閻魔大王の宮殿に侵入せよ 弐
閻魔大王の宮殿に潜入して、約五日ー
メイド長によるマナー講座を三蔵一人だけが受けていた。
「四十三番!!姿勢が悪くなって来ていますよ!?」
「あいた!?」
ベシッと背中を叩かれた三蔵は、大きな声を部屋に響かせる。
マナー講座を受ける為の一室に大声を響かせる。
閻魔大王に気に入られなかった所為なのか、悟空達とは別部署の仕事を回される事になったのだが…。
「何で…、俺だけこの馬鹿みたいに広い風呂場の掃除なんだよ…」
大きな露天風呂が三つ設置されていて、至る所に不気味なオブジェが飾られている。
全体的に黒を基調としたデザインだ。
数人係で行う風呂掃除の仕事を三蔵は、今日から一人で行う事になった。
閻魔大王の目に触れない雑用ばかりを押し付けられてしまったのだ。
「くそジジィ…。明らかに俺だけを差別してんな」
ゴシゴシと泡の付いたスポンジで浴槽を掃除しながら、三蔵は呟く。
「アンタ、閻魔大王に気に入られなかったんだ。やっぱり、素材の違いかしらね」
「泡姫!?何でここに居んだよ…って、手に持ってるソレは?何用で…」
三蔵の背後に立つ泡姫の手には、鋭く光る短剣が握られていた。
「最初からアンタの事、嫌いだったんだよね」
「はい?」
「美猿王様を封じたのは何で?」
ゾッとするような冷たい視線を三蔵に向ける。
「悟空を取り戻す為だ。美猿王には眠って貰う必要があった」
「あの体は美猿王様の物よ。悟空様の物じゃない!!」
そう言って、泡姫が三蔵に向かって短剣を振り下ろす。
ブンッ!!
ドサッ!!
避けようとした三蔵だったが、落ちている石鹸を踏み転倒した。
泡姫は倒れた三蔵に馬乗りになり、短剣を振り下ろす。
ブンッ!!
キィィィン!!
咄嗟に転倒した時に落としたモップを手に取り、短剣の攻撃を防ぐ。
「殺して美猿王様に掛けた封印を解くっ!!だから、死んで」
「いやいやいや!?俺を殺す理由はそれかよ!?」
「十分じゃない」
そう言って、泡姫は短剣を強く握り力を入れながら突き刺す。
だが、三蔵も負けずにモップを握る手を強める。
泡姫の腹に蹴りを入れようとした時、ポタッと頬に何かが落ちる。
三蔵は落ちた物の正体がすぐに分かってしまった。
「何で、みんな…。あの人を悪者扱いするのよ」
「悪者扱いって言うか…。な、泣くよ泡姫…」
「アンタ等は美猿王様が酷い奴とか、悪逆非道だとか言うけどね。本当に酷いのは人間や神達なんだから」
「どう言う意味だよ、それ」
泣きながら話す泡姫の言葉を聞いた三蔵は尋ねる。
「どう言う意味って、そのままの意味よ。何にも知らないから、美猿王様だけを悪く見てる。"そうされている"とも知らずに」
「誰かが意図的にやってるって事か?」
「何にも知らないのね、アンタ」
泡姫が冷たく言葉を吐いた後、短剣を思いっきり床に叩き付けた。
「何も知らずに、あの人の側にいたの?」
「知らないって…。悟空は五百年生きてて、俺はまだ二十年しか生きてないだぜ?それに、美猿王の事を知ったのも本でだし…」
「本?ちょっと、それどう言う事」
「どう言う事って…?そのままの意味だけど?」
泡姫の慌てる反応を見た三蔵は、起き上がりながら首
を貸し傾げる。
「本の内容を教えて」
「え?内容…って…。良いけど…」
三蔵は泡姫に幼少期に読んだ本の内容を話す。
「須菩提祖師(スボダイソシ)…。成る程、ソイツが悟空って名前を付けたんだ。名前封じの術を掛けたのね」
泡姫は気に入らなさそうな顔をして言葉を吐く。
「なぁ、泡姫は美猿王とは…」
「アンタに関係ないでしょ。それに、アンタを殺したら術が解けないしね」
「何で、俺を殺す理由だけ聞いも?気に入らないだけ…、じゃなさそうだけど」
「陰陽師ってさ、神の真似事よね」
その言葉を聞いた三蔵は眉を顰める。
「泡姫、俺と喧嘩したいのか?」
「私の言葉に怒ってるならお門違いも良い所。だって、私は真実しか言っていないもの。人間も神も欲望を抑えられない獣なんだから」
