閻魔大王の宮殿に潜入せよ 壱

同時刻ー


小桃の実家兼、屋敷に滞在していた三蔵一行等は…。


如来(にょらい)に貰った女体薬の錠剤を飲んだ後だった。


ボンッ!!!


ピンク色の煙に包まれた四人の体が、女性のものへと変貌を始める。


煙が晴れ、四人の姿を見た妖達と明王(みょうおう)は目を丸くさせていた。


「「「「おおおおおお…っ」」」」


四人の見事なまでの変貌ぶりを感じ、声が漏れ出す。


「お前…、伊邪那美命(いざなみ)にソックリじゃねーかよ」


悟空の姿を見た明王は驚きながら言葉を吐く。


赤茶色の長い髪に白い肌、ピンク色の唇に茶金の瞳は生前の伊邪那美命にソックリだった。


違う所があるとすれば、不老不死の証があるだけの事。


「若、めちゃくちゃ綺麗!!」


李(リ)が興奮気味になりながら、悟空に近寄る。


「そりゃどうも。まぁ、俺の姿に釘付け過ぎだろ?丁。鼻血が出てんぞ、お前」


「え?」


女体化した悟空の美しさに見惚れいた丁は、鼻から鼻血が出ている事に気付かなかった。


「だ、大丈夫ですか?隊長」


「あ、あぁ。だ、大丈夫だ」


「本当にお綺麗ですよ、若。隊長が鼻血を出すくらいですし」


胡(フー)は持って来たの布を丁に渡し、悟空に視線を向ける。


「褒め言葉として受け取っておくわ、胡。丁、そんなに綺麗か?俺が」


「ちょっ、勘弁して下さいっ」


悟空は丁の反応を揶揄うように、距離を詰めた。


「沙悟浄は雨桐(ユートン)に似てんな。髪が長くなった感じの」


沙悟浄の女体姿を見た猪八戒は、長くなった髪を弄りながら呟く。


「そうか?」


「うぅ…っ、とんだ辱めを受けてる気が…」


その場でしゃがみ込んでいる源蔵三蔵は、顔を真っ赤にしていた。


「恥ずかしがる事ねーだろぉ?三蔵よ。ほーら、メイド服だぞー」


「やーめーろー!!!」


明王がわざと源蔵三蔵の前にしゃがみ込み、メイド服をチラつかせる。


「髪が長げーのは鬱陶しいな。短くするか」


そう言って悟空がパチンッと指を鳴らすと、腰まであった髪が肩までの長さに変わった。


ロングストレートから、ウルフスタイルに変貌を遂げた。


「これぐらいで良いか」


「王、可愛い!!僕、そっちの方が好き!!」


「天(アマ)が興奮してるって事は、かなり綺麗なんだね」


目の見えない邪(ジャク)は、天の興奮した声を聞き想像を膨らせる。


「目が見えないの、不自由、だね」


高(ガオ)はそう言って邪に声を掛けるが、本人からは予想外の言葉を放たれた。


「んー、王の綺麗な姿が見えないのは残念だけどね?それ以外は何ら不自由はないかなー。目が見えないからって、邪魔な奴等を殺せなかった事はないし。お陰で、気配と音に敏感になったからねー」


