変わり出す時代

下界ー


「何で、俺達が女にならなきゃいけねーんだよ。意味が分からない。」


そう言って、沙悟浄は頭を掻く。


「お前等には閻魔(えんま)の屋敷に忍び込んで貰う。」


「「「はぁ?」」」


明王の言葉を聞き、悟空等三人の声が重なる。


「ほら、メイドの制服も持って来てやったぞ。」


じゃじゃーんっと言いながら、明王はフリフリのレー

スが大量に着いたメイド服を取り出す。


メイド服は全部で四枚あり、三蔵一行の分だと一目瞭然だった。


「いやいやいや、メイド服を見せられても困るんですけど!?」


「閻魔の屋敷に使える使用人達は、全員が女なんだよ。男の使用人は雇ってねーんだよ。」


「はい?俺達が、使用人になるって事?」


猪八戒は出されたメイド服を見ながら、呆れたように言葉を吐く。


「そこにあるんだろ、伝承が。」


悟空はそう言って明王に尋ねる。


「観音菩薩から聞いてんだろ?お前が探してる伝承は閻魔の屋敷にある。お前等には伝承、鬼の伝承の書物を持って来て欲しい訳。」


「鬼の伝承…。それって、絶滅した鬼の事が書かれた書物だろ?悟空はそれが必要なのか?」


明王の言葉を聞いた沙悟浄が悟空に尋ねる。


「あぁ、鬼の伝承とやらには美猿王も用があるらしい。俺も知りたい事がある。」


「そうか。悟空の用事に付き合うよ、俺は。」


「俺も良いけどさ、三蔵が帰って来ないと話は進まなくね?」


猪八戒が言葉を吐いた瞬間、目の前に白い鳥居が現れた。


ドゴンッ!!!


白い鳥居の間から、傷だらけの三蔵と哪吒が飛び出して来た。



源蔵三蔵 二十歳


ドサッ!!!


「おい、三蔵!!大丈夫か?」


沙悟浄の声が聞こえ、目を開けると小桃の屋敷の広間に戻って来れていた。


「良かった、下界に帰って来れた…。」


「哪吒、石は死んだんだね。」

 

戻って来た哪吒に風鈴は、石の事を尋ねる。


答えない哪吒の代わりに俺が答えることにした。


「石は…、俺達を逃す為にっ…。」


「石も邶球も死んだんだね。これが僕達の運命だったんだ。」


俺の言葉を聞いた風鈴は悲しげに笑う。


明王は俺を見て口を開ける。


「おい、三蔵。観音菩薩と天部はどうした。」


「分からない。毘沙門天の屋敷で別々に行動したか…。」


ガッ!!!


言葉を全部言う前に、明王は俺の胸ぐらを掴む。


「どう言う事だよ、それ。観音菩薩と天部の二人に屋敷の中に行かせたのか!!」


「二人は調べたい事があるからって…。」


「ッチ、そうかよ。」


明王は乱暴に胸ぐらを離し、舌打ちをする。


その姿が何故か吉祥天と毘沙門天に重なって見えた。


「アンタ等神って、何なんだよ。」


俺の口から勝手に言葉が出てくる。


だけど、俺には抑える事が出来なかった。


「どう言う意味で言ってんだ、三蔵。」


明王の声色が変わり、怒りの感情が含まれているのが分かる。


「おい、三蔵っ。やめとけって。」


俺は猪八戒の静止を無視して、口を開く。


「アンタ等は人に説教が出来んのかって聞いてんだよ。そんなに偉いのかよ、神って存在は。」


「喧嘩売ってんのか、テメェ。」


「何様のつもりなんだよ、テメェ等はよ。神は自分の思い通りにする為なら、何でもして良いのか。」


距離を詰めて来た明王に向かって、言葉を吐いた。


「三蔵。天界に行って、何を見て来た。」


悟空の声がし、ハッと我に帰る。


沙悟浄も猪八戒も心配そうな眼差しを向けていた。


「悟空…、俺は石を助けらなかった。石を犠牲にして、ここに帰って来れたんだっ…。」


泣きそうになるのを堪えながら、悟空の顔を見る。

いつもみたいに馬鹿にするだろうか。


悟空になんて言われるのかを考えていた。


「三蔵、物事ってのは一つしか決められねぇんだよ。石は、お前と哪吒を生かす事を決めただけだ。」


「だけど、俺は何も出来なかった。」


「お前は哪吒を救う事を選び、それがこの結果に結び付いたんだ。良いか、三蔵。お前が懺悔の言葉を吐く

度に、石の事を侮辱してると思え。」


その言葉を聞いて、俺の脳裏に石が死ぬ瞬間が浮かんだ。


石は俺と哪吒を見送る時、笑っていた。


石は、心の底から俺達が逃げれてた事を喜んでいるように見えた。


悟空は俺の隣で下を見いている哪吒に声を掛ける。


「哪吒、お前もだ。自殺しようなんて考えは捨てろ。生かしてもらっておいて、死ぬのは石の選択を無駄にすると思え。」


「っ…。」

 

