美猿王伝承 参

美猿王が山に籠って一ヶ月が経とうとしていた頃。


監視していた鬼達は、美猿王の変化に気が付き始めてた。


「ねぇ、白鬼殿に報告しに行った方が良いかも」


緑鬼の面をした男がそう言うと、その場にいた鬼達は一斉に美猿王に視線を向けた。


「どう言う意味?」


水色の鬼面をした少年が緑鬼の面をした男に尋ねる。


「本当に術を会得するかもよ。なぁ、爺さん」


緑鬼の面をした男がチラッと、隣にいる鬼の面をした爺さんに視線を送る。


「ほんなら、わしが行ってこよう。お前さんの言っている事は事実のようじゃしな」


シュッと一瞬にして鬼の面をした爺さんは姿を消した。


「さーてと、お手並み拝見と行こうか」


そう言って、緑鬼の面をした男は手裏剣を取り出したのだ。



美猿王 十歳


体の中で、何かが分かるのが分かった。


説明しろと言われれば、言葉では説明できない感覚なのだ。


体の中に何かが走り出している。


それは血液とは違う何かが…。


その時、木々の隙間から何かが飛んでくる気配がした。


鬼達が何かして来たのか?


今なら…、もしかしたら出来るのかもしれねぇ。


そう思い、近くに置いてあった短剣を手に取った。


思いっきり手のひらを斬り付け、血を多めに出す。


ギリッ、ブシャッ!!


ポタポタと流れ落ちる血液が岩に落ちた瞬間、血液の

形が変わった。


シュンッ!!


跳ねた血液が鋭い刃の形に変形し、飛んで来た手裏剣を弾き飛ばす。


キィィィン!!


手裏剣と打つかった衝撃で小さな血飛沫が上がる。


「おっしゃ!!」


思わず大きな声を思わず出してしまった。


自分でも興奮してるのが分かる。


こんな興奮を今まっでに味わった事がなかった。


シュシュシュシュッ!!!


次々と飛んで来る手裏剣を見つけ、斬り付けた手のひらを向けた。


自分の意思で動かせたら…、術を物にできたと言えるよな。


頭の中で手裏剣を弾くイメージを浮かべる。


シュルルルッ…。


流れ落ちる血が意思を持った様に形を変形させ、動いて行く。


シュシュシュシュッ!!!


キンキンキンッ!!!


血液は自由自在に動き、至る方向から飛んで来る手裏剣を弾き飛ばす。


血飛沫が上がりるが、細かい血飛沫すらも棘の様に鋭くなり、手裏剣を弾いた。


キィィィン!!!


手を振り翳せば、それに合わせて血液達が動く。


血の指揮者になったように指を動かせば、血液達も滑らかに動く。


俺はこの瞬間、血統術を会得した事に確信を得れた。

 

自意識過剰になってしまうが、俺は天才のようだ。


天之御中主神を殺す第一の武器を手に入れた。


その時、足元が揺れる感覚がし視界が揺れるのを感じた。


何だ?


気持ちが悪い…。


頭がふわふわして、胃の中が気持ち悪い…。


足に力が入らなくなり、後ろに倒れそうになった。

 

ドサッ。


「おっとっ、危ねぇー。大丈夫かぁ?王様」


低い声と共に男の癖に甘い匂いがする。


誰かに抱き止められたが、瞼が重く目が開けられねぇ。

 

「誰だ、テメェ…」


その言葉を吐くのが精一杯だった。 


「白鬼殿に頼まれて、王様を監視してた鬼さ」


「あぁ…、そうかよ」


「そうかよって、他にないの?」


「ねぇ…な」

 

「ありゃ、寝ちゃった」

 

その言葉を最後に俺の意識は途絶えた。


ストンッ。


木の上から降りた水色の鬼の面をした少年は、慌てて美猿王に駆け寄る。


「ちょっと、死んでないよね?」 


「死んでないよ、寝てるだけ。そりゃ、あんだけ血を流せばねぇ?」


そう言って、緑鬼の面をした青年は足元に視線を落とす。


足元には大量の血痕があり、普通の人間だと死ぬ程の量だった。


「おじいちゃんは認めるのかな。この人の事」


黒鬼の面をした少女は、眠る美猿王を木の上から見下ろす。


「その心配をする必要はないぞ」


鬼達の目の前に、白鬼と鬼の面をした爺さんと共に現れた。


「おじいちゃん」


「白鬼殿、美猿王の件。如何なさいますか?」


灰色の鬼の面をした男が木の上から降り、白鬼に尋ねる。


「この血痕と落ちている手裏剣を見れば…、血統術を会得したのだろう?」


「そうそう。王様、頑張ってたよー」

 

「どうだ?お前等の意見を聞こう。此奴の事をどう思う?」


白鬼はそう言って、鬼達に視線を送った。



美猿王 十歳


ピチャッ。


額に冷たい何科が乗せられた。

 

それが何か分からないが、熱った額には心地良い。


「起きた?」

 

少女の声がし、俺は目を開ける。


見慣れない茶色の木で出来た天井が視界に入った。


暗い部屋が何本かの蝋燭の火で灯され、明るくなっている。


地下層にいるのだろうか。


暗いだけで、ここが地下層なのか判断がつかない。


ここ…、どこだ?

