第漆章 破壊された未来と世界
美猿王伝承 壱
これはまだ、神も妖も人も生まれていなかった頃の記憶。
世界がなかったこの世に一つの魂と言う光が現れた。
吹き消せば消えてしまうような弱い光。
だけど、どこか美しい光は形を変えて行く。
長い年月、数百年と言う年月から光は人の形と成した。
焦茶色の長いパーマの掛かった神、青白い肌に黒い瞳。
中性的な見た目をした光は、黒い世界を初めて見る事になる。
「…」
のちにこの光に名前が付けられ、天之御中主神(アメノミナカヌシ)と呼ばれる事になる。
言葉を知らない天之御中主神は、黒い世界の中心で手を伸ばす。
スッと黒い世界から一筋の光が走り、次々に光達が走り出す。
散々と降り注ぐ光のシャワーを浴びた黒い世界は、鮮やかな草原へと変貌を遂げる。
天之御中主神が触れた場所には新しい命が宿り、次々に木々達が草原の地面から生え始めた。
天之御中主神は木々以外にも生み出せれるのではないか。
そう思った天之御中主神は、想像しながら手を伸ばしてみた。
すると想像通りの物が目の前に現れ、次々と想像を膨らませ生み出し続けた。
動物や魚、虫などと言った生き物を作り出した。
天之御中主神の周りには、動物達が集い眠りに落ちていた。
何百年と言う時を経て、天之御中主神は自分と同じよ
うな存在を作り出す事に成功したのだ。
天之御中主神達は意思疎通方法を作り、言葉と呼ばれるものを作り出す。
言葉を通し、草原から街を作り出す事を始めた。
その為には自分達以外にも生き物が必要と考え、力のある生き物を作り出した。
のちに妖と呼ばれる存在を作り出した天之御中主神
は、共に街作りを始めたのだ。
天之御中主神は自分達を人と称して、妖と仲睦まじく生活を送っていた。
天之御中主神が次に作り出したのは四季だった。
春には桃色の桜と言う花を咲かせるように。
夏には瑞々しい若葉が太陽の光から守るように。
秋には赤い紅葉と言う葉を舞い降りるように。
冬には白い雪を降らせ全てのものを雪景色に染めるように。
そして、四季を作った後は時間と言う区切りを付けた。
死を知らない天之御中主神は、知りたかったのだ。
一日と言うのがどれ程に短いのか。
また、生命の終わりはどう言うものなのか。
永遠の命、永遠の時間。
これらを手にした時、手にした者はどのようになるのか。
我々は平和で豊かなら暮らしを、当たり前と思い始めないか。
争いもなく平等な暮らしに、天之御中主神は飽きて来ていた。
自分の事を妖達は神と言う言葉を使い、天之御中主神を崇めるようになった。
それはまた、人も同じく天之御中主神を崇め祀った。
天之御中主神は自分の周りにいる者に、神の称号を与えた。
街と呼ばれるまでに発展を成した天界は、現代で言う中華街のような街並みに似ていた。
その中でも、一際大きな金色の屋根をした屋敷。
そこに神々達が住み、街には天界人と名付けた人間を住まわせた。
何故なら、天之御中主神が生み出した動物と言う生き物を狩り、食料にする為だった。
生きていれば腹が減る。
なら、どうやって空腹を満たせば良いのか。
人と動物、共に生きる事は難しい事を天界人は知った。
天之御中主神は、容易に動物達を狩る事が出来ない天界人に痺れを切らした。
痺れを切らした神々達は、天界人達の前で一頭の鹿の頭を落とした。
飛び散る赤い血、鋭く光る刃。
吐き出す天界人達の髪を掴んだ神達は、鹿の死を見届けさせた。
これが、生きると言う事だと。
天之御中主神は何の理由もなく、動物を生み出したのではないと。
天之御中主神が率いる神達は、天界人に空腹を満たす術を教えた。
ただ肉を捌いただけでは、生肉を食すと倒れる天界人達が後を堪えなかった。
そう思った天之御中主神は、調理と言う工程を覚えた。
火を使い肉を焼き、味付けをする。
その工程だけで、食という楽しさを垣間見る事が出来た。
これがのちに三大欲求の"食欲"に属する事に。
天之御中主神は神と妖の上下関係を作り出すようになる。
命を与えて貰った妖達が何故、我々と同等な扱いをされないといけないのか。
そう思った天之御中主神は、妖達に自分達とは違う住処を作る事にした。
神達が住む地上、妖達には地下を作るように命じたのだ。
だが、妖達がその決定に納得する事はなかった。
その結果、多くの妖達が天之御中主神屋敷に訪れ抗議を始めた。
「天之御中主神様。何故、そのような事を申されたのですか?我々は今まで、力を合わせて来たではありませんか」
そう言ったのは、鳥の体をした妖怪の男だった。
大人の男性となった天之御中主神は、金色の王座に腰を下ろしている。
だが、天之御中主神は顔色一つも変えずに口を開く。
「お前等の中で、天界人の女を犯した者が居るだろ?名乗り出ろ」
「わ、我々の中にはいません!!断じて、そのような事はっ…」
紫色の肌をした犬顔の男が、天之御中主神の前に出る。
「なら、お前が最初の罪人になるか」
「え…?」
ガッ!!