「視覚を失った者は聴覚が異常なまでに良くなる。そんな事を聞いた事があるような…」


「まぁ、失った者は失ったなりに上手くやって行けるんだよ。僕は目を失ったお陰で、王の側に居られるんだから幸せ者だよ」


そう言って、邪は悟空に視線を向ける。


カツカツとヒールの足音が廊下から聞こえ、ガラッと襖が開かれた。


現れたのは、化粧道具を持った人魚の泡姫(あわひめ)だった。


「美…、いや、悟空様。化粧道具をお持ちしました」


「け、け、化粧道具!?それって、俺達がやるのか!?」


源蔵三蔵の言葉を聞いた泡姫は、眉を顰めながら口を開く。


「当たり前でしょ?閻魔大王がメイドを選ぶ条件を知らないの?」


「条件?そんなのあるのか?」


「あるに決まってるじゃない。閻魔大王はね、美女好きなの。それもかなりの」


「び、美女っ…」


「悟空様は美しいから問題ないわよ。だけど、念には念をよ。一発で合格を貰えないといけないでしょ!?」


泡姫の言葉に圧倒された悟空以外の三人は呆気に取られる。


「三蔵、大人しく可愛いくされろ。泡姫の言う通りだ」


ガシッと、源蔵三蔵の両肩を掴んだのは哪吒太子(ナタクタイシ)だった。


「な、哪吒っ。何故、俺の体を拘束するように腕を掴む!?」


「メイクして貰う為」


「え、えぇ…」


源蔵三蔵と哪吒の隣にいた沙悟浄が、ふと周りを見渡し始める。


「あれ?小桃(こもも)の姿がねーな。一番に悟空に飛び付きそうだったのに。それに、緑来(リョクライ)の

姿もない。どこに行ったんだ?アイツ等…」


「小桃?あー、王に懐いてた女の事?」


沙悟浄の言葉を聞いた天が、悟空に抱き付きながら反応した。


「天、見かけたのか?」


「なんか、二人して外に出て行ったけど?」


「外に?」


「それ以外は知らなーい。僕、あの二人に興味ないし。あ、この色の口紅が可愛いよ!!」


そう言って、天は化粧道具の入った箱の中から赤色の口紅を取り出す。


「悟空は?小桃から聞いてないか?」


「聞いてねぇ」


悟空の素っ気ない返答を聞いた沙悟浄は、何があったのだと分かった。


だが、沙悟浄はその場で追求するのをやめた。


「悟空様、お先に化粧を施しても宜しいですか?」


「あぁ、お前に任せてる」


「っ!!は、はい!!」


悟空の言葉を聞いた泡姫は顔を赤くしながら、化粧道具である小さな箱を取り出す。


泡姫は手慣れた手付きで、悟空に化粧を始めた。


元の素材が良い為か、化粧はほぼしていなく口紅を塗った程度で終了。


猪八戒は音華(おとはな)として長年生きていた為、泡姫の手を借りずに化粧を始めた。


化粧をしている姿は本物の魏楼のような手付きで、妙に色気があった。


その事は明王にも伝わっていたらしく、ニヤニヤしながら言葉を放つ。


「流石は桜華(おうか)の店で、一番を張ってただけの

事はあるなぁ?猪八戒よ。色気があるんだし、女になった方が良いんじゃねーか?」


「馬鹿言わないで下さいよ。それに、俺なんかよりも毛女郎(げじょろう)の方が…。よっぽど良い女ですよ。明王にも見せたかったなぁ」


猪八戒は毛女郎の事を思い出しながら、紅を指で唇に引く。


「毛女郎の事、思い出話に出来るようなったんだね」


泡姫に顔を強引に掴まれながら、源蔵三蔵が猪八戒に声を掛ける。


「お前等と旅して一年近く経った事が大きいよ。毛女郎が死んでから、俺はお前等といた。一人でいたら、毛女郎の事を思い出に出来なかったよ」


「そっか…、あいて!?」


「動くな。アンタが一番、化粧に時間掛かってんのよ」


泡姫が強引に、猪八戒の方に向いた源蔵三蔵の顔を引き戻す。


「泡姫さん…、俺に対して扱いが雑では?」


「別に」


