閻魔大王の宮殿に潜入せよ参

深夜零時丁度ー


閻魔大王はとある人物に呼び出しを受け、天界に訪れていた。


古い洋風の神殿に足を踏み入れると、教壇の前に毘沙門天と吉祥天が椅子に腰を下ろしている。


閻魔大王の姿を見た吉祥天は、ニヤリと笑う。


「相変わらずだなぁ、閻魔」


「ほ、本当に生き返ったんだね吉祥天…。閻魔帳から名前がなくなっていたから…」


「妾の夫が頑張ってくれたお陰じゃ」


そう言って、吉祥天は毘沙門天に視線を向ける。


毘沙門天は愛おしそうに吉祥天の頬を撫で、微笑む。


「来たか、閻魔」


声を掛けて来た人物の姿が暗闇に紛れて見えない。


だが閻魔大王は、姿を探すよりも早く返事をしなければならなかった。


「は、はい」


「ハッキリしない話も相変わらずだ。もっと、ハキハキ話したらどうだ」


「す、すみません…」


「そんな話をする為に貴様を呼んだ訳ではない」


月明かりの中に現れた天之御中主神は、教壇に腰を下ろす。


「鬼達はどうだ?大人しく封印されてんだろうなぁ」


「し、してるよ…。天之御中主神が封印したんだ。か、簡単に解けれないよ」


「その言い方だと見に行ってないな、お前」


そう言って、天之御中主神は閻魔大王を睨み付ける。


閻魔大王はビクッと体を反応させてしまう。


「お前、女に惚けていただろ。何の役にも立たないじゃないか」


顎に手を添えながら天之御中主神が呟く。


「ご、ごめんなさい…。だ、だけど、鍵と鬼の伝承は封印してあるしっ。だ、大丈夫だよっ」


「お前、何でその二つを一緒に封印してんだよ!?馬鹿なのか!?」


その言葉を聞いた吉祥天は大きな声を上げる。


「え、え?だ、だめだった?」


「封印が解かれたらどうする気だ!?」


「解かれたらって…?だ、誰にだよ」


「何で、お前は昔から頭が悪いんだ。その馬鹿さ加減が腹立つ」


閻魔大王は何故、吉祥天がそこまで焦るのか理由が分からなかった。


「今世の美猿王は前世の記憶がないのだな?毘沙門天」


「牛鬼が言っていましたから、確かです。今の美猿王には、悟空と言う人格がいます」


「ほう?詳しく話せ、毘沙門天」


「簡潔に話させて貰います」


毘沙門天は悟空の事と三蔵一行の事、これまでに起きた事を話した。


黙って聞いていた天之御中主神は、小さく笑う。


「成る程、俺の力を奪い取った理由が分かった。二代目の観音菩薩、現在はお前の宿敵と呼ぶべきだな。経文と言う巻物を五つに分け、力を封じ込めたのか」


「天之御中主神様、力はどのくらい残りましたか?」


「毘沙門天や、滅ぼす力だけあれば良いだろう。他の力はなくても良い。お前も目の前で見ただろ?現在の天部もこの手で滅ぼした。力を試すのに丁度良かった」


「美猿王の件は…、如何なさいますか?」


そう言って、毘沙門天は天之御中主神に尋ねる。


「今の美猿王に会いたいなぁ、俺の最高傑作に。あの可愛い顔に睨まれるのはそそるからなぁ」


「本当に美猿王の事がお気に入りですね?天之御中主神様」


「美しいからな、美猿王は。容姿も俺に逆らう姿もなぁ」


「本当に貴方は昔から悪い人」


天之御中主神の言葉を聞いた吉祥天は、小さく笑う。


「お前は少々…いや、かなり頭が悪い。それに危機管理能力もない。女と遊んでないで、しっかりと鬼達の様子を見に行け。良いな、閻魔大王」


「わ、分かったよ。い、今から行って来るから…」


「ならさっさと行け」


「う、うん」


毘沙門天に急かされるまま、閻魔大王は神殿を後にした。


「すみません、天之御中主神様。閻魔大王の事をちゃんと監視出来ていませんでした」


「昔からだろ?アイツの頭の悪さは。アイツが失敗したら、首を刎ねるまでだ。それよりも、牛鬼は?」


「そ、それが…。妙な力により、出て来れなくなってしまい…」


「妙な力…だと?」


「はい。牛鬼も美猿王と同様、もう一つの人格があるのです。何故か、牛鬼も一時的に封印されてしまって…」


その言葉を聞いた天之御中主神は、考え込む。


「天之御中主神様っ、毘沙門天は…」


「あぁ、別に毘沙門天を責めるつもりはないさ。そうか、牛鬼のもう一つの人格に会いに行こうと思ってな」


「そ、そうですか…。でしたら、すぐにご案内しますわ」


「吉祥天、毘沙門天。俺の為にこれからも働け」


天之御中主神は、機嫌の良さそうな顔をして言葉を吐いた。



その頃ー

閻魔大王邸の書庫前に居た三蔵一行と泡姫は…。 

  