顔を白い布で隠した神達が一斉に、犬顔の男を取り押さえた。
「な、何をするんですか!?は、離して下さいっ!!」
天之御中主神は一つ、実験をしてみようと試みた。
それは、人形の妖を生み出す事が出来るのであれば…。
その逆もまた、出来るのではないかと。
「俺には分かってたんだよなぁ?お前だろ、女を襲った妖は。どうだったんだぁ?生身の女を犯した気持ちは」
不意を突かれた犬顔の男は、唇を噛み締めながら下を向く。
「お、お前…。何で、そんな事をしたんだ!!」
天之御中主神に異議を申し出た鳥の体をした男が、犬顔の男に言葉を吐く。
「し、仕方ないだろ!?あの女を見たら、体が勝手に動いたんだよ!?」
「そんな…、我々の中に本当にいたと言うのか…」
「嘘だ、嘘だ…!!何て、汚らわしいんだ!!!」
さっきまで犬顔の男を守ろうとしていた妖達は、顔を
青ざめながら後ろに下がる。
「お、おい…。な、なんだよ、その目はっ!?汚いものを見るよう目で、俺を見るな!!!」
「性行為を止めるつもりはないぜ?だかなぁ、妖同士でしてるならの話だ。お前は、人を犯した。それは見過ごせねぇよなぁ?」
「ゆ、許して下さいっ、天之御中主神様!!も、もう二度としませんからっ…」
犬顔の男はそう言って、天之御中主神に縋り付く。
だが、天之御中主神の手は犬顔の男の顔を掴み力を入れる。
ゴゴゴゴゴゴゴッ…!!
天之御中主神の手から黒い靄が現れ、犬神の男の体を包む。
苦痛の声を上げる犬顔の男の足元に、赤い血溜まりが出来始めた。
「な、何が起きているのですか。天之御中主神様」
「此奴の命を終わらせているのだ。俺には破壊すらも操れる」
問いに答えた天之御中主神は、犬顔の男の顔から手を離す。
「ガッァァァァァァァァ!!!痛い、痛い痛い!!」
犬顔の男の体が黒く染まり、皮膚が腫れ血が滲んでいた。
「五月蝿い。最後くらいは、静かに死んだらどうだ?」
「嫌だ、嫌だ嫌だ?!!あぁぁぁぁぁぁぁ!!」
パァァンッ!!