「悟空との落差が…」


「当たり前でしょ?悟空様とアンタが同等の扱いな訳ない」


「へ、へぇ…。そ、そうですか」


源蔵三蔵は大人しく泡姫に化粧をされる事にした。


「泡姫、あんまり意地悪すんなよ」


「分かりました!!」


「素直か!?」


悟空の言葉を聞いた泡姫が素直に返事をした為、源蔵三蔵が思わずツッコミを入れてしまう。



化粧を施した四人は、明王が持って来たメイド服に着

替えを済ませたのだが…。


「「「おおおおおおおっ…」」」


その場にいた妖怪達と明王の声が再び合わさった。


「に、似合ってる…。いや、これは泡姫の化粧の力の効果か!?」


明王は四人のメイド服姿をまじまじと見つめながら、顎をさする。


「隊長!?また、鼻血が!!?」


「ゔっ!?」


胡が丁の鼻を再び押さえる中、泡姫もまたメイド服に着替えていた。


「何で、お前までメイド服を着てんだ」


「悟空様には話していませんでしたが…。私は数年前から閻魔大王のメイドの仕事も受けていたんです。とある目的の為で」


「目的?」


悟空の言葉を聞いた泡姫が耳元で囁く。


まるで、源蔵三蔵等に聞こえてはいけないようだった。


「冥界の墓地の鍵を探しているんです」


「鍵?」


「また詳しくお話しします」


そう言って、泡姫は悟空から離れる。


周から怪しまれない為だろうと悟空は悟った。


「うぅ…、死にたい…」


「俺とお揃いのハーフツインにしただろ?」


「お揃いだからって何だよっ」


「恥ずかしがってる方がカッコ悪いぞ」


源蔵三蔵の隣にいた猪八戒が、背中を摩りながら説得する。


「沙悟浄はますます雨桐に似たなー」


「俺も思ったよ」


「さてと…。お前等、そろそろ閻魔大王の所に行くぞ」


明王は猪八戒と沙悟浄の会話を遮り、ビリッと一枚の札を破る。


ボンッと白い煙が立ち込み、煙が晴れると紫色の鳥居が現れていた。


「この鳥居を潜れば直接、閻魔大王の宮殿の前に到着するようになってる。着いたら閻魔大王に挨拶しに行くぞ」


「ほーい」


「はいよー」


猪八戒と沙悟浄が適当な返事をし、二人で源蔵三蔵の手を引き歩き出す。


悟空も続いて歩き出そうとすると、邪が口を開く。


「王様、こちらの事は考えずに目的を遂行してくださいね」


「邪達に頼みたい事がある」


「「「「っ!!何ですか!!?」」」」


悟空の言葉を言葉を聞いた丁達は声を揃えて、悟空の元に駆け寄る。


「何ですか!?王!!」


「俺達に何でも言って下さい!!」


天と李が喜びながら、悟空の言葉を待つ。


「牛魔王の屋敷を探し出して欲しい。アイツの監視も頼まれてくれ」


「「「「「御意」」」」」


命令の言葉を聞いた天邪鬼の二人と丁達は、悟空に向かって膝を着き拝礼をする。


悟空は妖達に背を向け、紫色の鳥居を潜り抜けた。



源蔵三蔵 二十歳


紫色の鳥居を潜り抜けると、目の前に大きな宮殿の門が出迎えた。


全体が黒色の宮殿に赤色のカーペットが階段の中央に轢かれ、灯籠の火が暗闇を照らす。


暗闇に浮かぶ大きな夕日、一面の空に赤い鳥達が羽ばたいている。


辺りを見渡すと灰色の霧に混じれて、人魂のような物が浮いていた。


初めて見る光景に瞬きをするのを忘れてしまう。


この怪しげな雰囲気が、ここは冥界だと悟らせた。


「ここが…、閻魔大王の宮殿…?」


「閻魔の屋敷は冥界の崖の頂上にあんだよ。だから、冥界の街は一番下にある。ほら、見てみろ」


俺の言葉を聞いた明王が崖の底を指差し、視線を向けるように促す。


言われるがままに体を乗り出し、崖の底に視線を落とした。


暗闇の中に無数のオレンジ色の光が見えている。


あれが街…?


