桜華の花達 弐

日が暮れ、福陵は夜の花が咲き誇る街に早変わりした。



源蔵三蔵 十九歳


「おい、三蔵。」


悟空はそう言って俺の体を揺すって来た。


俺は重たい瞼を強引に開けた。


悟空は俺の隣にあるベットで顎に手を置いていた。


「あれ?俺もしかして、寝てた?」


「2時間ぐらいな。ほら、外見てみろ。」


俺は悟空に促されながら窓の外を見つめた。


明るかった空が綺麗なオレンジ色に染まっていた。


「そろそろ、鈴蘭が開く時間じゃねーの?」


悟空は欠伸をしながらそう言った。


確かに、夜の店が次々に開く時間だな。


ベチャッ…。


寝汗をかいたせいで、服が肌に張り付いていた。


それに…、俺ちょっと汗臭いかもしれない!!


俺は慌てて飛び起きた。


「あ!!本当だ!俺、風呂入って来て良い!?」

 

「風呂だぁ?」


悟空はそう言って俺の体をを上から下まで見た。


「はいはい、入って来いよ。そんで、粧し込んで来い。」


な、なんか子供扱いされてる気がする…。


だが、今は言い返えす時間はない!!!


俺は悟空に「ありがとう!!」と言ってから急いで


風呂場に向かった。


風呂場に入り、急いで着ていた服を脱いだ。


服からは汗の匂いが染み込んでいた。


ゔ…。


これは洗濯した方が良さそう…。


こんな汗臭い状態で妓楼達がいる店に行けない!!


それに、俺に花を渡してくれたあの子にも煙たがれるかもしんねぇ!!


汗臭い服を足元にあった籠に乱暴に放り込み、風呂

場の扉に手を掛けた。


ガラガラッ。


扉を開けると、既に風呂桶には湯が張っていた。


きっと、この宿の人が湯を淹れてくれていたのだろう。


俺は桶に湯を入れ体の汗を流した。


バシヤァァア。


暖かいお湯が俺の体がかいた汗を流してくれた。


そして、そのまま俺は風呂桶の中に入った。


念入りに頭と体を洗った方が良い…よな。


あ、そう言えば代わりの服とか用意してくるの忘れた…。


あー!!


どうしよう!!


そんな事を考えていると、悟空が風呂場の扉を開けて来た。


ガラガラッ。


「お前が寝てる間に着替え買って来たぞ。勝手に金使っちまったけど良かったか?」


「え!?ご、悟空が俺の着替えを買って来てくれたのか??」


驚いた。


まさか、悟空が俺の為にわざわざ着替えの服を買って来てくれるもは思ってもいなかった。


「あ、後、工芸茶も買ったけど。」


「ぜ、全然良いよ!!あ、ありがとな。着替え買って来てくれて…。」


そう言うと、悟空は意地悪な笑みを浮かべた。


「いやぁ?寧ろ、お前の事をダシにしたら色々くれたし。これからも使わせて貰うぜー。ここに着替え置いとくから、さっさと出て来いよ。」


悟空はそう言って風呂場を出て行った。

俺もさっさと出ようっと!!


