第2夜
「朝、目が覚めたら知らないイケメンが朝食作ってて草」
起きたばかりの働かない頭でようやく振り絞って出た言葉がよりによってこんな言葉とは。
案の定、今だ目の前ではイケメンが困惑しながら「え?くさ?」などと言っているではないか。と、いうか・・・。
「どちら様ですか?」
動揺しすぎて忘れていたけど、普通に他人の家で勝手に朝食を作っているってヤバくないか?この状況下でこういう人の事をなんていうのか、質問サイトに聞いてみたら満場一致でこう返ってくるのだろう。
「不審者・・・警察・・・」
ベッドのサイドボードにおいてあるスマホに手をのばす。
それを見たイケメン・・・いや不審者くんは慌てて「ちょっと待って!」と私のスマホへと伸びる手を制止するために掴んだ。
思いのほか強い力で握られ怯む、そのことに不審者くんも気づいたのだろう、「ごめんなさい!」と慌てて手を放す。
「あの、話しだけでも聞いてください」
不審者くんは気まずそうに視線をさ迷わせながら小さく呟いた。
それはまるで迷子になった小さな子供を見ているようで私の警戒心をほんの少しだけ解いたのだった。
「話しは聞くからリビングに行きませんか?」
―――――――――――――――――――
ダイニングテーブルに座り手元には頭が冴えるようにコーヒーを用意した。少しだけ熱めのものを二つ、私と男のものだ。
「それで貴方はどちら様ですか?」
今度は動揺せずにゆっくりと、はっきりと男に伝える。
すると男もゆっくりと事の経緯を話し始めた。
「はい、まず俺・・・僕の名前は市川よるっていいます。会社員をしています。」
そう言ってどこからか出てきた名刺を受け取るとそこには聞いたことのある企業名が記されていた。視線を男改め市川さんに戻す。
「それで僕、昨日嫌な事があって飲めないお酒を飲んでから記憶がなくて・・・気が付いたら上半身裸で布団にくるまって寝てて」
「あ、昨日の」
頭の中で昨日の出来事がよみがえり一人納得する。そうか市川さんは昨日私がやけくそになり連れ帰った男、その人だったのか。
私の呟きが聞こえたのか市川さんは照れ臭そうに笑って言う。
「貴女が僕を保護してくれたんですよね、ありがとうございます。」
額がテーブルについてしまうのではと思うくらい深々と市川さんは頭を下げた。
大丈夫ですから頭を上げてください!というと市川さんは「すみません」と申し訳なさそうに言いながら頭をあげる。
なるほど、なぜ市川さんが私の家に居たかは分かった。そのあと続けて服も申し訳ないとは思ったが上半身裸では心もとなく洗面所の洗濯機から乾燥の終わった自分の服を引っ張りだした事も説明された。
では残る謎を解明しよう。
「なぜ朝食を?」
今だいい香りのするリビングダイニングで実はお腹が鳴りそうなのを必死で我慢しながら市川さんに聞く。
「それは得体の知れない男の僕を保護してくれた挙句、汚れた服も洗って乾燥機にかけて尚且つ僕が寒くないように布団までかけてくれた貴女に何かできないかなと考えたすえ勝手なのは承知のうえで朝食を作らせてもらいました。」
めちゃくちゃ爽やかに言い切ったな・・・。
「あ、気持ち悪かったら捨ててください」
と思ったら今度はしゅんとうなだれてしまう、情緒不安定なのかな?
私はこういう態度をされたら断れない性分であるからして・・・。
「なにを作ったか見てもいい?」
冷蔵庫にはビールと炭酸水と・・・なにが入っていたかも覚えていないのだけど大丈夫だろうか。そう考えながら私はキッチンの朝食達を確認した。
そこには一人暮らしを始めて久しく見ていなかった味噌汁、鮭、ほうれん草の胡麻和えという完璧な朝食達がそこにはあった。
「どうでしょう?衛生面とか気をつけて作ったんですけど・・・」
「神かな?」
「かみ?」
「こんな美味しそうなご飯捨てる訳ないでしょ、食べるよ」
そう言うと市川さんは嬉しそうに笑って朝食の準備を始めた。
「そういえば市川さんの朝食は?」
「僕も食べていいんですか?」
「ん?いいよ」
なにを言っているんだい君は?というように首を傾げれば市川さんは「それじゃあ、いただきますね」なんて言って笑った。
「ご飯を・・・あ」
「あ?」
「ご飯・・・お米ないですね」
「・・・・・買いに行こうか」
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