遠過ぎてよく見えないけど…。


「…」


隣にいた悟空が崖の底をジッと見ているが、眉間に皺が寄っていた。


「悟空?どうしたんだ?」


声を掛けるが、悟空は俺の声掛けに返答をしなかった。


「いや…、どこかで見た光景だと思って…。だとしたら、どこで…。もしかして、美猿王か」


「悟空様?大丈夫ですか…?」


「何でもない」


泡姫も同様に悟空に声を掛け、悟空は返答した。


「おーい、お前等。そろそろ閻魔の所に向かうぞ」


明王の呼び掛けと同時に、閉ざされていた門が音を立てて開く。


ギギギギギギッ…。


「お、門が開いた」


崖の底を見ていた猪八戒は、門の方に振り返る。


「あの鴉の置き物が見えんだろ?あそこから閻魔が来客者を見て、門を開けんだよ。普段ならもっと時間が掛かるが、お前等を見てすぐに開けやがった」


「鴉の置き物にそんな役目があったのか…」


「あんまり、見ない方が良いよ。目玉をくり抜かれるからね」


「ゲッ!?マジか」


泡姫の言葉を聞いた沙悟浄は、勢いよく鴉の置き物から顔を離す。


俺達は明王の後に続きながら、閻魔大王の宮殿の中に足を運んだ。


門の中に入ると、石張りの大きな橋が宮殿まで続いていた。


どうやら、この橋を渡らないと宮殿に着かないらしい。


今、俺達が居るのは宮殿内の庭と思われる場所みたい

だ。


ライオンの噴水に、枯れた大きな木々達。


地面には枯葉が大量に溜まっており、虫の死骸もいくつか落ちていた。


庭の手入れが行き届いていないのが分かる。 


石張りの橋も岩の亀裂から苔が生えているし、地震が来たら崩れそうな橋だ。


閻魔大王の宮殿の前に到着すると、鎧を着た兵士達が出迎えた。


明王の姿を見るなり、一斉に拝礼をしたのだ。


「お待ちしておりました、明王様。閻魔大王様がお待ちしております」


そう言って、兵士の一人が扉を開けた。


ギギギギギギッ。


扉が開かれると、真っ赤な絨毯が廊下一面に広がると

同時に三十人程のメイド達の姿が視界に入る。


ここに居るメイド達はかなりの美貌の持ち主達だ。


「「「明王様、お待ちしておりました」」」


「奥の部屋で閻魔大王様がお待ちしております」


そう言ったのは、猫の耳と尻尾を生やした女性のメイドだった。


「私が僭越ながらご案内します。三十五番、食事の支

度をなさいな」


女性は悟空の後ろにいた泡姫の事をそう呼ぶ。


三十五番?


何で、番号で呼ぶんだろう。


「分かりました、メイド長。明王様、失礼します」


そう言って泡姫は一礼した後、俺達とは逆方向に歩き出す。


女性を先導に歩き出してから数分後、大きな黒い扉の部屋の前に到着した。


トントンッと二回、扉を叩いて閻魔大王の返答を待つ。


「入れ」


「かしこまりました」


閻魔大王の低い声が聞こえた後、女性が扉を開けた。


ギギギギギギッ。


この宮殿内の建て付けの悪い音が耳に響く。


扉の修繕くらいしたらどうだ。


思わず耳を塞ぎたくなる程の嫌な音がした後、メイド達とは違う女性達が居た。


「娼婦だな」


ボソッとそう呟いたのは猪八戒だった。


「娼婦だけでも二十人くらい居るな。あの上半身裸のおっさんが閻魔大王か」


悟空の言葉を聞きながら、閻魔大王の方に視線を向ける。


身長が二メートル近くあり、中年太りした体から汗が垂れ流れていた。


美しい女達とは不釣り合いない顔立ちと体の持ち主だ。


うわー。


何だよ、このおっさんは!?


めちゃくちゃ変態そうじゃねーかよ!?


俺達、今からコイツのメイドになんのかよ!!


「よぉ、相変わらずの女好きだなぁ?閻魔」


「い、良いだろ?別に。そ、それよりも!!メイド候

補達を連れて来たんだろ!?早く顔を見せろ!!」


閻魔大王は大きい顔を前に出し、目をギョロッとさせた。


鼻息も荒く、品定めしようとする目付きに鳥肌が立つ。


「ほら、前に出ろ。大丈夫、お前等なら選ばれる」


小声で明王が俺達に声を掛け、背中を押す。


トンッと押され、俺達は明王のいやらしい顔の前に出された。


ジロジロと品定めを始めた閻魔大王は、ニヤニヤと口元を緩ます。


全身に鳥肌が立つのを抑えられない。


悟空達は堂々と閻魔大王の視線に耐えていた。


そんな時、閻魔大王が椅子から腰を上げ歩き出す。


悟空の前に足を止め、顔を覗き込む。


疑心の眼差しより、好奇の眼差しの方だった。


閻魔大王が悟空の事を気に入った事が、すぐに分かったからだ。


「お前さん、かなりの美貌の持ち主だ。今までに数人しか見た事がない」


「それはどうも。ありがとうございます」

悟空がぶっきらぼうに返答する。


だが、閻魔大王はその素っ気ない態度もお気に召したようだ。


「ピンクの髪と青色の髪の女も中々なものだ。黒髪の女は…、まぁまぁだな」


閻魔大王の言葉を聞いた悟空達は、笑いを堪えるのに必死になった。


この野郎…。


俺がブサイクだって言ってんのか!?


ふざけんじゃねーぞ!!?