「よし、閻魔大王が出掛けて暫く経ったし…。中に入ろう」


三蔵はそう言って、音を立て頭に書庫の扉を開ける。


「悟空、地下へはどうやって?」

 

「この書物を引き抜けば開く仕組みになってんだよ」

 

沙悟浄の問いに答えた悟空は、いやらしい絵が描かれた書物を抜く。

 

すると、本棚が音を立てながら動き始めた。


ゴゴゴゴゴゴゴッ…。


「「「おおおおおお…」」」


悟空と泡姫以外の三人の驚きの声が重なる。


「本当に地下への入り口があるとは…」


「それだけ重要なんだろ?鬼の伝承がさ」


猪八戒の呟きに沙悟浄が答えていると、泡姫が口を開く。


「早く行きましょう。音が立ってしまったし、誰かが来る可能性があるわ」


「確かに、意外と馬鹿でかい音が出ちまったよな…」


そう言って、三蔵は書庫の扉の方に視線を向けた。

 

「なら早く歩きなさいよ」


「はい?」


三蔵を一瞥した後、泡姫は睨み付けながら顔を逸らす。

 

その事に対して、三蔵は苛立ちを募らせる。


「おいおい、この二人…。何か、更に仲が悪くなってねーか?」

 

「三郎の毛嫌いが大爆発してるな…」


沙悟浄と猪八戒は、泡姫に聞こえない小さな声で話す。


悟空は黙って、地下への階段を降り始める。


「あ、待てよ!!」


三蔵と猪八戒もまた、悟空の後を追い掛けるように階段を降りる。


泡姫も降りようとした時、先に降りていた沙悟浄が振り返った。


そして、泡姫に向かって手を差し出す。


「何?」


「暗くて危ないからな。宜しければ、お手をどうぞ」


「…、変な人」


小恥ずかしい気持ちを隠したまま、泡姫は沙悟浄の手を取った。


地下室に到着した五人は、封印されている鬼の伝承と鍵が目に付いた。


「三蔵、解けそうか?」


悟空はそう言って、三蔵に尋ねる。


「小難しい封印術じゃないし…、いけると思う。あ、だけど悟空達が触ったら爆破するやつだから。触っちゃダメだよ」


「マジかよ」


三蔵の言葉を聞いた猪八戒がギョッとしながら呟く。


封印水晶に触れ、三蔵が一言だけ言葉を吐いた。


「解(カイ)」


そう言うと、水晶に大きな亀裂が入り音を立て壊れ始める。


パリパリパリパリーンッ!!!


粉々になった水晶が床に落ち、鬼の伝承と鍵が取り出せる状態になった。


「何だ、意外に簡単だったな」


「閻魔大王自身も見つからないと腹を括ってたのよ。今まで誰も奪おうとしなかったもの」


沙悟浄の問いに答えながら泡姫は鍵を取り出す。


悟空は黙って鬼の伝承を取り出すと、パラッとページを捲った。


その後ろから三蔵と猪八戒、沙悟浄が覗き込んだ。


「ん?これって…、美猿王と牛鬼の事が書かれてる?鬼だけの話じゃなかったのか?」

  