そう思った俺は、急いで風呂桶を出て頭と体を洗い、風呂場を出た。


風呂場を出ると、畳まれているネイビー色の漢服が置いてあった。


広げて見ると、真っ赤な椿の花が刺繍されていた。


セ、センスが良い…。


袖を通して見ると、服のサイズも丁度良かった。


これは服屋の店員の見立てだろうな。


鏡で全身を確認してから風呂場を出た。


部屋に戻ると、工芸茶の良い香りが鼻を通って来た。


悟空が手慣れた手付きでお茶を2人分淹れてくれていた。


「お茶淹れるの慣れてんな。」


「まぁな。ほれ、返すわ。」


そう言って、悟空は金の入った袋を投げて来た。


「わ、わっと!!」


俺は慌てて袋を取った。


チャリンッ…。


俺が持って来た金よりも中身の金が増えていた。


さっき、悟空が意地悪な笑みを浮かべた理由が分かった。


きっと、俺の事をダシにして金を増やして来たのだろう。


1ヶ月妓楼達と遊べるぐらいの額が入ってる。


「茶が冷めるぞ。さっさと飲めよ。」


「あ、あぁ。お前、この額をどうやって…。」


「人の善意を無碍にする事ならず。それを通しただけ。」


「あ、あー。」


悟空の言葉を聞いて、お師匠の事を思い出した。


お師匠もその言葉を良く口にし、信者さんから色々貰ってたな…。


悟空も同じようにしていたのだろう。


そんな事を思いながら出された工芸茶を口にした。


花の香りの後に少し苦味が口の中に訪れた。


だか、その苦味はすぐ甘味が来た。


「美味い…。苦いからあんまり好きじゃなかったのに、今日から好きになりそうだ。」


「そりゃあ、良かったな。んじゃ、茶も飲んだ事だしそろそろ出るか。」


悟空はそう言って立ち上がった。


俺も急いで工芸茶を飲み慌てて立ち上がった。


「そんな慌てなくても…。」


「あ、慌てねーし!!それより俺、変じゃないよな?」


俺は悟空に全身を見て貰うようにクルッとその場で回った。


「あ?どこも変じゃねーけど。そう言う事は女に聞け。」


こう言う言葉を、さらっと言える悟空は俺よりも大人なんだろうなっと思う。


悟空はそのまま部屋を出て行った。


俺は少し歩く速度を速くして悟空の後を追い掛けた。




宿を出た三蔵と悟空は鈴蘭に向かう為、妓楼達が集う桜華に向かっていた。


昼間はやっていなかった飯屋が開いていた。


悟空は昼間でもやっている服屋に訪れ三蔵の服を購入したのだった。


桜華に近付けば近付く程に歩いている人達が増えて行った。


今度は人の波に流されないように三蔵は悟空の腕を掴んでいた。


悟空はチラッと三蔵の顔を見つめた。


三蔵の表情が固くなっている事に気が付いた。



悟空ー


コイツ、ガチガチに緊張してんな…。


「おい、緊張し過ぎだろ…。」


「は、はぁ!?き、緊張なんかしてねぇよ。き、気の所為じゃないのか!?」


いやいや…。

その反応を見たら誰だって緊張してるのが分かるだろ…。


三蔵の気持ちとは裏腹に俺達は桜華の入り口に辿り着いていた。


桜華と書かれた看板が目に入った。


「ほら、堂々としてろ。」


俺はそう言って三蔵の背中を叩いた。


バシッ!!


「いってぇー!!何すんだよ悟空!!」


三蔵はそう言って涙目で俺を睨んで来た。


どうやら相当、痛かったらしい。


「力の加減を間違えちまったかな?」


俺は流すように適当にあしらった。


「お待ちしておりました!!三蔵様!!それとお付きの方!!」


目の前から音華達を引き連れていた小太りの男が俺達に近寄って来た。


三蔵様…って、この男コイツが三蔵だって気付いた

か。


それに俺の事もお付きの方…って言ったよな?


これは…、利用する他ないよな?


「三蔵様でお間違いないですよ。良く俺達が来たのが分かりましたね。」


俺は丁寧な口調で小太りの男に尋ねた。


三蔵は驚いた顔をして俺を見つめている。


俺は三蔵に小声で耳打ちをした。


「お前、今からは相槌(アイヅチ)するだけな。」

「え?何でだよ。」


「良いから。言う事を聞け。」


「わ、分かったよ…。」


三蔵の了承を得たので、再び小太りの男に視線を向けた。


「そりゃあ、分かりますよ!!他のお客様とは雰囲気が違いますからね!!ささ、御案内します!!音華と黄華(キイカ)がお待ちしてます!!」


「黄華?」


三蔵がそう言うと、小太りの男が答えた。


「三蔵様に花を贈った妓楼の名前です。黄華は鈴蘭では2番目に人気のある妓楼なのですよ。1番良い部屋をご用意させて頂きました。さぁ、参りましょう。」


そう言って小太りの男が歩き出したので、俺達も歩き出した。


小太りの男は男達の波を上手く掻き分けながら先を歩いてくれたので、俺達は人に打つかる事はなかった。


暫く歩いていると、白い鈴蘭の造花が沢山飾ってある店に辿り着いた。


かなり高価な建物だと見て分かる。


看板には鈴蘭と書かれていた。


確かに、この桜華の中では高級な青楼(セイランの店など分かった。


「さぁ、どうぞ。」


小太りの男はそう言って紅色のレースの暖簾(ノレン)を持ち上げた。


「おら、三蔵。さっさと中入れ。」


「お、おう…。」


三蔵はそう言って、恐る恐る暖簾を潜った。


三蔵の後に続いて俺も暖簾を潜ると、青楼達の声が耳に届いた。


「「いらっしゃいませ。」」


入り口に並んでいた数名の青楼達が俺と三蔵の姿を見て頭を下げて来た。


三蔵は青楼達の姿を見て、目をパチクリさせていた。


「音華!!黄華!!お客様がお見えになられたぞ!!」


小太りの男がそう叫ぶと、2階に続くと思われる階段から2人降りて来た。


口元が隠していない音華はやはり、美人だった。


音華の隣にいる金髪の髪を靡かせた青楼は綺麗系の美女だった。


だが、俺はこの黄華と言う青楼に対して初対面な気

がしなかった。


「三蔵様!!お待ちしておりましたわぁ。」


黄華はそう言って三蔵の腕に自分の腕を絡ませていた。


「え、は、はわわ!?」


三蔵は顔を真っ赤にして口をパクパクさせている。


あらら…。


これは三蔵には刺激は強いだろうな…。


そう思いながら三蔵を見ていると、音華が俺に声を掛けて来た。


「お待ちしておりました。遥々この、鈴蘭にお越し頂き誠に感謝します。」


音華はそう言って俺に軽く頭を下げて来た。


気品のある態度に驚いた。


俺が見て来た青楼達とは違っていた。


"高嶺の花"と言う言葉が音華には似合っている。


「部屋に御案内しますね。さ、こちらへどうぞ。」


「三蔵様。こちらですわ。」


「は、はい…。」


黄華は三蔵と共に階段を登って行った。


音華と俺は三蔵の直ぐ後に階段を登った。

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