第33話 『暗中模索』

「なぜ、 ミツルのロケットボートは、微妙な加速をしたんだ?」


パイソンはレーダーを見ながら呟いた。


「ブースターエンジンを点火したなら、もっと加速をしてもいいはずだ。どうしてこんな微妙な加速をしたんだ?」


パイソンには、このミツルのロケットボート加速の理由がさっぱり分からなかった。

もしかしたらレーダーの不具合かとも考えた。岩石との接触もあった訳で、パイソンのロケットボートは100%の状態ではない。

機体やレーダー、計器の異常であるなら、重大なアクシデントを引き起こしかねない。


「司令塔、ミツルのロケットボートが加速化したようだが、ブースターエンジンの点火か?だがそれにしては、ミツルは僅かしか加速をしていないようだ。もしくはこちらの計器の不具合か?」


パイソンは司令官に無線を入れ、計器の異常か確認する事にした。


「いや、こちらの表示も同じだ。理由は分からないが、ブースターエンジン以外のなんらかの方法を使い、加速をしたとしか考えられない」


司令官も困惑したように答えた。


しかし、パイソンは内心ホッとした。ロケットボートの異常ではなさそうなので、戦略を変える必要はなさそうだ。加速した理由は定かではないが、ただ数%の加速をしただけの話だ。特段、焦って考える必要はないと感じていた。


「分かった。計器の故障ではないなら、問題はないさ。ここから一気に加速する」


パイソンは力強く言った。


「了解。トップを行くロックも、ブースターエンジンの点火を今までと比べ控えているようだ。やはり火星でのピットインをしていないため、燃料が少なくなっているのかもしれない。木星までの区間が勝負だな」


司令官から情報が入る。


「やはりそうか。ここで少しでも差を詰め、自動燃料補給ロケットを使ってロックもミツルも抜き去ってやる」


「自動燃料補給ロケットに関してだが、接続ドッキングには充分注意してくれ。ひとつでも間違えると、大爆発を引き起こす可能性だってある。もしそうなったら生きては帰れない・・・・・・」


「分かってる。シュミレーションで何回も訓練してきたんだ。大丈夫だ。何も心配するな」


「・・・・・・了解。現在の予定ではガニメデまでの距離が約30,000kmになった時点で燃料補給ロケットの準備に入る。そして約15,000kmになった時点で、ロケット打ち上げをする予定だ。そうすればほぼタイムロスなくいくだろう」


「分かった。そこだけは宜しく頼む」


そう言い終わるとパイソンは、もう一度ブースターエンジンを点火させた。

だが加速すると同時に、また操縦桿を握るパイソンの手に微かな振動が伝わってきた。


「最後まで何事もなければ良いが・・・」


パイソンは小さく呟く。

そして、レース終盤、ブースターエンジンが使えなくなった状況を考え、様々な加速の方法を、パイソンは模索し始めた。


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