悟空の言葉が響いた哪吒の瞳から涙が溢れる。


「石っ…。」


「石は君達の事が好きだったんだよ、本当に。」


風鈴が近寄り、優しく哪吒の背中を摩る。


「三蔵。本当の神が知りたいのなら、お前自身で調べろ。」


「明王…、さっきは悪かった。」


「気にしてねーさ。俺達は観音菩薩を神として讃え、側に居んだ。俺にとっての神は、観音菩薩だ。だか

ら、お前はお前の思う神を見つけろ。」


明王の言葉には重みがあり、考えを改めさせられた。


「三蔵に話をしとけよ、俺は天界に戻って観音菩薩を探す。」


そう言って、明王は姿を消した。


バンッと扉が開き、小桃と緑来が現れ広間に入って来た。


「どうしたの…って、哪吒!?髪が黒くなって…、三蔵も何で、ボロボロなの?」


「何かあった?」


小桃と緑来の間の抜けた声が広間に響き渡る。


「いやぁ…、実はね?」


猪八戒が二人に先程の出来事を説明していった。


三日後


「あのさ、哪吒。飯ぐらい自分で…。」


「ダメ、安静にしないと。」


「充分、安静にしてるよ…。」


あれから三日後、哪吒が付きっきりで世話をしてくれていたのだ。


包帯の巻き替えから飯の世話まで。


甲斐甲斐しく世話してくれている哪吒は、正直可愛い。


「顔が赤い。熱でもあるのか。」


「ないないない!!」


「それなら良いが…。」


哪吒はそう言って、テーブルに空になった皿を置く。


 

「石の墓を作ってくれて、ありがとう。」

 

「いや、俺も作りたかったし。お礼を言うなら、墓石を用意した小桃に言いなよ。」


「さっき言いに行こうとしたら、悟空と二人で何処かにいったぞ。」


「二人で!?」



孫悟空ー


俺は小桃に連れられ、再び爺さんの墓の前に来てい

た。


小桃の足元には白い子猫が必死に歩いている。


「ごめんね、付き合わせちゃって。」


「別に構わなねーけど、何だ?」


「他の人に見られたらダメだったから、弔いの儀式の時には渡せなかったの。」


小桃はそう言って、爺さんの墓の後ろに周る。


カチャッと何かが解除された音が聞こえ、小桃の手には小さな箱が握られていた。


「この箱が、俺に渡したかった物か。」


「うん。おじちゃんが、悟空が来たら渡して欲しいって。」


「爺さんが?」


そう言って、小桃が俺に箱を差し出して来た。


箱を受け取り蓋を開けると、中には白い宝石が装飾された一本の鍵がある。


「何だ、この鍵は。」


「分かんない。ただ、渡せって言われたから。」


「そうか。」


爺さんが理由もなし鍵を残し、隠したりしない。


俺が必要となると見越しての行動だろう。


「分かった。」


鍵を箱の中に戻すと、小桃が様子を見ながら口を開く。


「三日前の夜ね、小桃の前に知らない女の子が現れたの。その子、美猿王と関係のある子みたいで。」

 

「三日前…って、なんでその時に言わなかったんだよ。」


「緑来を宥めるのが大変で…。ごめんね。」


俺の言葉を聞いた小桃は、眉毛を下げしょんぼりしてしまった。

 

「怒ってねーよ。それで?美猿王が関係してるって、どう言う事だ。」


俺は小桃から謎の女の話を聞く為に、桜の木の下に腰を下ろす。


小桃も隣に腰を下ろし、女の事を話し出した。


美猿王が鬼達と反乱を犯し、神達に皆殺しにされた事。


美猿王は何度も生まれ変わり、一人で戦って来た事。


そして、女は死んだ者を生き返らす力があると。


女は何故か、小桃に封印を解きに来てほしいらしい。


「本当に美猿王って、悪い人なのかなって。その子の話を聞いてたらさ?美猿王は…、変えたかったんだろうなって。」


「変えたかったって、天界をか。」


「うん。だって、毘沙門天達が現れてから失うものが多くなった気がするの。」


そう言って、小桃は白い子猫の頭を撫でる。

 