「それに天之御中主神…って、聞いた事ないぜ?そもそも、俺達が天界に居た時も誰一人も知らなかったよな」


沙悟浄と猪八戒が話しているが、鬼の伝承を読み進めた。


天之御中主神と言う奴が妖との戦争の為、半妖の美猿王と牛鬼を生み出した。


美猿王はとある妖の言葉を聞き、天之御中主神に対して不信感を抱いて…。


妖達が邪魔になった天之御中主神は、妖を追い出す為に濡れ衣を着せた事を知った。


地下に追い出された妖達は、天界人達に対して反乱を起こす。


美猿王は血統術を得る為に山に籠り、鬼達は監視をする為に山に籠った。


無事に術を会得した美猿王に、鬼達は王と讃え従うようになる。


鬼達と妖は美猿王の王としての素質を見抜いていたのか、心を開くまでに時間は掛からなかった。


だが、牛鬼もまた可哀想な半妖の一人だった。


醜い容姿の牛鬼は、神からも天界人からも距離を取られていた。


罵声を浴びせられ、ゴミを投げつけられると言う日々。


容姿の美しい美猿王とは、天と地の差の扱いを受けさせられた。


そんな時、天之御中主神は牛鬼に恐ろしい言葉を吐く。


美しい容姿の天界人の少年を喰べ、その容姿を手に入れてしまう。


牛鬼の持つ能力は、喰べた者の容姿なれると言うものだった。


戦から帰った美猿王はその現場を目撃し、二人の間に大きな亀裂の入る出来事になる。


牛鬼は美猿王に対して強い憎しみ、憎悪を抱く。


鬼達を率いて美猿王は、天界軍と戦いを始める。


敵の大将である牛鬼と刃を混じり合うのだが、勝敗は一目瞭然だった。


美猿王が牛鬼を殺した事により、美猿王は戦を勝ち取った。


鬼達と共に天界軍と戦い、最初の勝利を掴む事になる。


天之御中主神邸に訪れた美猿王と鬼達は、天之御中主神と交渉をした。


妖達が地上で暮らす事を…。


ズキズキズキッ!!!


悟空が読み進めて行くにつれ、頭痛が増して行く。


顔を顰めながら読んで行くと、一人の鬼の名前に目を止めた。


「"星熊童子"」


「え?」


「…」


悟空が思わず出てしまった言葉に三蔵が反応し、泡姫は何処か悟った表情を浮かべる。


星熊童子の名前を口にした瞬間、悟空の脳裏に映像が流れた。


神聖な神殿の教壇の前で、二人の男女が月夜の下で立っていた。


黒いレースのベールを被った黒と紫色のオッドアイの女。


同じ黒いレースのベールを被った美猿王が、向かい合わせに立っている。


その光景は婚姻の儀式のようで、二人はお互いを見つめ合っていた。


美猿王は女の頬に手を添え、口を開ける。


「月鈴(ユーリン)」


「王、私の残りの時間も命も全て貴方のもの。王が付けてくれた名前を呼ばれて、幸せ」


そう言って女は抱き付くと、美猿王も抱き返す。


「何故、俺は忘れていたんだ」


美猿王の苦痛の混じり合った声が頭に響く。


「天之御中主神、俺はアイツを殺す為に動いてた。鬼達、月鈴達と共に天之御中主神を殺す為に!!」


「月鈴って鬼…の女だよな?」


「お前が気安く名前を呼ぶな。その名は俺だけが呼んで良いものだ。アイツ等は何処にいる」


「知らねーよ。封印されてるみてーだけど」


「なら、さっさと代われ」


美猿王の様子がおかしい。


鬼の伝承を呼んで、少しは記憶を戻したみてーだし。


泡姫が持っていた鍵は、鬼達と関係してるのかと考える。


悟空の大方の予想だが、鍵は鬼達が封印されている場所の物だろう。


泡姫は美猿王の為に、鬼達の居場所を掴もうとしている事が分かった。


「天之御中主神、アイツが今世で蘇っていたら…。俺がこの手で殺す。あの野郎だけは…、生かしておけねぇ」


「いや、天之御中主神の名は何百年も聞いてない。昔に死んだ神だろ?」


「馬鹿か、テメェは。死んだとしても、蘇らす奴が現れるに決まってんだろ。いや、もうされてる可能性が高い。天之御中主神が復活していたら、お前等は間違いなく死ぬぞ」


「お前がそう言うって事は、ヤバイ神って事か。代われって言われても封じられてんだろ?お前」


「元々は俺の体だろうが。それに、この封印はもうすぐ解ける」


その瞬間、パリーンッと何かが割れる音がした。


「お前は舞台から降りろ、悟空」


「ふざけんなよ、美猿王!!代わられてたまるかよ」


「鬼達を復活させ、天之御中主神を今度こそ殺す」


「なっ!?」


悟空の意識の中に入り込んだ美猿王は、悟空の顔を掴む。


美猿王が不敵に笑いながら、悟空の意識を閉じ込めた。



源蔵三蔵 二十歳


悟空が頭を抑えたまま動かない。


「悟空…?大丈夫…」


心配のあまり、俺は悟空の肩に触れようとした。


パシッ!!!


「「え!?」」


悟空に手を弾かれたのを見た沙悟浄と猪八戒、二人の声が合わさる。


「ご、悟空?」

 

「気安く触るな小僧」


「こ、小僧?」


下を向いていた悟空が顔を上げると、茶金の瞳が赤く染まっていた。


女体化していた体はいつの間にか、本来の男の姿に戻っている。


「び、美猿王!?な、何で!?」

 

「人間が俺の名前を呼ぶな、殺すぞ」


ジャキッ!!