泡姫は喧嘩腰に話をした後、三蔵を見下ろす為に立ち上がった。
三蔵の顔が更に険しくなり、怒鳴りたい衝動を抑える。
「早く術を解きなさいよ」
「断る」
「「…」」
二人の間に嫌な空気が流れる中、風呂場の入り口の扉が開く。
開かれた扉から現れたのは、悟空だった。
「悟空様っ…」
「今、来たのか…?」
悟空の姿を見た泡姫と三蔵は声を掛ける。
「泡姫、ちょっと来い」
「聞いてたのか?泡姫との話…」
「聞いてた。泡姫とは話をしなきゃいけなかったな」
そう言って、悟空は泡姫を見つめながら腕を掴む。
三蔵は悟空が泡姫に怒られないかと、内心はヒヤヒヤしていた。
「悪いな、泡姫。お前が天と邪と同じように、美猿王の事が大切だったな」
「…っう」
「お前の聞きたい事、納得するまで話そうぜ泡姫」
「…っ。は、はいっ」
悟空の顔を見ながら、泡姫はポロポロと涙を流す。
その姿を見た三蔵は、泡姫が心から美猿王の事が好きなのだと分かった。
自分に対して短剣を向けたのも仕方のない事だと。
泡姫の気持ちが強い故に起こした行動なのだと。
三蔵は風呂場から去る二人の背中を見送り、考え込んだ。
「陰陽師が神の真似事…」
右手首に記された恒天経文の"恒"、魔天経文の"魔"。
三蔵達が手にした経文は二本と言う証。
何故か三蔵が経文を手にすると、体に封印されると言う現象が起きていた。
「今夜、鬼の伝承の書を奪うんだ。さっさと仕事を終わらそう」
三蔵は再びモップを手に取り、掃除を始めた。
孫悟空ー
泡姫の手を引き、空き部屋に入り込む。
少し埃臭い使われていない布や割れた皿、足の折れた椅子や机があった。
薄暗い電灯が照らす中、泡姫の小さな泣き声だけが響く。
今だに泣き止まない泡姫に声を掛けてる。
「ここに来たのは、美猿王の狙いと同じだからだ」
その言葉を聞いた泡姫がピタッと泣き止み、驚きの表情を見せた。
「同じ…、狙い?」
「美猿王は、何度も輪廻転生を繰り返してるらしい。それと、五百年前の記憶しかない」
「私と出会った時の記憶しかないんですね。だけどっ、私は…。美猿王様と出会う前から知っていたんです」
「まぁ、美猿王は名の知れた妖だしな」
そう言うと、泡姫は首を横に振る。
「違うんです…。美猿王様には言っていない事がありました」
「言っていない事って?」
「私達、人魚は昔は天界の海に生息していました。それこそ、世界が出来た時からです。天之御中主神と言う神が居た頃の事です。私は天之御中主神の屋敷内にある池で飼われていて、美猿王様の事をずっと見ていました」
泡姫の言葉を聞いて、驚いた。
牛鬼が言っていた事は、いよいよ信憑性が出て来た。
泡姫と美猿王、牛鬼は何千年も生きてると言う事。
死んでは輪廻転生を繰り返し、美猿王と牛鬼は互いを殺し合っている。
今、この時代で二人は死んだら輪廻転生が出来ない。
つまり?
じゃあ、何の為に?
ただの因縁で殺し合いを続けれるのだろうか。
いや、もっと大きな理由もある筈だ。
「天之御中主神が、牛鬼と美猿王様を産み出した存在でした。この時代は、天界人と妖が争っていてました。世界が出来たばかりの頃は、妖と天界人は手を取り合って…」
「おい、泡姫。ちょっと待て」
「え?」
「泡姫が話す内容は、美猿王と俺が探してる書物の事を言ってるのか?」
「書物…って。鬼の伝承の事ですか?」
泡姫の言葉を聞いて頷くと、泡姫は考え込む。
「美猿王様は、記憶を取り戻そうとしているのですね。悟空様も同じ事を望んでいると…」
「お前が美猿王派なのは分かってる。が、鬼の伝承を手に入れるのを手伝って欲しい」
「悟空様はお優しい方ですね。美猿王様とは違う優しさを持っているのですね」
「そうでもねーよ、別に」
そう言うと、泡姫は小さく笑う。
「ふふっ、美猿王様と同じ言葉。いつも、美猿王様もそうやって言うから」
「来い、悟空」
ズキンッ!!!