犬顔の男の体が弾け、集まっていた妖達の顔に血が付着する。
言葉を失った妖達に天之御中主神は言葉を投げた。
「お前達を誰が生み出した?言ってみろ、生み出した者の名を」
「「「天之御中主神様です」」」
妖達は声を揃えながら、天之御中主神の前に跪く。
「なら、俺に逆らうのはお門違いだろ?お前達は俺には逆らえないんだ。だとすれば、命令を聞くしかないだろ?」
何も言えなくなった妖達は、天之御中主神の命令を聞く事に。
地上から追い出された妖達は、食糧すらも与えられなかった。
天界の街を作ったのは天界人だけではい。
妖もまた、街の発展に力をかしていたのに。
一人の妖が起こした性行為、それが妖達を非難するには十分な理由だった。
天之御中主神は人と妖、交わる事のない世界を作り上げた。
そして、妖達が暴動を起こすのに時間は掛からなかった。
妖達は武器を手に取り、天之御中主神を殺そうと地上にお向いた。
天之御中主神を守る武装兵、天界軍。
天之御中主神を殺す妖兵、妖軍。
天界の地上ではお互いの譲れないものの為、毎日のように命を落としていた。
この行為をのちに"戦"と呼ばれるようになり、まさに
今が戦の真っ最中なのだ。
天界人達も妖達も、初めて己の"死"に直面した。
目の前に迫る死への恐怖、殺される恐怖。
我々が殺して来た動物達も同じ気持ちだったのだろう。
その事を知るのは戦っている者達だけで、見物している者達は知る由もない。
怪我を負った兵士達は、屋敷の広間で治療を受けていた。
傷がかなり深い所為で、数時間後には死亡が確認され
た。
「天之御中主神様、天界軍の半分が殺されました」
「今、ここにいる者達ものちに死にます。治療をしても無駄かと…」
治療を行っていた天界人の女達は、訪れた天之御中主神に報告をした。
「天之御中主神様、新たな戦力を生み出すべきです」
そう言ったのは、初代の観音菩薩だった。
「何か考えがありそうだな、観音菩薩や」
「はい、半妖を作るのは如何ですか?」
「半妖か…、お前の意見を飲もう。儀式の準備をしてくれ」
「かしこまりました」
観音菩薩は一礼した後、儀式の間と呼ばれる部屋に向かった。
儀式の間とは、天之御中主神が新たな命を生み出すのに使う部屋の事。
天之御中主神は身を清める為、蓮の花が咲く湖に体を浸す。
白い着物に袖を通し、儀式の間に向かう。
部屋の中には数本の蝋燭が建てられ、床には白い布が引かれていた。
その周りには落ち葉が数枚と、塩水の入った桶が置かれている。
天之御中主神は白い布の上に座り、落ち葉をニ枚手に取る。
初代観音菩薩、初代毘沙門天、初代如来。
様々な神達が天之御中主神を囲うように立ち、蝋燭を掲げた。
天之御中主神は落ち葉に塩水を浸し、自身の指を噛む。
ぷくっと指先から血の雫が垂れ、落ち葉の上に着地する。
その瞬間、天之御中主神の周りに白い光の玉達が現れた。
光の玉は一つに集まり、やがて人の形をした赤子に変化したのだ。
「「「おおおおおおおお…」」」
二人の赤子を抱く天之御中主神の姿を見た神々は、声を揃え驚愕した。
「生まれたぞ、この二人が半妖の子供だ。」
そう言って、天之御中主神は二人の赤子の顔を覗く。
一人は赤い髪をした赤子、もう一人は黒い髪をした赤子。
この二人がのちに、美猿王と牛鬼呼ばれるようになる。
妖怪達を滅ぼす為に作られた赤子達は、容姿の差が出て来てしまったのだ。
妖怪との戦が少しだけ治ったのは、二人の赤子が人の歳で言う四歳になった頃。
「あぁ。お前はいつ見ても美しいな、美猿王」
天之御中主神が一人の少年の頬を撫で、目を細める。
太陽光に照らされた真っ赤な髪は白い肌を際立たせ、雪のように白い肌に真っ赤な瞳。
この天界の中でも、一番と言っても良い程の美貌だった。
その容姿にちなんで天之御中主神は、少年を美猿王と名付けた。
美猿王が廊下を通れば、神々達の視線は少年に行き足を止める。
美猿王に用意された部屋に衣服、アクセサリーや食べ物は天界の中では高級品ばかりだった。
今、美猿王が座っている赤い玉座も用意されたものだ。
「ほら、お前の好きな果実だ」
「牛鬼の分は?」
「あぁ、アイツの分はないよ。お前だけだ」
その言葉を聞いた美猿王は、差し出された果実に手を出さなかった。
「どうしたんだ、美猿王。食べないのか?」
「俺だけならいらない」
「どこに行く」
「牛鬼の所」
