第34話 『パイロット育成』

ギャラクシーファクトリーの本社では、ロック引退後のパイロット育成のため、様々な養成プログラムに取り組んでいた。


絶対王者としてのプライドを掲げ、ロックの経験や技術、その他、全てのノウハウを新たなパイロットに注ぎ込むため、日々厳しい訓練を敢行し、新たな次世代のレーサーを育てようとしているのだ。


そんなギャラクシーファクトリーの養成所に、一人の少年がいた。彼の名はジャック・ローズ。弱冠17歳の天才パイロットだ。


彼のロケットボート操縦技術は、既にロックに匹敵する程だった。ブースターエンジンや、逆噴射エンジンの点火のタイミング。操縦桿の操り方。

彼の無駄のない繊細な操縦を初めて見た時、ロックでさえも舌を巻いた。

後は、テスト飛行を繰り返し、経験を積ませる事により、彼は瞬く間に超一流のレーサーへと変貌するだろう。


今回のレース後、ロックがどういう決断を下すか、ギャラクシーファクトリーの誰もが注目をしていた。

恐らくは今回の優勝を置き土産に、引退するのではないかと、社員の誰しもが考えていた。体に大きな付加がかかるこのレースは、ベテランパイロットには厳しいものがある。

そして、既に引退を表明しているパイソンの存在も大きい。第一回大会からしのぎを削ってきたライバルがいなくなるので、ロックもモチベーションを保てないのではないかと誰もが思っていた。


そのため、ギャラクシーファクトリーでは次回大会のレーサー選定を極秘裏に行っていた。

第一候補はジャック・ローズだが、彼以外にも素晴らしいレーサーが存在している。


第二候補のスチュアートは、現在26歳。元々は地球から火星まで、シャトルロケットで乗客輸送を手掛ける企業『宇宙航空』のロケットパイロットだった。しかし、チェイス・ザ・ギャラクシーのレーサーに憧れていたスチュアートは、『宇宙航空』を退職し、25歳の時にギャラクシーファクトリーのパイロット養成プログラムに参加したのだ。

飛行経験はプログラム参加メンバーの中でもずば抜けて多い。


第三候補のキャロラインは、養成プログラム唯一の女性だ。まだ19歳と若いが、様々な体力テストや状況判断テストでは、プログラム参加メンバーの中でも上位の成績を残している。そして何より、負けん気の強さは、トップクラスだ。



現在、養成プログラムに参加しているメンバーは皆、ギャラクシーファクトリーの本社に集まり、今回のレース中継を見ていた。


ロックがこれまでに獲得した、チェイス・ザ・ギャラクシーの優勝トロフィーの数々が並べられ、荘厳な雰囲気を漂わせるモニタールームは、静寂に包まれている。

メンバーは誰とも会話をせず、ただ画面を見つめていた。ロックの操縦や、技術を盗もうと皆必死になっている。

お互い養成プログラムのメンバーであると同時に、ライバルでもあるからだ。


ただ一人、ジャック・ローズだけは一人用ソファーに深く腰かけ、いびきをかきながら眠り、レースを注視していなかった。


「なあ、ジャック、レースを見なくていいのか?」

養成プログラムの教官が彼に話しかけると、彼は眠そうに目を擦った。


「いやぁ、こんな時間眠いっすよ。それにこんな画面見ていても、何も得られるもの無いっすから。レースは頭じゃなく、体で覚えるものっすよね?ロックさんもそう言ってました」


「これはレース展開や、ロックの心情を読む訓練だ。侮ってはならないぞ」


「こんな眠い頭でレース見ても、何も得られないっすから。睡眠も大事っすよ」

そう言って彼は大きな欠伸あくびをすると、またソファーに深く腰かけ、目を閉じた。


教官は何か言いかけたが、何も言わずに自分のソファーへと戻っていった。

天才的な操縦技術を秘めるジャック・ローズでなければ、とっくに養成プログラムから追放されていただろう。

彼はとても扱いづらい異端児だったのだ。


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