頭に激痛が走り、脳内に美猿王の声が響き渡った。
意識が美猿王の空間と呼べる場所に飛ぶ。
俺の心の中にいる美猿王は、鎖に繋がれてるにも関わらず偉そうだ。
「お前、頭痛で呼びつけんなや」
「ハッ、俺の体を好きにして何が悪い」
この暴君め…。
封じられてる身で偉そうだよな…、コイツ。
「いつまで閻魔の下で働くつもりだ。さっさと鬼の伝承を取って来い。ダラダラしてんじゃねーよ」
「仕方ねーだろ、鬼の伝承の書物は厳重に保管されてんだよ。しかも、書庫の地下にだ」
俺は美猿王に言われる前に、鬼の伝承を探しに書庫に訪れていたのだ。
本棚から一冊ずつ探しても、鬼の伝承が見つからず仕舞い。
だが、ある一冊の書物を手に取ると、本棚が音を立てて動いた。
地下に続く石階段があり、降りると地下室に到着した。
鬼の伝承の書物らしき物と鍵が、水晶の中に保管されているのが見える。
一目で見て結界が貼られているのが分かった。
たかが、書物一つに結界を張る必要があるのか?
それほどまでに、"誰か"に見られたらまずいらしい。
「ッチ。おい、悟空。どのみち、結界を解いたら騒ぎは起きる。なら、時間を掛けずにさっさとしろ」
「分かってる、行動に移すのは"今夜"だ。閻魔大王が不在の時を狙ってな」
「ただの阿呆ではないようだな。いずれ、俺の体を返して貰う。それまでは好きに使え」
美猿王がそう言うと、急に意識が戻る。
心配そうな顔をした泡姫が、俺の顔を覗き込む。
「大丈夫ですか?」
「あぁ、泡姫。お前の探している鍵だが、地下にあるのを見つけた」
「えっ?」
「だが、結果が貼られていてな。三蔵の力を借りるしかない。俺の言いたい事が分かるよな」
俺の言葉を聞いた泡姫は黙って頷く。
「今後、三蔵には手を出すな。分かったな」
「はい」
「そろそろ、閻魔大王が散歩から帰って来る。戻るぞ、泡姫」
「分かりました」
俺と泡姫は空き部屋から出て、閻魔大王を迎える準備を始めた。
同時刻 下界
牛魔王の居場所を突き止めようと、天邪鬼の二人と丁達は妖達に聞いて回っていたのだが…。
「おい、天!!!何で殺した!!!」
偵察から帰宅した丁が、天に向かって声を荒げる。
「あ"?お前に関係ねーだろ。てか、殺すなって言われてないしぃ」
天の足元には妖怪達の死体が地面に転がっていた。
血溜まりの中にいる妖達は、体の原型すら残っていない。
残虐な殺し方をしたのは一目瞭然だった。
「隊長の言う事が聞けねーのかよ、お前は!?」
「うるさいなぁ、李。ここで殺しても良いけど」
そう言って、天は李に中華包丁の刃を向ける。
「あぁ、上等だよ。前からお前には不満があったんだよ!!」
「あはは、じゃあ…」
李が鎌を構える前に天が背後を取り、首元に中華包丁のはを当てた。
「やめろ、二人共!!若の命令を忘れたのか!?」
「二人、共、やめて。止める」
胡と高が天と李の間に入り仲裁するも、二人の熱が冷めない。
ガサガサッと茂みから音がし、現れた人物を見て皆が驚く。
何故なら、邪と共に現れたのは紫希(シキ)だったからだ。
だが、紫希の存在を知っているのは邪だけである。
邪と紫希が再会したのは、ほんの数分前の事。
宝象国から離れた森の奥で、邪は隠れていた妖達を引き摺り出していた。
「ひっ!?」
「何で隠れたのかな?こっちは聞きたい事があるんだけど」
「な、何だよお前っ」
「君達、牛魔王側の妖でしょ」
「「「っ?!」」」
邪の言葉を聞いた妖達の反応を見て、邪は確信に変わる。
「教えてくれないかな?牛魔王邸がどこにあるか」
「だ、誰が教えるか…っ」
ブシャッ!!!