赤い王座から降りた美猿王は部屋を出て行く。
長い廊下を抜けてから庭に出ると、大きな池の前に座る少年がいた。
ボサボサの黒い髪に痩せ細った体、青白い肌の上には黒い痣。
美猿王は少年の事を"牛鬼"と呼び、振り返らせる。
振り返った少年の顔立ちは、美しさとはかけ離れていた。
重たい一重、両頬にあるそばかすが目立っている。
そんな容姿を見た天之御中主神は"牛鬼"と名付け、罵るようになった。
周りは天之御中主神を真似て、牛鬼に向かって汚いと言葉を吐くようになったのだ。
醜い、汚いなどと言った暴言達。
天之御中主神は人一倍、美しい物を好んだ。
常に側にいる神達も顔は隠されているが、容姿は美しかった。
「美猿王?どうして、ここに?天之御中主神様と一緒にいたんじゃ…」
そう言って、牛鬼は首を傾げる。
「いたけど、出て来た」
「え、なんで…?もしかして、僕が原因?」
「違うよ」
そう言って、美猿王は牛鬼の隣に腰を下ろす。
「絶対そうだ。」
「違うって言ってるだろ。」
「美猿王は嘘をつく時、髪を触るんだよ。知ってた?」
牛鬼の言葉を聞いた美猿王は、髪から手を離す。
「僕、こんな見た目だからさ。天之御中主神は、僕の事が嫌いなんだ」
「見た目って、そんなに大事か?」
「え?それはそうでょ。綺麗な方が好きでしょ?」
「大事なのは中身だと思うけどな」
美猿王は心底、中身の方が重要だと思っていた。
牛鬼に対する態度は目に余る程だったからだ。
自分達を生み出した天之御中主神は、美しい容姿をした者達を側に置いた。
だから、醜い牛鬼に優しい言葉も吐く事はない。
何かと美猿王と比べられ、牛鬼からしたら肩身の狭い思いをしていただろう。
そんな中でも、牛鬼は美猿王の事を嫌いになれなかった。
寧ろ、美猿王の事が好きだった。
美猿王だけが牛鬼の事を気に掛け、側にいたのだ。
汚い言葉も思いやりのない言葉も吐かない。
言葉数の少ない美猿王は、牛鬼の手を引き色んな場所に足を運んだ。
山に登り、目にした事ない動物を目にしたり。
木の棒で手作りの釣竿を作り、釣りをしたり。
些細な生活の中で二人は、この天界で些細な生活を送ろうとしていたのだ。
だが、美猿王と牛鬼が十歳を迎えた頃だった。
戦力の差が現れ始めた事がきっかけで、二人の間に亀裂が入る事になる。
妖軍との戦に出す為、天之御中主神は二人を鍛え始めた。
剣術、武術、術式。
様々な戦い方を天之御中主神は、既に生み出していたのだ。
美猿王は一度で、三つの戦い方を取得してしまった。
牛鬼は術式だけ数日掛けて取得できたのだが、戦に送り出されたのは一人だけだった。
天之御中主神の屋敷の門の外には、天界人達が兵士達を見送る為に集まっていた。
黒い馬に乗る美猿王を先陣に、天界軍が歩行を始める。
「美猿王様!!妖共を倒して来てください!!」
「亡くなった兵士達の報いを晴らしてくだされ!!」
天界人達が次々に叫ぶ中、美猿王は天界人達に視線をむけるだけだった。
その光景を見た天界人は、美猿王の事が神々しく見えたそうだ。
だが、美猿王は天界人にも殺しに行く妖達にも興味がなかった。
言われた事を淡々と熟すだけだった。
牛鬼は唇を噛み締めながら、天界人達の中に潜んで見ていた。
天界人が次に口にしたのは、牛鬼に対する罵詈雑言。
「牛鬼様は何故、何も出来ないのかしら」
「美猿王様は神に等しい存在になりゆるかもしれん」
「我々の希望は美猿王様だけだ。牛鬼様など、居なくても良いのではないか?」
「何の役に立たない牛鬼様など、お荷物に過ぎないな」
牛鬼は強烈な吐き気に耐えながら、天界人の群を抜けた。
「おぇぇぇ…」
道端で耐え切れなくなった牛鬼は吐き出した後、その場で座り込む。
「どうして、僕ばかりなんだ…っ」
頭の中で繰り返される吐かれた言葉。
精神的に参っている牛鬼は、抑えていた涙を流す中。
美猿王は戦場で剣を振い、次々と妖達の首を跳ね飛ばしていた。
ズシャッ!!
紫色の血が飛び散る中、妖達は苦痛の叫び声を上げる。
「グァァァァァァァアイァァア!!」
「ガハッ!!」
美猿王は叫び声など気にしていないのか、戦場を一人で駆け抜けた。
「美猿王様、お下がり下さい!!」
「我々が道を切り開きますゆえ、お下がり下さい!!」
「お前等がいても邪魔だ。他の奴の援護に回れ」
兵士達の声を遮るように言葉を吐き、馬を走らせた。
ドコドコドコドコドコ!!!
