
「おい、お前等。王の前で見苦しい言い合いはやめろ。2人はあっちの隅で喧嘩でもしてろ」
二人の言い合いの間に入った夜叉は、美猿王から二人を引き離す。
「先に残りの経文を手に入れた方が効率が良いだろう。この天地羅針盤があれば、悟空達よりも早く取りに行ける」
「この二本の白い光が経文のある場所?」
「あぁ、そうだ」
隣にいる月鈴が天地羅針盤を見ながら、美猿王に尋ねる。
「なら、別に私達が集めなくてもあの子達が集めるよ。だって、あの子達がこの世界の中心点なんだよ」
「どう言う事だ?月鈴」
「封印されてる間、木や水、土や風に教えてもらったの。ありとあらゆる自然から、この世界の摂理を聞いたの。この世界が作られたのは、次なる世界の足掛かりにする為なの」
そう言いながら、美猿王から離れ吹き行く風に身を任せた。
「五百年前、貴方の中で生まれた悟空と言う人格と源蔵三蔵の前世である金蝉(コンゼン)が出会った。その事が世界に大きな影響を与えたって」
「観音菩薩達が源蔵三蔵と悟空達に旅をさせたがっているのには、理由があるって事か」
「経文を集め天竺に辿り着かなければならない旅。私達は一度、世界が変わって行く瞬間を見たよね。だけどね、私達は知らなかったの。世界を変える為には、天之御中主神の死と"誰かの未来と命"が対価として必要だったって」
月鈴の言葉を聞いて、美猿王は一瞬だけ言葉を失った。
だが、すぐに美猿王は口を開く。
「最初の時は誰だったんだ」
「シュウセンだよ」
「シュウセンだと?」
美猿王はシュウセンの名前を聞き、思わず聞き返してしまった。
「自分から望んだ訳じゃないの。シュウセンは分かってたの。私達が消滅に巻き込まれないように、シュウセンだけが残って…。シュウセンが最後にこう言ったの。"革命は誰かの死の上で成り立ってる"って」
「俺達、妖と神達の長い戦でどれだけの死が着いてきたのか。今まで殺してきた奴等の顔も名前も覚えちゃいない。だが、俺はこれからもやり方を変えるつもりはねぇ。三蔵達が天竺に来るのを狙い、三蔵を生け贄にする」
星熊童子の肩を抱きながら、美猿王が言葉を放つ。
「成る程、つまり世界が変わる瞬間を狙う訳だ。俺達は三蔵達の旅を邪魔しないように、神々達や邪魔者を排除すれば良い訳だ」
温羅は頷きながら、美猿王に尋ねた。
「あぁ、まずは毘沙門天。奴の命を狙い、次に吉祥天だ」
「了解。牛鬼は?また王の邪魔をしてくるんじゃない?」
「いずれ、牛鬼はここに俺を殺しに来る。アイツの事だ、俺を殺す事しか考えてねぇ。それよりも、お前等は力を取り戻せ。その女の血を飲んで、まずは回復を優先しろ」
「はーい、分かりましたよ王」
そう言って、温羅はヘラヘラ笑いながら返事をした。
「殺しちゃわないようにしないと。お姫様を大事に扱わないとね?そうだよね、緑来?」
「は、はい」
緑来は下を向いたまま、星熊童子の問い掛けに弱々しく答えた。
「君は忠誠よりも愛を選んだだけ。後悔してる?裏切った事。それとも陽春を選んだ事?」
美猿王に抱き付きながら、星熊童子は緑来を横目で見る。
「そ、そんな事はっ」
「ない?嘘。だって、迷ってるじゃん。この世は一つしか決めれないの。二つなんて無理なの」
「は、はい…」
「腹括れよ、緑来」
星熊童子の低い声を聞き、緑来の体がビクッと反応した。
美猿王の体から手を離し、星熊童子は緑来の前に立つ。
ガッと緑来の胸ぐらを掴み、顔を近付ける。
「さっきから腹立つ態度だな、お前。そんなに後悔してんなら、泣いて縋れば。陽春を捨てでも、あの男の所に戻れば?言ったよね、役に立たなきゃ陽春を殺すって」
「それだけはやめてくれ…っ」
「苛々するなぁ、小桃って子を痛め付けた時点で悪人なんだよ。中途半端な善意は捨てろ、お前はもう戻れないんだから」
「…は、はい」
「姫、本当に此奴を引き入れるのか?見るからに使えなさそうだが」
星熊童子と緑来の会話に夜叉が割って入る。
「この子を連れ出す為に必要だっただけだし。別にいらないっちゃいらないんだよね」
「だったら殺そうぜ。邪魔になるだけだろ?」
「金平鹿が教育する?緑来の。私の言う事を聞くように」
「マジ?俺の好きにして良いのか!!」
星熊童子の言葉を聞いた金平鹿は、喜びの表情を浮かべた。
「駒は幾つあっても良いもの。ちゃんと調教するだよ、金平鹿」
「おう、任せとけ!!早速、連れてって良いのか!?」
「良いよ」