心の中で怒りの声を撒き散らして我慢をする。


「合格だ。俺の為に働く事を許可するぞ?お前さんは、俺の身の世話をしろ」


そう言って、悟空の事を指差しながら命令する。


「えっ!?」


俺は思わず声が出てしまった。


まさか、悟空だけを指名すると思わなかったからだ。


閻魔大王は相当、悟空の容姿を気に入ったらしい。

下心が丸出しだ。


「残りの三人は、メイド長からの指示を受けよ。何だ?小娘、俺の指示が気に入らないか?」


「い、えいえいえいえ!?滅相もございませんよ?!」


「大声を出して、はしたない。君はまず、マナーの教育を受けさせた方が良さそうだ」


「へ?マ、マナー?」


「おい、メイド長。その女を連れて行け。マナー教育を叩き込め」


そう言って、閻魔大王が猫耳の女性を手招きする。


女性は俺の手を引き、ズカズカと部屋を後にしようと歩き出す。


「ちょ、ちょっとま…!?」


「閻魔大王様は御下品な女性は好みません。それに、機嫌を悪くされると一週間戻りません」


「ゲッ」


「その汚い言葉遣いも直しましょう」


俺は女性と共に嫌々ながら、閻魔大王の部屋を後にした。



源蔵三蔵がいなくなった後、明王が閻魔大王に言葉を放った。


「良いか、閻魔。少しの間だけの約束を覚えてるな」


「分かっている」


「この四人には手を出すな。特に、お前の気に召したコイツにはな?」


「わ、分かっているっ」


明王の睨みに後退りしなから、閻魔大王が答える。


「分かってんなら良いかな。女に耽るのも良いが、仕事はしてんのか?」


「も、勿論している。今年は死者が少ない方なんだ!!」


「ふーん。そんじゃ、俺は帰るよ。くれぐれもな?」


「分かっていると言っているだろうが!!」


明王は背を向け、悟空達に手を振るように手を挙げ歩き出した。


「さぁて、君達には番号を付けなければな?赤茶の君は四十番、ピンクの君は四十一番、青の君は四十二番。後の黒髪の子は四十三番だ」


「何故、番号で呼ぶのですか?」


「ん?特に理由はない。名前を呼ぶ手間を省いただけだ。さぁ、四十番!!酒を注いでくれ!!」


猪八戒の問いに答えた閻魔大王は、ニコニコしながら

悟空に話し掛ける。


「悟空、耐えれそうか?」


「手ぇ出して来たら手を跳ね飛ばす」


悟空はそう言って、沙悟浄の肩を叩きながら歩き出す。


「四十一番と四十二番の君達は、料理を運んで来てくれ」


「「わ、分かりました」」


猪八戒と沙悟浄も嫌々ながら、テーブルに置かれている料理達を運び出した。 


三蔵一行の四人は、無事に閻魔大王の宮殿に潜入出来たのだ。



冥界の地下街ー


冥界に訪れていたのは、三蔵一行だけではなかった。


普通の街とは違い、冥界の住人達の容姿は酷いものであった。


肌は爛れ色も悪く、手と足が本来曲がらない方向に曲がっている者達が歩いている。


負ったであろう傷も治らず、寧ろ悪化してるように見え痛々しい。


そんな中、ある二人組は居酒屋らしき店に滞在していた。


小桃は大きめのゴーグルを頭に掛け、黒い長いマントが邪魔にならないように椅子に座る。


対面に座る緑来も頭にゴーグルを掛けながら、口を開く。


「まさか、本当に来れるとは思わなかったな。姫様はどうして、冥界行きの札を持っていたの?」


「あの小さな女の子が、ポケットの中に入れていたみたい。小桃と緑来が来れるように」


「成る程。封印を解いて欲しくて仕方ないのか」


「来れたのは良いけど、何処に居るのか分からない。手当たり次第の情報を探すしかないのかな」


そう言って、小桃は運ばれて来た飲み物に視線を落とす。


「姫様、あの小さな女の子は操り人形だよ。女の子を探そうとしても無駄足だと思う」


「やっぱり、肌に浮かんでいた枝は操り人形の証だっかぁ。本人が封印されてるのに来れるわけがないよね」


「冥界に来れただけでもさ、良い事にしとかないとね」


緑来はお茶らしき物を恐る恐る口に運ぶ。


小桃と緑来のテーブルの上に、誰かが手を置いた。


二人は謎の人物の気配に気付かず、突然の登場に驚きを隠せずに居た。


「「っ!?」」


黒いボロボロのマントを来た人物から二人は距離を取る。

「アンタ、俺達に何か?」


小桃を庇うように後ろに下がらせ、緑来が前に出て口開く。


「星熊童子、我等の姫がお前等をお待ちだ」


謎の人物の正体が男と分かったと同時に、二人は違う衝撃を受けた。

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