妖怪軍の大将の獣人しか視界に入っていなかった。
それは敵将の獣人も同じく、美猿王しか視界に入っていなかった。
二人は同時に走り出し、武器を構える。
ドコドコドコドコドコ!!!
ズシャッ!!!
同時に武器を振り下ろすが、美猿王の剣の方が早かった。
ブシャァア!!!
獣人の動脈から血が噴き出すのを見た妖達は、一斉に動きを止めてしまった。
それは長年の戦で初めて、勝敗がついたからだ。
カチャンッ。
妖怪達は武器を落とし、泣き叫ぶ。
殺された獣人を囲み、妖達は泣き崩れた。
天界軍が歓喜の声を上げる中、美猿王だけは違ったのだ。
妖達は獣人の為に涙を流すが、天界人は誰一人と人の為に泣かなかった。
誰かの為にこんなにも泣けるもなのか。
天之御中主神から聞かされたのは、妖達が悪さばかりをしたから地上を追い出したと。
天界人を襲い殺し、食料を食い散らかしたりしていたのに。
妖達はこちらに刃向かい、戦を起こしたのだと。
だが、実際にそうなのか?
本当に妖達が悪さばかりをしたのか?
美猿王はこの時、初めて天之御中主神を怪しく思えたのだ。
天界軍に気付かれないように、美猿王は妖達に近付く。
「な、何だよ!?」
「こ、こっちに来んなよ!!」
「俺達から全てを奪った天界人め!!」
最後の言葉を聞いた美猿王は、妖達に尋ねた。
「お前等、本当は何もしていないじゃないのか」
「え…?」
「聞かせてくれ。お前等が何故、戦をするのかを」
妖達は美猿王の言葉に驚愕し、目を丸くさせる。
「貴方は…、天界人なのに。俺達の話を聞くのですか?」
「信じてくれるのですか…?」
美猿王の前に妖達が集まり、縋るように顔を上げた。
「お前等が、死んだ獣人の為に泣いていたから。本当の事が知りたくなったんだ」
「「「っ!!!!」」」」
妖達の顔がパッと明るくなるが、美猿王は顔を逸らし後ろに視線を送る。
「だが、俺は帰らないといけねぇ。だから、地下に顔を出しても良いか。」
「は、はい!!」
「我々だけが貴方とお話しします。仲間達は天界人を嫌っておりますから…」
「分かった。二日後の深夜に地下の入り口で」
そう言って、美猿王は妖達に背を向け馬を走らせた。
美猿王が戦に行ってから二日と言う速さで、天之御中主神の屋敷に帰って来たのだ。
敵将の首を討ち取ったと天界でいち早く広まっていた。
その所為なのか、美猿王達が帰って来ると街がお祭り状態だったのだ。
「美猿王様ー!!」
「流石で御座います!!」
「まさに貴方様こそが、我々の希望だ!!」
紙吹雪の中を歩く美猿王は、天界人達を軽蔑する眼差しを送っていた。
醜く太った体に似合わない高級な衣服。
用意されたご馳走に祝杯の数々。
これら全ては、妖達から奪い取った物達だ。
なのに何故、天界人達は平然としていられるのか。
美猿王の心情は穏やかではいられなかったのだ。
「良くやったぞ、美猿王。流石は俺の子供だ」
天之御中主神は酒を飲みながら、帰って来た美猿王を広間で迎えた。
その姿を見て、美猿王は溜め息を吐くしかなった。
何人かの女を侍らせ豪快に酒を飲み、下品に笑う。
周りの神達も顔を隠さずにケラケラと笑っている。
美猿王にとっては、その笑い声さえも気持ち悪く感じた。
「…」
「また次の戦も頼むぞ、ガハハハ!!!」
「…」
広間に目をやるが牛鬼の姿はどこにもなく、いない事が分かった。
美猿王は広間を抜け、牛鬼を探す事に。
タタタタタタタッ。
小走りで廊下を抜け庭に出ると、牛鬼が背中を丸めて座っていた。
「牛鬼、ここにいたのか」
「っ!!び、美猿王…。帰って来たんだね…」
そう言って、振り返った牛鬼の顔が変わっていた。
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