「小桃、女の子に会いに行こうと思う。会って、確かめたい。悟空は行くの?閻魔大王の所に。」


「そのつもりだ。鬼の伝承を取り戻して、確かめたい事がある。美猿王と牛鬼の因縁を知る必要があるらしい。」


「また、悟空と離れ離れになっちゃうね。せっかく、また会えたのに。」


「寂しいのか?お前。」


俺の言葉を聞き、小桃の顔が真っ赤に染まった。


小桃は俺の事が好きなんだろう。


反応を見れば誰だって分かるし、俺の為に魔天経文を今日まで守り続けて来た。


健気に俺を待ち続けた小桃を愛らしく思うし、愛おしくも思った。


普通なら小桃を抱き締めて、口付けをして愛を囁く筈だ。


だが、俺は愛よりも目的を優先してしまう。


目的が果たされるのはこれから何年、何百年先になるか分からない。


「小桃、俺はやめとけ。」


「え…?な、何で…。そんな事、言うの…?」


服が肌け、右肩から鎖骨にかけての傷を縫った糸が見えた。


俺を待ち続けた小桃は、500年と言う長い時間を無駄にして来ただろう。


これ以上、小桃に待ってろと言うのは酷じゃないか。


俺は、小桃を待たせるのはもう嫌なんだ。


「女に会いに行くのはやめろ。俺の為に行くのならな。」


「そんな、急にっ…。付け離すような事を言うの?」


「怪我、早く治せよおチビ。」


俺は泣きそうな小桃を桜の木の下に置き、背を向けて歩き出す。


小さくなって行く俺の背中を見ながら、小桃は泣いていた。



「悟空。」


花の都の街中を歩いていると、目の前に現れたのは黒のジャケット姿の如来だった。


「如来か?何の用だ。」


「あぁ、お前に用があってこちらに来た。」


「俺に?何だよ。」

 

「お前を慕う妖達の位を上げに。」


如来の言葉を聞いて、ピクッと眉が動く。


「位を上げる?意味分かってんのか。」


本来、妖に位を上げる事はない。


位を貰うと神々と同等に意見を述べ、発言ができ天界を行き来しても良くなる。 


つまり、神と同じ扱いになると言う事。


「あぁ、分かっている。」


「なら何故、丁達と天と邪に目を向けた。利用する気なんだろ、アイツ等を。」

 

そう言って、如来を睨み付けた。


「天帝が目覚めた。この事はまだ、観音菩薩達以外に悟空にしか話していない。天界の歴史を変える時が来たと、天帝からのお告げだ。」


「は?天帝が目覚めたって、呪術が解けたのか?それに、歴史を変えるって…。」


「今は、毘沙門天等にバレないように天帝の身を隠している。かつての天界は、妖と神が共に暮らしていた。」

 

「妖と神が天界で暮らしていたって、今は違うだろ。今更、妖等を天界に呼び戻す気かよ。アイツ等は神嫌いだ。それはアンタ等がよく分かってんだろ。」


俺達、妖は神嫌いが多い。


俺も含め、殆どの妖は神の偉そうな態度が気に入らない。


自分達を汚い物を見るような視線を送り、罵詈雑言を浴びせられた。


ましてや、神に逆らった妖は幽閉されてしまう。


「妖の為の妖による妖軍、百鬼夜行を作りたいと思っている。妖と神が交流する為の橋渡しになってほしいんだ。」


「本気なのか。」


「あぁ、本気だ。俺が全ての責任をおうつもりだ。」


「成る程な、アイツ等に話してみろよ。呼べば、すぐ来るぞ。」


そう言って、パチンッと指を鳴らす。


シュンッ!!


「お呼びですか、若。」


「王、呼んだ?」


丁と邪の声が重なると、俺の後ろに天邪鬼の二人と丁達の四人が現れた。


「お前等に用があるんだと、話を聞くか?」


「話ですか?」


丁は俺と如来の顔を交互に見つめていると、李が口を開いた。


「若、コイツ神じゃないですか。神が何の用だ。」


「李、ケンカ売らない。」


「はぁ!?喧嘩売ってねーだろ!!別に!!」

 

「お前等は黙っとけ。」


胡が李と高が言い合いを止める中、邪が如来に声を掛ける。


「上から話を聞いていたけど、僕達が神の言いなりになるメリットは?」


「神と同じ立場に立ち、意見が出来る。君達が悪行をしないと言うのが条件だが。」


「成る程、気に入らない神がいれば殺しても文句を言われないのか。だけどさ、僕と天を幽閉した事を許したつもりはない。ましてや、君等の命令を聞く気はないよ。僕等の王はここにいるお方一人だけ。」