 

薬草の匂いが鼻に付く。


体を起こそうとすると、全身に激痛が走る。

 

「いっ!?」


「あ、起きない方が良いよ」


視線だけを横に移動させると、同い歳ぐらいの少女が膝を抱えて座っていた。


腰まで長い紫ベースの髪に所々に太めの黒いメッシュが入っていて、バランスが取れてないハーフツイン。


オン眉の前髪に、色素ない白い肌に黒と紫のオッドアイ。


見た目は普通の人間だが、尖った耳を見て妖怪だと知る。

 

「全身?の筋肉が…傷付いてる?って」


「は?」


「おじいちゃんが難しい事を言うから…」

 

「…」


この子が言うには、俺の筋肉が傷付いてるらしい。


その所為で、体に激痛が走った事に理由が付く。


薬草の匂いの正体は、壁に飾られている草の所為だ。


部屋の中には至る所から植物が生え、床なんて草だらけ。

 

どうな部屋の作りをしているかと興味深く思えた。

 

手のひらの傷はどうなったんだ?


そう思い、短剣で斬った手のひらに視線を向ける。


綺麗な手のひらを見ると、傷が治っているのが分かった。

 

「どれぐらい寝てたんだ、俺」


「んーと、一週間ぐらいだねぇ」


俺の呟きに答えたのは一人の男だった。


鮮やかな緑のパーマが掛かった髪に、目元が隠れる程の長い前髪。

 

尖った耳にはキラッと光る沢山のピアス、シャツの袖から和彫りが見えた。


よく見ると、達磨(ダルマ)と鯉が描かれている。

 

「おはよう、王様。目覚めてくれて良かったよ」


男は馴れ馴れしく俺の隣に腰を下ろし、口角を上げた。


「温羅(うら)。まだ、起きたばかりなんだよ?」

 

「そうかそうか。まぁ、復活が早くて良かった。若いって良いねぇ」


温羅と呼ばれた男はそう言って、煙管を口に咥える。


*温羅(うら)

「吉備冠者」「鬼神」とも。

鬼ノ城を拠点とした鬼。渡来人で空が飛べた、巨体で怪力無双だった、大酒飲みだった等の逸話が伝わる。

出自についても出雲・九州・朝鮮半島南部など、文献によって異なる。*


白い煙を吐きながら、温羅は美味そうに再び煙管に口を付けた。


「アンタ等、俺を監視してた鬼だろ」

 

「うん。おじいちゃんに言われて」


「一月もかよ」


「正確には三十日だけどねぇ」


少女の代わりに温羅が答え、白い煙を吐いた。


「それで?ここはどこだ?」


「おじいちゃんの家」


「さっきから言ってるおじいちゃんって?」

 

そう言った時だった。


ガラッと木の襖が開かれると、シュウセンと白髪の爺さんが現れた。


シュウセンの隣にいる爺さんに見覚えがあった。


確か、俺を馬鹿にして来た糞爺だ。

 

「おお、起きたか美猿王。食事の用意をしてあるぞ、腹は減っているか?」


「あ、おじいちゃん」


「星熊童子(ほしくまどうじ)、お前もここにいたのか。温羅は食事の支度の手伝いを頼んだ筈だが?」


爺さんは少女の事を星熊童子と呼んだ。


*星熊童子 星熊童子とは、日本の伝承に登場する肌鬼(肌色の鬼)である。星隈童子とも。

酒呑童子を頭目とし茨木童子を副将、 熊童子、虎熊童子、星熊童子、金熊童子を四天王とする酒呑童子の配下のひとり。*

 

聞きなれない名前に眉を顰めると、シュウセンが手を伸ばして来た。


敵意のない事が分かっていた為、わざと避けないでいた。


ガシッと腕を掴まれると、ヒョイッと肩に乗せられる。


「は?何故に俺を乗せたんだ?」


「病人は安静にしてないとだろ?王様」

 

「王様だと?俺がか?」


「え?まだ、お話をしてないのですか?白鬼殿」

 