美猿王がそう言った瞬間、身動きが取れなくなった。


「?!」


俺の首を刺そうと血液の刃が至る所から伸びていた。

少しでも動けば首に刺さりそうだ。


「美猿王、やめてくれ」


「お前もだ、沙悟浄。俺の名を呼ぶな、俺の側に近寄るな」


ジャキッ!!


美猿王は猪八戒と沙悟浄の首元にも、血液の刃を伸ばしていた。


腕には爪で引っ掻いた傷から血が出ている。


いつの間に美猿王は自傷行為をしていて、周りに刃を仕込んでいたんだ。


「悟空の身体を傷つけるは、やめろっ」


美猿王のオーラに圧倒されそうになる。


声を絞り出して言うのが精一杯だ。


「なら、"悟空"だけ出してやるよ」


「は、は?どう言う意味で…?」


「悟空は言わば作られた人格だ。お前等は返して欲しいんだろ?なら、返してやるよ」


そう言って、美猿王がパンッと手を大きく叩く。


ポンッ!!


すると美猿王の体から、十四歳くらいの悟空が出で来たのだ。


体には同じく不老不死の模様が入っている。


「おい、悟空に何したんだ」


「そう睨むなよ、猪八戒。須菩提祖師とやらが愛していた悟空の姿のまま、出してやっただけだ」


「だから、どうやって悟空を出したんだって聞いてんだよ!!」


「…、そんな事が出来るはずがない」


美猿王と猪八戒の会話を聞きながら、心の声が漏れてしまった。


「そんな作られた人間を擬人化させられるなんて…。上位の陰陽師にしか出来ない事を…、美猿王は最も簡単にしたのか…?」


上位の陰陽師は自らの念を込め、式神を擬人化させる事が出来る。


俺が産まれるもっと前に、式神を擬人化させた陰陽師が一人だけいた。


これまで何人の陰陽師が挑戦したが、誰一人とも成功していない。


俺もまた挑戦したが、お師匠すらも出来なかった。


それ程までに難しい事を美猿王は一瞬でやり遂げた。


美猿王は半妖でありながらも、上位の陰陽師としての

実力もあるって事なのか?


「美猿王様…」


「泡姫。その鍵は鬼達が封印されている場所の鍵か」


「はい、美猿王様が戻られる前に開けておこうと…」


「お前は仕事早くて良い女だ」


そう言って、美猿王が泡姫の頭を撫でる。


泡姫は顔を赤くして嬉しそうに笑う。


スッと血液の刃が美猿王の傷口戻り、身動きが取れるようになった。


倒れている悟空に駆け寄り、身体を抱き起こす。


「悟空!!大丈夫!?」


「時間稼ぎをさせてやろう」


「は?」


美猿王は一体、何を言っているんだ?


泡姫が壁にあるスイッチを押すと、大きなサイレン音が鳴り響く。


赤と青色の電灯が光だし、只事ではない状況なのが分かる。


「お、おい。これって、警報ベルが作動したんじゃないか!?」


沙悟浄がそう言った瞬間、上から慌ただしいう足音が聞こえて聞きた。


まさか、警備兵達がもう来たのか!?


だけど、美猿王と泡姫もヤバイ状況なんじゃ…。


そう思い、美猿王達に視線を送ろうとしたが姿がなか

った。


「は?ま、まさか…。本当に俺等を囮にして逃げたのか!?ふざけんなあぁあぁあ!!」


俺は自分の頭を掻き毟りながら叫んだ瞬間、階段から警備兵達が降りて来てしまった。


「貴様等、何をしている!!!」


「ここは立ち入り禁止の筈だ。それを分かった上での行動か!!!」


警備員達が一斉に俺達に向かって剣を向ける。


「しゃーねー。ここを抜け出すしかなさそうだ」


そう言って、沙悟浄は女体化を解き本来の姿に戻った。

 

「お、男!?女じゃなかったのか!?」


「女なわけねーだろ。どう見ても男だろうが」


猪八戒も女体化を解き、本来の姿に戻る。


「三蔵は悟空をしっかり抱えてろ。俺と猪八戒が道を切り開く」


「二人だけでこの人数の兵士達を倒すのか?!ざっと数えて、三十人ぐらい居るぞ!?」

 