目の前にいた紫色の狼人の首元から血が噴き出す。
「死にたいなら良いんだよ?教えなくても」
「ひっ!?」
「ぎゅ、牛魔王様の邸は天竺の近くだ、だ」
「そっか」
ブシャッ!!!
邪の問いに答えた妖の首元を容赦なく爪で掻き切った。
「お、お前っ!!俺達を騙しやがったなぁ!?」
「見逃すなんて一言も言ってないでしょ?俺」
「なっ!?」
「誰がお前等みたいな低俗を助けると思ったの?笑える」
そう言って、邪は血が付着した爪を舌で舐めとる。
ものの数秒で残りの妖達を殺した後、近くの湖で手を洗っていた時だった。
ガサガサッと茂みから音がし、邪は顔を向ける。
「えっ?嘘…」
「久しぶりだね、元気にしてた?お嬢さん」
茂みから現れた紫希は、邪の顔を見て泣きそうになった。
「ど、どうして、ここに?」
「君に会えそうな気がして」
「っ!!あたしに会えると思って…?」
「そうだよ」
邪は息を吐くように嘘を吐く。
だが、紫希は邪が嘘をついてる事に気付かなかった。
何故なら邪は口が上手く、相手の望む言葉を言う話術を持っていたのだ。
まんまと邪の話術にハマった紫希は、邪に恋に落ちてしまった。
「君の名前を聞いていなかったから」
「紫希、紫希って名前…なの」
「綺麗な名前だね」
「あ、ありがとう…」
邪は手の水滴を払いながら立ち上がり、紫希に近寄る。
そして、さらに甘い言葉を囁く。
「椿の花言葉は知ってる?」
「花言葉…?どう言う意味なの…?」
「至上の愛らしさ、申し分のない魅力。君のような花だと思わない?」
「…、嬉しい」
紫希は自分の口を手で押さえながら、泣きそうになるのを堪える。
「貴方の名前を聞きたかったの、ずっと」
「僕?僕の名前は邪だよ」
「邪…、会いたかった」
そう言って紫希は邪に抱き付く。
「紫希、僕の手伝いをしてほしいんだ。君にしか出来ない事なんだ」
「何?貴方の為なら、何でもするわ」
「ありがとう。牛魔王邸まで案内してほしいんだ」
「分かった。今なら毘沙門天様もいないから、大丈夫だと思う」
「じゃあ、一緒に僕の仲間の所に行こう。大丈夫、君に害を出す奴等はいないから」
紫希の髪を撫でながら、邪は優しく囁く。
もう、紫希は邪の言葉しか耳に入らなくなってしまった。
邪は微塵(みじん)も紫希に恋愛感情を抱いていない。
寧ろ清々しいくらいの馬鹿だと、嘲笑った。
紫希は邪にとって、かなり都合の良い女を見つけたのだ。
この森で出会ったのも偶然だが、紫希は運命だと言った。
だが、邪にも良い誤算だった。
「貴方の言う言葉を信じる」
「行こう、紫希」
紫希の手を引き、邪は丁達の元に戻った。
そして、現在に至る。
「お前、誰?兄者の腕にしがみついてんの?」
「良いでしょ?別に、あたしの男なんだから」
「あ"?この糞女。誰の男だって言ってんだよ」
今にも斬り掛かりそうな天を止めたのは、邪だった。
「天、この子は牛魔王邸の場所を知ってる」
「本当なのか?それは、その女が嘘をついてる可能性だってあるだろ」
丁はそう言って邪に問うが、答えたのは紫希だった。
「あたしは、毘沙門天様に作られた妖怪人間よ。牛魔王邸にも行き来しているし、案内出来るわ」
「毘沙門天側の人間が何故、俺達に場所を教えるんだ。こちらとしては嬉しい話だが、罠の可能性もあるだろ?」
紫希の言葉を聞いた胡は、紫希に尋ねる。
「牛魔王は今、かなり弱ってる。毘沙門天様も自分の屋敷に篭っているし、吉祥天様もいない。周囲に留まるくらいなら、大丈夫だと思う」
「牛魔王が弱ってる…って、マジかよ。てか、何で弱ってんの?」
「魔天経文で斬られた傷が腐ってきてるみたい。それに精神的にも弱ってる。理由は知らないけど」
李の質問に紫希は髪をいじりながら答える。
「成る程…、若が負わせた傷のダメージが大きいのか。流石、俺達の若だぜ!!」