そう言って、シュウセンは爺さんに視線を向けた。


「美猿王が起きんかったからのう。それに食事をしながらでも良いじゃろ」 


爺さんの言葉を聞いて納得したシュウセンは、ニコッと微笑んで来たのだ。


「さ、王様。食事の時間ですよー」


「おい、赤ん坊に言うみたいな口調をやめろ!!」

 

「俺からしたら王様は赤ちゃんですよ.まだ、十歳なんですから」


「だからってなぁ!?」


シュウセンは「はいはい」と言って、廊下を歩き出した。


廊下にも至る所に植物が生えていた。

 

横に目をやると縁側らしき物があるが、岩の壁の方が縁側より多かった。

 

岩の隙間からも植物が生えており、赤い花が咲いている。


ガラッと木の襖を開けると、広い宴会場が現れた。


お世辞にも豪勢と言えない料理達が丸机の上に置かれ、座布団が数枚引かれている。


肉や魚は少なく、殆どが草を使った物だろうか。


シュウセンは、真ん中に引かれた座席の上に俺を下ろした。


左右にシュウセンと爺さんが腰を下ろし、その隣に温羅と星熊童子が腰を下ろす。

 

あと二枚は誰が座るのだろうか…。


そう思っていると、酒瓶を持った少年が宴会場に入って来た。


水色のウェーブが掛かったショートヘア、所々に黒いメッシュが入っており、額から鋭い角が二本生えている。

 

色白な肌に真っ黒な瞳の下に薄いクマがあり、黒いマントを着ていた。


「お、縊鬼(いき)。中々、良い酒を持って来たな」


温羅はそう言って、縊鬼と呼んだ少年の手から酒瓶を取る。


*縊鬼 日本及び中国の伝承で語られる首つり自殺を強要させるとされる悪霊、あるいは恐ろしい妖怪。人に取り憑いて首を括らせるとされる。*


「おはよう、王様。体調は、どう?」


縊鬼はゆっくりとした口調で尋ね、俺の顔を覗き込んでくる。


「全身の筋肉が痛てぇけど、大丈夫」

 

「そう、良かった。ご飯、食べれる?」


「どうかな、腹は減ってねぇけど…。少し、食べるわ」


「分かった」


俺の言葉を聞いた縊鬼は、甲斐甲斐しく箸や取り皿を用意する。


スッと横から手が伸び、俺の前にグラスを置いた。


伸ばして来た手の主を探るように視線を動かすと、温羅と同じ歳ぐらいの青年が立っていた。


黒髪のウルフヘアで襟足部分は赤く、色白な肌に切長の赤い瞳。


黒いマスクをしてる所為で、鼻と口が隠れている。

 

コイツも温羅同様、腕から椿の花の和彫りが入っていた。


「さて、食事も出来ているし頂こう。夜叉(やしゃ)、お前も座りなさい」

 

爺さんの言葉を聞いた夜叉と呼ばれた男は、静かに腰を下ろす。


*夜叉鬼(やしゃおに)人の内面の悲しさや恐ろしさから救いを表現する「能」を芸術の域まで高めた「世阿弥」の幼少期の名前で、時の将軍足利義満によって名付けられたとされています。 その後晩年に「佐渡島」に流刑されました。 その為佐渡島には全国で最も多い「能楽舞台」が現存しています。*


爺さんが手を合わせると、鬼達も一斉に手を合わした。

 

「頂きます」と爺さんが言うと、鬼達は声を合わせて復唱する。


俺も見よう見真似で手を合わせ復唱し、箸を持つ。

 

ヒョイヒョイッとシュウセンが、取り皿に料理を適当につまみ出す。


てんこ盛りになった取り皿を何故か、次々に俺の前に置く。

 

「おい、シュウセン。てんこ盛りの皿を何故に?俺の前に置くんだよ」


「ガッハッハ!!王様には早く、元気になってもらわねぇと困るんだわ」


「はぁ?こんなに食えねーって」


「ほらほら、食えるだけでも良いから腹に入れろ」


シュウセンは俺に世話を焼くのが好きらしい。


なんなら、食べさせようとして来たので流石に止めた。


そもそも、鬼達やシュウセンは俺の事を王様と呼ぶん

だ?