そう言って邪は俺の方に顔を向け、天は俺の腕にしがみ付く。


「なら、悟空を中心とした百鬼夜行ならどうだ。」

その言葉を聞いた丁達と天邪鬼の二人の目が丸くなる。


「若が大将とした百鬼夜行…。つまりは、若の為の妖軍って事か!?うわー!!めっちゃカッコイイ!!!」

 

「王が妖達を率いるって、昔に戻ったみたいだな!!!」


李と天が大きな声を出して興奮し出す。


「観音菩薩の言葉だけ聞いてくれれば良い。だが、最終的な判断は悟空に任せると約束してくれ。それなら、納得行くか?邪と丁とやら。」


如来は丁と邪に話を降り、反応を見ている。


「王が中心としての百鬼夜行は良いよ。だけどさ、王や僕等を馬鹿にした時は誰だろうと殺すよ。」


ジャキッ。


邪は話をしながら自身の爪を鋭く伸ばす。


「若の意見に従いますよ、黎明隊は。貴方の命令通りに動くつもりですから。」


丁の言葉を聞き、俺は黙って頷き口を開く。


百鬼夜行の話を聞き、ある計画を思い付いたからだ。


それに、如来の本当の狙いも読めていた。


「如来、哪吒と風鈴も百鬼夜行に入れろ。」


「あの二人をか?だが、毘沙門天の人形だろ?そんな二人を入れるのか?」


「如来、神達が行う会談に百鬼夜行を出したいんだろ?」


「気付いていたのか?」


俺の言葉を聞いた如来は、驚いた表情を浮かべてた。


「大体の予想は付くだろ。哪吒と風鈴がお前等側に行ったと証明しろ。百鬼夜行の妖達は毘沙門天等を殺す集まりだって、知らしめろ。俺の下にいる妖達が神達の天地をひっくり返す。」


「あははは!!流石だね、王。王のそう言う所に惚れたんだ!!」


「若、流石です!!」


ギュッ!!


李と天は俺に抱き付き、喜びの笑みを浮かべる。


「成る程、毘沙門天の悪行を知らしめる機会にもなる。」


「如来、変えるんだろ天界の秩序を。なら、派手に行こうぜ。毘沙門天の苦痛の表情が目に浮かぶ。」


「お前の悪知恵には頭が上がらない。」


如来は苦笑していたが、どこか楽しそうだった。


俺達含め、如来と共に小桃の屋敷に戻り哪吒と風鈴を呼び出した。


勿論、この事を三蔵達にも報告する為に三人を広間に呼び付けた。


事の経緯を話すと三人は口を開けたまま、ポカンとしていた。


天帝が起きた事を伏せての説明になった。


「おいおいおい!?俺達のいない所で、とんでもない事になってんじゃねーか!?」


「うるせーなー、猪八戒。なんなら、お前も入るか?」


「誰が入るか馬鹿!!」


「おい、王を馬鹿にすんなよ!!」


「ぐぇっ!?」


ドカッ!!!