「うるさいよ、李。君がこちら側に情報を流してくれた理由は?」
そう言って、胡は紫希に返答を求めた。
「だから、あたしは邪の女なの。自分の男に協力しているだけで、何が悪いの?」
「いや、悪くはないが…」
「案内してあげるから黙って着いて来て。邪以外の奴等は信してないから」
その言葉を聞いた天は、フッと嘲笑った。
「何がおかしいの、アンタ」
「いやぁ、別に?僕の方が兄者の気持ちを理解出来るだけー。好きにしたら良いよ」
「はぁ?」
「どうぞお幸せにー」
さっきまでの態度と変わって天は、紫希を小馬鹿にする。
天邪鬼の二人は言葉を交わさなくとも、互いの考えが分かるのだ。
天は邪が昔から使うこの手があまり好きじゃなかった。
だが、これも自分達の王である美猿王の為だと知っていた。
邪もまた天が嫌がる事を知っている為、騙した女を抱いたりはしない。
その事も天は充分に理解していたのだ。
紫希の案内の元、牛魔王邸が見下ろせる崖付近に到着した。
全体的に明かりが少なく、どんよりと重い空気が漂っているのが遠目からでも分かる程。
牛魔王邸の周りにある木々達は枯れ、鳥や動物の死骸達が至る所に落ちていた。
「若と来た時は雰囲気が…」
「あぁ、アンタ等の王様を貶める為に呼んだ宴の時ね」
紫希の言葉を聞いた丁達は、今にも武器を出しそうな雰囲気に変わった。
「屋敷の雰囲気が変わったのは、美猿王が封印された後ね。牛魔王が急にやる気と言うか、覇気がなくなったみたいに寝たきりになったのよ」
「はぁ?!牛魔王が若を騙して封印したんだろ?!」
「牛魔王の周りにいた奴等は、皆んなそう思っていたわ。だけど、当の本人があの調子だったしね。誰も聞かなかったからね」
「んだよ、それ。納得いかねー!!」
そう言って、李は自身の髪を掻き毟る。
「成る程ね、牛魔王には決定的な弱みがあるのか。それは、間違いなく僕達の王だ」
「だとしたら、今が牛魔王を殺すには絶好の機会じゃないのか?」
「いや、それは無理よ」
邪と丁の会話に紫希が割って入り、正論を述べた。
「牛魔王邸には新たな六大魔王達がいるの。牛魔王の警護もしてるし、周囲の警戒もしてる。特に、白沢(ハクタク)って奴が厄介」
「じゃあ、俺達がここにいんのもまずいんじゃない?」
「大丈夫。ここの周辺はあたしの見回り担当なの。だから、他の奴等が来る事は滅多にないわ」
「牛魔王の様子を聞くには、紫希の協力が必要だ。頼むね、紫希」
邪に頼られた紫希は、嬉しそうに表情を喜びの笑みに変える。
「うん!!任せて。あたし、そろそろ戻るから。また、夜に会いましょ」
そう言って、紫希は足早にその場を離れた。
「おい、邪。本当にあの女を信用する気かよ」
丁が不信感を持ったまま、邪に尋ねる。
「ん?僕は信用してないよ」
「は?じゃあ、何であの女にこっちの存在をバラしたんだよ」
「あの子が僕の事を信頼しているし、好きみたいだからね。向こうから裏切る事はないよ。"僕"が裏切る事があっても」
「良い性格してるよ、お前は。話術で騙したって事だろ」
邪の返答を聞いた丁は、苦笑いしながら言葉を吐く。
「騙される方が悪い。僕の嘘を信じているうちは、優しくしてあげるつもり」
「兄者は昔からそうだよねー。女が我儘になったら、殺しちゃうんだから」
そう言って、天はから邪に抱き付く。
「長生きしてると、楽しみを見出さないとつまらないからね。それに天が先に殺しちゃう方が多いだろ?」
「だって、鬱陶しいんだもん」
「そりゃそうか」
邪は優しく天の頭を撫でる中、丁達は野宿の支度を始めた。
着々と鬼達は密かに世界を滅ぼす準備を始めていた。
全ては、自分達の王の為に。
まだその事には誰一人、気付いていなかった。
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