第37話 『絶対王者』
ギャラクシーファクトリーの若きCEOであるマイク・エバンスは、司令室の真ん中にどかっと座り、戦況を見つめている。
ここまではギャラクシーファクトリーの作戦通りの展開となっていた。
彗星群【PNOP223650】の接近情報を事前に入手していたため、ロックには前半は何も加速しないよう指示を出していた。ロックからしてみれば、最後尾に位置しながらのレースは、歯痒かったに違いない。そのため、ロックの提案である火星へのピットインをスキップするという作戦を、作戦本部は了承した。それにより、一気にトップへと躍り出ることが出来た。
しかし唯一想定外だったのが、八幡㈱の存在だ。
八幡㈱のメンテナンスクルーは、火星での整備を、あまりにも短時間で完了させてしまったため、想定よりもロックと、後続との差を広げることが出来なかった。
それに加え、八幡㈱のレーサー、ミツルの圧倒的な操縦スキルを目の当たりにし、ギャラクシーファクトリー作戦本部も舌を巻いた。その操縦スキルは、ロックや、育成プログラムに参加している天才パイロット、ジャック・ローズと遜色無いほどだ。
そして、一番の気がかりは八幡㈱のロケットボートの性能だった。
地球からのスタート時の加速は、見事と言う他なかった。かなり高性能なエンジンロケットを積んでいるのだろう。他にも謎なのが、ブースターエンジン無しで加速をした点だ。中国やインドなどの企業に比べ、日本の八幡㈱の情報があまりにも少なかったため、どのような方法で加速したのか分からなかった。ギャラクシーファクトリーの誰もが不穏な空気を感じていた。
しかしCEOのマイクは焦る必要もないだろうと判断し、作戦変更などの検討はしてこなかった。
それに何より、絶対王者として君臨し続けてきたロックの知識と経験、プライドを尊重している。数々の修羅場をくぐり抜けてきたのだ。何も問題は無いだろう。
「ロックさん、ロケットボートの状態はどうでしょう?」
マイクは小惑星帯を抜けてから初めてロックに無線を入れた。
「・・・・・・」
しかしロックからは、何も応答はない。
「ロックさん?」
マイクはもう一度、無線で問いかけてみた。だがやはりロックからの応答はない。
何かあったのかとマイクは不審に思ったが、司令室にいたベテラン無線士が話しかけてきた。
「あっ、CEO、今ロックに無線を入れても、通じないですよ」
「どうしてだ?」
「小惑星帯を抜けてから、ガニメデまでの区間はロックの瞑想時間なんですよ。前半戦の振り返りと、後半戦に向けたレース展開を頭の中で考えているそうなんです」
「毎回そうなのか?」
「いえ、第2回大会の時だけは違いました。あの時はカナダの企業、スペースクルーズのクリスティーヌがロックとほぼ並走をしてましたからね。
「なるほど。今回はロックもそこまで焦ってはいないということか」
「ええ。ガニメデ到着まで、今暫く待ちましょう。そうすればロックから、連絡はあるはずです」
「分かった。我々もそれまでゆっくり待つとしよう」
マイクはそう言うと、珈琲を一口啜った。
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