「おっしゃ!!あ、温羅、小桃って女を抱き抱えろよ」
「え、俺?仕方ないなぁ…」
そう言って、温羅は緑来から小桃を引き剥がし抱える。
「おら、行くぞ」
「ゔっ!?」
金平鹿は乱暴に緑来の髪を掴み、屋敷の中に入って行った。
「この子は地下室に放り込んどいて良いの?王」
「逃げられねーように鎖に繋いどけ」
「了解。縊鬼、手伝ってくれる」
「分かった」
温羅と縊鬼の二人も屋敷に向かって歩き出す。
「月鈴、お前は小桃の監視をしろ」
「私がしていいの?」
「あぁ、お前が適任だろう。それに、小桃の事を気に入っているだろ」
「ふふ、王ったら私の事を理解してるね。可愛いものは好きだからね。本当はあの赤ちゃんの白虎も欲しかったんだけどなぁ…。いつの間にか逃げちゃったみたいなの」
そう言って、星熊童子は鳥居の外側に視線を移した。
一方、その頃ー
深傷を負った三蔵一行は、天帝の屋敷内の一室で眠っていた。
「痛ってぇ」
苦痛の言葉を吐きながら起きたのは悟空だった。
見慣れない天井が視界に入り、自分達がどこかの部屋で寝かせれている事を理解した。
悟空はボーッとする頭で、状況を理解し始める。
窓から差し込む暖かな日差しが悟空の目に沁みた。
「クソッ」
小桃が美猿王達に攫われた事を思い出し、悟空はベットから出ようとした。
斬られて失った腕の所為でバランスが取れず、ベットから落下してしまう。
「ッチ、作り物の体だからなのか。腕が再生してねぇ」
チラッと三蔵達の方に視線を向ける。
三人の体には沢山の包帯が巻かれ、頬に張られたガー
ゼは血が滲んでいた。
手当されてもなお、痛々しさが分かってしまう。
ガチャッと扉が開き、顔を覗かせたのは天帝であった。
「おはよう、体の調子はどうかな?」
「お前がいるって事は、ここは天界か」
「観音菩薩達が君達を運んで、手当てをしたんだ。鬼達と戦ったそうじゃないか」
そう言って、天帝は近くにあった椅子に腰を下ろす。
「君が最初に起きていて良かったよ。話したい事があったからね」
「話?俺だけにか」
「うん、今の君の体は作り物だろう?式神の札に魂を宿されている状態だろう?斬り落とされた腕も再生されていない。そこでね?君に一つ提案なんだけれど…」
天帝は着物の懐から木で作られた人形を取り出した。
腹の部分には梵字が彫られており、悟空は見た事がないものだった。
「その人形がなんなんだよ。俺と関係あんのか」
「人形じゃなくて人形(ひとがた)と呼ぶんだ。君の魂をこちらに移し、今の体よりも強度になる。人形に使ったのは、数千年生き続け折れてしまった木から作ってある。ここまで聞いて、君ならピンと来たんじゃないかな?」
悟空は暫く黙った後、ゆっくりと口を開く。
「その人形に使われた木には神力が込められていて?それも数千年分の神力が?まさかだと思うが、お前と同等の神力じゃねーだろうな」
「ふふ」
「おいおい、その意味のある笑いはなんだよ。まさか、本当なのか?」
「大正解。君、賢いね」
そう言って、天帝は楽しそうに小さく笑う。
「何でまた、俺に…」
「ふふ、君に死んでもらっては困るからね。いや、君達に」
「利用する気満々じゃねーか」
「そんな事はないさ。それよりも、どうするんだい?その体のままでいる?いない?」
「え?どう言う事だ?」
天帝と悟空の会話を聞いていたのか、三蔵が困惑の表情を見せながら言葉を放った。
「あ、起きた?」
「起きましたけど…って、いやいや!?そうじゃないでしょ!!そんな事じゃないでしょう!?悟空の話でしょうが!!」
「あぁ、どこまで聞いてたの?三蔵君」
「え!?えっと…、悟空の魂を人形に移す的な話の所…?」
三蔵の慌てた様子とうって変わり、天帝は落ち着いていた。
「鬼達の封印が解かれ、君達は美猿王が率いる鬼達に負けた。幸いな事は観音菩薩達が早く、君達を見つけ出した事だよ?それに、天之御中主神の事は知ってるかな?」
「天之御中主神って…、確か世界と言う存在を作った神だったよな?鬼の伝承に載っていたし、最低な神だって事も分かったし…」
「伝承を読んだのか。なら、天之御中主神の説明は省いて良いね。さっきね、毘沙門天と吉祥天の神力を奪い取って、天界から追放したんだ」
「「は、はぁ!?」」
天帝の言葉を聞いた悟空と三蔵の大きな声が合わさる。
「「ど、どうした!?」」
ガバッと、猪八戒と沙悟浄が勢いよく体を起こした。
「うわっ!?」
バンッ!!
