第39話 『圧巻』

ミツルは眼前に迫ってきている木星の迫力を、犇々と感じ始めていた。

初めて肉眼で見る木星の姿はまだまだ小さいが、それでも太陽系最大の惑星の名はダテじゃない。うっすらと木星が見えた瞬間、ミツルは身震いしたほどだ。


「マジですげえわ」


ミツルは小さく呟いた。

美しさに見とれるのと同時に、圧倒的な迫力に畏怖の念を覚える。

シミュレーションで見てきたバーチャルとは、大違いだ。

ミツルの憧れのレーサー、クリスティーヌは、木星を目にした瞬間が一番興奮するとインタビューで語っていた。


「私は初めて木星を見た時、その美しさに感動したわ。その巨大さはもちろん、大赤斑の迫力も素晴らしかったの。だけど、それと同時に危険なエリアだって分かっていたから、見惚れるばかりじゃなかったわ。木星には数多くの隕石が落下してるしね。万が一、隕石と衝突してしまえば、そこで終わりになってしまうから」


ミツルはその言葉を思い出し、いよいよレースが後半戦に向けて動いていく事を感じ始めた。


「とりあえず、良いペースだ。機体トラブルも無く、順調だ。まだまだトップを狙えるぞ」


ミツルがそう言ったタイミングで、ガニメデで待機しているメンテナンスクルーから無線が入った。


「ミツル、本当かどうかはまだ確認中なのだが、気になる情報が入った」


「なんだ?」


「MWコーポレーションの新型装置らしいが、宇宙空間で自動で燃料補給をするロケットを使用して、ガニメデへのピットインをしない可能性があるそうだ」


「ふん、やはりか」


「やけに冷静だな。驚かないのか、ミツル?」


「MWコーポレーションには、何かしら作戦があるだろうなと薄々思っていたからな。パイソンのレース運びに、焦りが感じられなかったからな」


「なるほど。そこは肌で感じていたのか。だが、ガニメデへのピットインをしないとなると、MWコーポレーションが一気に首位になるだろう。出来るだけピットインを最速で終わらせて、追走するしかないな」


ミツルは木星を眺めながら少し考えた。

何かしらこちらもギャンブル的な事をしないと、厳しいかもしれない。

さすがにガニメデへのピットインをしないわけにはいかないので、なんとかその時間を短縮し加速の方法も検討しないとダメだろう。


「とりあえずピットインしたら、メンテナンス最速で頼むぜ。機体にも異常は無いし、また燃料補給だけでもいい気がするが」


ミツルは言った。


「それは、ピットインしてからだな。それにMWコーポレーションのやり方は、あまりにもクレイジーでリスキーだ。そんな作戦では、後々後悔するはずだ。急巧近利とは正にこの事だ」


メンテナンスクルーに言われ、ミツルは内心思った。

自分もパイソンと同じ部類の人間かもしれないと。

火星へのピットインを独断で切り上げたように、レースになると周囲まわりが見えなくなる。


「まあ、俺も今は焦らずにやるよ。ガニメデまであと少しだ。よろしく頼む」

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