「おい、爺さん。話をしろよ」


「話?」


「とぼけんな。俺を王様と呼ぶのにも理由があんだろ?それに、俺をここに連れて来た理由もだ」


「そりゃあ、お前さんを此奴等の大将に選んだからじゃ」


爺さんの言葉を聞いて、俺は言葉を失い目を丸くさせる。


「は、は?」


「なんじゃ?その顔は」


「そんな簡単に決めて良いのかよ?」


「誰も白鬼殿に意見は出来ないよ。それに、一ヶ月近く鬼達は王様の側にいたんだ。思う所はあったんじゃないかな」


俺と爺さんの会話にシュウセンが割って入ってきた。


「神を殺すには王様の力は必要だしねぇ?この戦を終わらせるのも王様でしょ」


そう言って、温羅は酒を豪快に飲み干す。


「美猿王、血統術を会得した今。お前さんはどう動くつもりじゃ?」


「出来れば、牛鬼をこっち側に引き入れたかったけど…。無理そうだな、天之御中主神を完全に信頼しきってる」


「牛鬼?」


「俺と同じ、半妖だよ」


俺の言葉を聞いた爺さんは「ほぅ…」と呟く。


ガラッと木の襖が開き、マントを着た男が宴会場に入って来た。


「白鬼殿、地上の偵察をして来ました」


「どうじゃった?」


「はい。地上では、王様が行方不明になったと大騒ぎしております。それから、牛鬼と言う半妖が三日後の戦で、大将として出陣するものようです」


カチャンッ。


男の言葉を聞き、俺は思わず箸を落としてしまう。


「王様?」


星熊童子は俺の事を不思議そうに見つめる。


男はお構いなしに話を続け出したのだ。


「どうやら、牛鬼は変な風を使った術で天界人や妖を殺し回っています。更に、牛鬼は王様が妖側に寝返ったと噂を広め回っているそうですよ」


牛鬼が…?


俺の知ってる牛鬼はいなくなったんだ。


噂を広めているのも、誰彼構わず殺し回っているのも。


俺の知らない牛鬼がしている事だ。


影の術って事は、影遊びの術を会得したって事か。 


血統術と同様に、戦の神が作り出した技。


俺が血統術の書を持ち出した事を牛鬼は気付き、同じように会得したのか。


天之御中主神の為に戦に出るのか、牛鬼。


牛鬼、俺達は…。


もう、永遠に分かり合える日なんて来ないのかもな。


お前が天之御中主神を慕っている限りは…。


「美猿王。お前さん、三日後の戦には…」


「爺さん、俺は出るぜ。次の戦、俺は大将の首しか狙わねぇ」


その言葉を聞いた爺さんは驚いていた。


「王様と牛鬼って子は仲良かったの?」


「昔はな、牛鬼がこうなったのも俺の責任だ」


「そっかー。白鬼殿、次の戦から俺達も出るよ」


温羅の問いに答えると、温羅は爺さんに声を掛けた。


「温羅殿達が!?」


爺さんよりに口を開いた男は戸惑いの表情を浮かべる。


「お前等は出てなかったのか?」


「俺達、鬼はここを守る為に戦には出なかったんだ。だが、王様が出るのに俺達が出ない訳にはいかないだろ?」


そう言って、夜叉は俺の問いに答えた。


「次の戦には神々達も出るみたいですね。どうやら、本格的に我々を潰しに掛かるようです。白鬼殿、王様、如何なさいますか」


男はそう言って、爺さんに意見を求めた。


だが、爺さんは俺の方を向き予想外の言葉を放った。


「美猿王、戦ではお前さんが指揮を取れ。我々はその指揮に従おう」


爺さんは、妖部隊の指揮を俺に任せて来たのだ。


俺は少し黙ってから口を開き、言葉を放った。



三日後ー


地上では、牛鬼を大将とした天界軍が天之御中主神の屋敷から出馬していた。


意気揚々と先頭を馬で歩行する牛鬼は自信に満ち溢れ、微笑みを浮かべる。


ヒソヒソと天界人が牛鬼の事を話せば、牛鬼の影が伸びて行く。


シュルルルッ。


ブシャッ!!