扉の勢いよく開く音に三蔵の声が掻き消され、部屋に入ってきたのは鳴神と雲嵐だった。
「大声を出してどうした!!」
「悟空、起きたのか!?大丈夫なのか!?」
雲嵐が三蔵達に声を掛ける中、鳴神は床に座る悟空に駆け寄る。
鳴神は、わさわさと悟空の体の至る所に触れまくる。
「痛ってぇな!!離れろ、親父!!」
「わ、悪い…?!つ、ついな…って、腕がねーじゃねーか!?」
「斬り落とされたんだよ。それに、この体は俺の体じゃねーんだよ」
「どう言う事なんだ?お前の体じゃないって…」
悟空は美猿王にされた事を鳴神に手短に説明をした。
鬼達の復活と閻魔大王が殺されていた事も。
沙悟浄達にも鳴神達にも、天帝から提案された事も話した。
天帝が沙悟浄と猪八戒に会議の内容を話していた時。
「あの天帝、一つ質問しても?」
「何かな?」
「何故、天之御中主神の力を奪い取れなかったのですか?」
沙悟浄の質問を聞いた天帝は、ゆっくり話し出す。
「悪神に変わった奴の中に触れてしまうと、私自身が奴に飲み込まれそうになってしまうからだ。嫌な言い方をすると、毘沙門天と吉祥天は私よりも位が低い。だから、二人から神力を奪う事が出来たんだ」
「つまり、天之御中主神は天帝よりも位が高いから手を出せなかったって事か。天界を追放出来ても、奴なら自在に来れるんじゃ?」
そう言って、猪八戒が天帝に尋ねた。
「そうならない為の追放令だよ。結界術の意も込められているんだ。天之御中主神中に神力は存在しない。奴の中にあるのは怨念だけ。強い怨念の力だけで、奴は生きている状態なんだ」
「マジかよ、怒りの感情だけで生きてんのかよ」
「そう言う事だ、鳴神。さてと、君達四人には私の加護を与えようと思ってね。これも天之御中主神対策だ。早速だけど、儀式の準備を進め…」
「「「「は、はぁぁ!?」」」」
天帝の言葉を聞き、三蔵一行が大声を上げた。
「ちょ、ちょっと天帝!!本気ですか!?」
「本気だとも沙悟浄よ」
「いやいやいや、天帝からの加護って物凄く貴重なものですよね!?同じ神でも数少ないと聞いてますが!?」
「何だそんな事か、猪八戒。鳴神も飛龍隊も羅刹天も、私の加護を受けているよ?」
「は、はぁ…」
猪八戒はそう言って、力なくベットに腰を下ろす。
「天帝、アンタは俺達に天之御中主神とやり合わせるつもりなんだな。加護を与えるだとか俺に体を与えるとか言い出したのも、その為なんだろ」
悟空が言葉を放った瞬間、空気が静まり返る。
「天帝、悟空の言った事は真実か」
「鳴神、君には申し訳ないがそのつもりだ。君達四人は天之御中主神と戦う運命なんだ。いや、天命と言うべきだろう。観音菩薩の未来予知で見えた未来なんだ」
天帝は静かに鳴神の問いに答える。
「すいません、天帝。天之御中主神と戦うのは後回しにさせてください」
そう言い放ったのは、三蔵だった。
「ん、ん?どう言う事かな」
「あ、どうせ戦う事が決まってるなら…。戦うしかないなって思うんですけど。まずは、美猿王に連れて行かれた小桃を助けに行きたいんです。悟空、ボロボロ
なのに助けに行こうとしてたと思うんで」
「小桃…と言うのは悟空の伴侶の女の子なのかな?」
三蔵から小桃の名前を聞いた天帝は、悟空に尋ねた。
「小桃は大事な女だ」
「君達に大切な人が出来る事に、何も言わないよ。生きていれば愛する人が出来るのも当然だと思うよ。悟空、もう一人いるだろう?気に掛けている人がね」
「牛魔王との因果を断ち切る事も、俺が優先すべき事だ」
「彼もまた、騙されて死んでしまった人間の一人だからね。だけど、君達は経文も集めなければならない。
その事を忘れてはいけないよ」
天帝の言葉を聞いた三蔵達は互いの顔を見つめ合う。
三蔵達の旅の目的、経文を全て集め天竺に行く事。
言葉を発しなくとも四人の気持ちは同じだった。
これは最初から変わらない旅の目次。
「なら尚更、私の加護が必要だ。さぁ、こちらに来てくれ、儀式の間に行こう」
三蔵達は腰を上げ、天帝の後を追い掛けるように部屋を出た。
逃げ出した白虎が向かった先は、とある人物の元だった。
牛魔王邸の森で木苺を取っていた百花の前に、泥だらけの白虎が現れたのだ。
「びゃ、こ?どうして、私が殺した筈…」
「ガ、ガウッ、ガウッ!!!」
「な、何?どうしたの…?」
「ガウガウガウッ!!!」
鳴き声を上げ続ける白虎を見て、百花は察した。
「小桃に何かあったの…?」
そう言って、百花は白虎を抱き上げた。
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