俺を馬鹿と呼んだ猪八戒を天が蹴り飛ばした。


「百鬼夜行か…、思い切りましたね如来。」


「元々、妖の軍を作ろうと言う話は出ていたからな。」


「まぁ、悟空が良いなら良いですけど。哪吒と風鈴は?どうするんだ?」


沙悟浄はそう言って、哪吒と風鈴に話を振る。


三蔵は心配そうな顔をして、哪吒の顔を見ていた。


「毘沙門天様に罪を償わせたい。石の無念を晴らしたい。これから、毘沙門天様がやる事を止めたいと思う。」


「毘沙門天の目の前に立って、その事を発言出来るか?哪吒。お前の口から毘沙門天に、敵対する事を宣言するようなものだぞ。」


「如来様、僕の今の主人は三蔵だから。百鬼夜行に入れば、役に立てると思う。」


如来の問いに答えた哪吒は、三蔵の手を握る。


「哪吒、無理だけはするなよ。」


「うん、分かった。」


「なら、良いけど…。」


「あれ、二人とも…。なんか良い感じじゃね?」


腹を押さえながら、猪八戒は哪吒と三蔵をニヤニヤしながら見つめた。


「は、はぁ!?何、言ってんだよ!!?そ、そんな事ねーし!?」


「あれあれー?三蔵ちゃん、お顔が赤いですが?」


三蔵の反応を見て、猪八戒はますます揶揄い出す。


「おい、猪八戒。あまり揶揄うな。良いじゃないか、若い証拠だ。」


「お前、それフォローになってねぇぞ。」


「え?」


俺の言葉を聞いた沙悟浄はキョトンとしていた。


「哪吒が良いなら、僕も良いよ。お兄ちゃんの役に立ちたいしね?」


風鈴はそう言って、沙悟浄に抱き付く。


「正式な手続きはこちらでしておく。三蔵達は明王と共に、閻魔大王の所に行くんだったな。これを渡しておくよ、女体薬。」


如来が取り出したのは、ピンク色の錠剤だった。


「明王は観音菩薩を探しに行ったんだろ?来れんのか、アイツ。」


「あぁ、それなら問題ないよ。もう少ししたら、こちらに来る筈だ。」


「あっそう。」


「使用人の仕事、頑張れよ。」


「うるせーぞ、如来。」


俺はそう言って、錠剤を受け取り如来を睨み付けた。



一方、その頃。


鳴神が率いる飛龍隊は、下界の宝像国から離れている山に来ていた。


険しい山道を歩きながら、鳴神達はとある人物を探し回っているのであった。


「隊長、次は居ると良いですね。」


「あぁ、ここで三つ目の山だからな。当たりだと良いがな。」


「隊長ー、こっちに洞窟がありました!!!」


鳴神と雲嵐が会話をしていと、隊員の一人が二人に声を掛ける。


呼ばれた隊員の方に足を運ぶと、洞窟の入り口が現れた。


数名の隊員達が既に洞窟の中に入り、火を照らしてい

る。


「隊長、副隊長。こちらに人がいた形跡があります。」


隊員が火を地面に灯すと、燃え尽きた木々達と動物の骨が落ちていた。


「焚き火の跡か、奥にも道が続いてんな。」


「行ってみますか?」


「あぁ。」


鳴神を先導に飛龍隊は、さらに洞窟の奥に進む。


湿っぽい空気が流れ出し、水の水滴が落ちる音が響く。


岩に囲まれた洞窟の道から抜けると、目の前には大きな地底湖が現れた。


綺麗なグリーンブルーの湖が一面に広がり、周りには岩で作られた家具が配置されていた。


「こんな奥に地底湖があるとは…。」


「どちら様じゃ?ここはわしの住処じゃが?」


鳴神に声を掛けたのは、額に二本の角が生えた老人だった。


「アンタ、もしかして鬼か?」


「そう呼ばれるのも久しぶりじゃのう。お前さんは?妖か?それとも神か?」


「どちらでもあるな。爺さんに聞きたい事があって来

たんだ。」


鬼の爺さんは岩の椅子に腰を下ろすと、鳴神にも座るように促す。

 

鳴神達は岩の上に腰を下ろした。


「聞きたい事ってなんじゃ。」


「アンタ以外に鬼は生きてるのか?それとも絶滅したのか?」


「さぁ、分からん。わし以外の鬼は皆、神が冥界に落としたからのう。」


「美猿王と反乱を起こしたからか。」


「懐かしいのう、あのお方はまだ生きておられるのか?」

 

「あぁ、生きてる。だが、記憶は失われてるみたいだ。」


鳴神の言葉を聞いた爺さんは、長い髭を触りながら話を続けた。


「そうか…。あのお方は尚、神に縛られておるのじゃな。」


「縛られてる?」


「お主は何故、あのお方が反乱を起こそうとしたのか分かるか?」


「分からないな。」


「あのお方は神の悪行を見てから、反乱を起こしたのじゃ。」


「悪行…。それは一体?」


鳴神は前のめりになりながら、爺さんに尋ねる。


「神はどう暇を潰そうか考えた。そして、思い付いたのじゃ。化け物を作り出し、殺し合せようと。」


「それは…、戦か。天界で起きた最初の戦の事を言っ

ているのか?」


「少し長くなるぞ?この話をすると。」


「構わない、俺はその話を聞きたくて来たんだ。酒を持って来てある。飲みながら、聞かせて貰う。」


「酒なんて久しぶりじゃのう。」

 

爺さんは差し出された酒瓶を受け取り、岩のグラスを二つ取り出した。


グラスの中に酒を注ぎ、鳴神に渡し口を開いた。


「美猿王と牛鬼、永遠の命を与えられた二人の悲しい話をしよう。」


酒を一口飲み、爺さんは細い目をして語り出す。


今から語られる美猿王と鬼達の伝承の予章がー




 

 第陸章    完


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