伸びた影が次々と噂話をした天界人達の首を刎ねる。


飛んだ血飛沫が見送りに来た観客達の顔に付着し、異様な光景が広がった。


「いやぁあぁぁぁああ!!」


「お、おいっ。嘘だろ…っ!?」


「俺に文句がある奴は前に出なよ。遠慮なく首を刎ねてあげるから」


悲鳴を上げた観客達の前に立った牛鬼は、ニコッと笑う。


その笑顔を見た人々は口を閉じ、後ろなや後退りする。


牛鬼の行動を天之御中主神は止めることはなかった。


美猿王に疑心感を抱いた天之御中主神は、牛鬼を手放したくなかったのだ。


自分に絶対的信頼を持つ牛鬼は、天之御中主神にとって利用価値のある存在であった。


それ故に天之御中主神は牛鬼の行動を止める事をしない。


今もただ、観客達の首が刎ねられるのを黙って見ていた。


神々達も牛鬼の機嫌を伺う様に、後ろを馬で歩行した。


牛鬼は鼻歌を歌いながら、戦場となる荒れ果ての地に到着した時。


いつもの様に武装した妖達が牛鬼達を出迎え、お互いの動きを見ていた。


「お前等の所に美猿王が居る筈だろ?出せよ。それとも何か?逃げ出した訳じゃねーよなぁ?」


「それはあり得んな、小僧よ」


妖達の前に出たのは武装したシュウセンだった。


シュウセンの言葉を聞いた牛鬼は、眉間に皺を寄せる。


「俺達の王様はお前さんと違って、卑怯者ではないからな」


「テメェ…、俺の事を侮辱する気か?」


「気に障ったのなら申し訳ないねぇ。まだまだ、お子様と言う事だな」


「お前等の軍は数千、俺達は数万人の軍だ。勝てると思ってるのか?」


ビュンッ!!!


黒い影がシュウセンの前に伸びた時だった。


ゴゴゴゴゴゴゴッ!!!


地面から大きな揺れが起き、土埃の中から巨大な髑髏が現れた。


「「うわぁぁぁぁ!?」」


「な、何だ!?この髑髏は!?」 


天界軍が動揺を起こす中、髑髏の上に座る水色の鬼の面をした縊鬼。


風でマントが靡き、肋の骨が丸見えになり隙間から青い薔薇が咲き誇っていた。


「まさか、鬼か!?」


天界軍の一人が縊鬼の存在に気付くと、おもむろに剣を抜き首元にはを当てる。


そして、一気に剣を引く。


ブジャァァァァ!!!


バタッ。


男の動脈から血が噴き出し、その場に倒れた。


「数万人だろうと関係ないよ。僕達、鬼が君達を殺すんだから」


カチャッ。


髑髏が刀を取り出した瞬間、天界軍の兵士達は剣を取り、自らの動脈を斬りさいた。


ブジャァァァァ!!!


「う、うわぁぁぁぁぁぁ!?」


「何で、自分の首を斬るんだよ!?えっ?」


一人の天界軍の兵士が異変に気付いた。


恐る恐る視線を下に向けると、黒鬼の面をした星熊童子が黒い刃の刀を持っていた。


「ひっ!?」


ズンッ!!


ブシャッ!!


星熊童子は黙ったまま、兵士の顎に刀を突き刺さした。


飛び散る血の中、星熊童子は乱暴に刀を抜く。


ズポッ。


「うわぁぁぁぁぁあぁあ!?」


「牛鬼様!!どうにかして下さい!!」


動揺する天界軍の兵士達は、牛鬼に助けを求めた。


「みっともないですよ、皆さん!!たかが、小娘一人に何を狼狽えているのです。出撃なさい!!」


金色の鎧を来た毘沙門天が叫ぶ。


その声を筆頭に天界軍数万が走り出した。


ドドドドドドドッ!!!


牛鬼は影を操り妖達の首を次々と刎ねていく中、灰色の鬼の面をした夜叉が走り出す。

 

赤い刃の刀を地面に滑らせながら、金色の鎧を着た観音菩薩に振り翳した。


キィィィン!!!


観音菩薩は咄嗟に剣を取り出し、夜叉の攻撃を防ぐ。


ドゴォォォーン!!


「くっ!?」


観音菩薩の足元に土埃が立つ中、背後から緑鬼の面をした温羅が近寄る。


「なっ!?」


「背中がガラ空きなんだよねぇ」

 

そう言って、温羅は緑色の刃をした刀を観音菩薩の背中に突き刺した。


ズシャッ!!

 

「観音菩薩!!牛鬼様っ、おさが…」


ブジャァァァァ!!


刺された観音菩薩を見た毘沙門天が牛鬼を下がらせようとした時、奴の首の動脈から血が噴き出した。


「なっ!?」

 

突然の事に状況が理解出来ていない牛鬼の横を、血液の刃をが貫く。


ビュンッ!!


血液の刃は牛鬼の頬を擦り、毘沙門天の首を跳ね飛ばす。


シュルルルッ。


ズシャッ、ズシャッ、ズシャ!!


血液の刃は動きを止める事なく、次々と天界軍の兵士達の首を刎ねる。


牛鬼は目の前にいる黒尽くめの美猿王を視界に捉えた。


美猿王は毘沙門天の頭をボール投げの様に片手で持ち上げ、ポンポンッと跳ねさせる。


「美猿王…っ!!」


「よぉ、牛鬼。お前を殺しに来たぜ」


そう言って、美猿王は口角を上げた。

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