「大丈夫、これぐらいの人数なら余裕だ」


沙悟浄はそう言って、鏡花水月を取り出す。


猪八戒も紫洸を取り出していて、余裕の表情だ。


「コイツ等、戦う気だぞ!!」


「殺せ!!」


兵士達が一斉に二人に向かって剣を振い始める。


沙悟浄と猪八戒は互いの背中を守るように動き、次々と兵士達を倒して行く。


ニ対三十、数としてはこっちが不利な状況。


だけど、二人は傷一つ負わずに戦っている。


本当に二人は強いんだ。


天界で軍人として生きていた二人だからこそ、戦場での動き方を熟知している。


こんな状況なのに、自分は凄い人達と旅をしているんだと感動してしまう。

 

「オラァァァァ!!」


一人の兵士が俺に向かって、剣を振り翳しできたのだ。


「やべっ、一人取り残した!!」


猪八戒が慌てて、兵士に向かって銃口を向ける。

 

ビュンッ!!


ドコッ!!

 

物凄い勢いで如意棒が伸び、兵士の喉仏を突いた。


「ガハッ!!」


「悟空、目が覚めたのか!?」


「うるせぇ」

 

悟空は如意棒を元に戻しながら、起き上がる。


不機嫌丸出しのオーラを放っており、首をゴキッと鳴らす。


「な、何だ?こ、このガキ…」


「妖気が半端な…」


ガッ!!


悟空はいつの間にか二人の兵士の前に移動し、頭を鷲掴みにしていた。


「誰がガキだって?糞野郎」


ゴンッ!!


そう言って、悟空は兵士達の頭を掴んだまま床に叩き付ける。


「美猿王の野郎…、マジで許せねぇ…」


「悟空、平気か?」


猪八戒が恐る恐る悟空に声を掛ける。


兵士達も悟空に恐怖心を抱いたのか、後退りして行く。


「気分は最悪だがな、沙悟浄、猪八戒。さっさと片付けて、美猿王を追うぞ。三蔵もさっさと武器出せ」


悟空は俺に視線を向け、顎をクイッと上にあげた。

 

やべー、めちゃくちゃ機嫌が悪い!!


「こんなゴミどもさっさと片付けてるぞ」


そう言って、ゴキッと悟空は自身の指を鳴らした。



その頃ー


小桃と緑来は、居酒屋で出会った鬼とある場所を訪れていた。


小桃(桜の精)


赤い空の下、墓地の至る所に刀が地面一面に突き刺さっていた。


木々や花は枯れ、動物の骨らしき物が落ちている。


ただ赤い彼岸花だけが綺麗に咲き誇り、黒いアゲハチョウが楽しそうに飛んでいた。


異様な空間。


だけど、どこか美しく儚い。


「あの、この先にいるんですか?」


「あぁ、我等の姫君がお待ちしている」

 

「姫君…」


「花妖怪の血をお求めなのだ。丁重にご案内せよとの事」


小桃の血が必要…?


一体、何に使う気なんだろう。

 

長い山道のような道を歩くと、分厚い門が目の前に現れる。


「この門の先にいらっしゃる」

 

「いらっしゃるって…。この門は開くのか?」


緑来は門に触れながら鬼に尋ねた。


「迎えが来ているから大丈夫ですよ」


「迎え?」


その瞬間、バサッと黒い羽が空から舞い落ちる。


上を見上げると、大きな鴉が羽を広げながら地面に着地した。


「この鴉にお乗り下さい」


小桃と緑来は鬼に言われるがまま、鴉の背に腰を下ろす。


すると鴉はゆっくり上昇し、門を飛び越えて行く。

 

下から門の中の様子を見ていると、門の外の光景と何も変わらなく見える。


ただ、一つを除いては。


「姫様、分かる?」


「うん。肌に直に伝わってる程の妖気が」


緑来も小桃と同じく、星熊童子の妖気を強く感じていた。


真冬みたいに空気が冷え、喉が異様に乾く。


大きな鴉が大きな枯れ木周辺に着地した。


小桃達は警戒しながら鴉の背から降り、周囲を見渡

す。


大きな枯れ木を囲むように、木々達に巻かれた黒い分厚い鎖。


木の大木を見ると封印札が沢山貼られている。


ゾクゾクゾクッ!!!


急に背中に寒気と嫌な視線が突き刺さり、身動きが出来なくなった。


な、なにこれ…。


金縛りにあったみたいに動けない。


「やっと来た」


「「っ!?」」


小桃と緑来は声のした方に視線だけ向ける。


大きな木の上に星熊童子と思われる子が座っていた。

 

両手足に手錠と鎖が掛けられていて、白と黒の処刑服を着ている。


光のない真っ黒な瞳が小桃を捉えたまま、ゆっくり降りて来た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る