第16話 『少年時代の夢』
ミツルはスピードアップのため、ブースターエンジンを点火させた後、小惑星帯の攻略法を脳内でシュミレーションしていた。
後方からはパイソンが迫ってきているし、トップを行くロックはスピードをそこまで上げておらず、差を縮めるチャンスだ。
残念だがロケットボートの性能では、MWコーポレーションやギャラクシーファクトリーにはまだ敵わない。だが小惑星帯ではパイロットのテクニックがものを言う。
近年小惑星帯では、小惑星同士の衝突などで砕けた岩石が数多く散乱しており、難易度が年々上がってきているのだ。
ミツルには少年時代から憧れているレーサーがいた。
それは無敗の王者ロックでも、孤高のレーサーパイソンでもない。
ミツルの憧れは、第2回大会の準優勝者であるカナダの女性パイロット、クリスティーヌだ。
彼女のレースはとてもダイナミックだった。
超高速で小惑星帯へと突入し、鮮やかな操縦テクニックで次々と小惑星を躱す様は圧巻だった。他の誰にも真似できないそのテクニックは、見る者全てを魅了した。
王者ロックの牙城を崩すのは、彼女だと誰もが思っていた。
しかし彼女は前回の第3回大会の直前、訓練のため操縦していたロケットボートの事故により帰らぬ人となってしまった。
10年前、ミツルは幼心に彼女のようなボートレーサーになりたいと夢見ていたのだ。
彼女のポスターにサインを貰い、部屋の壁に飾っていた。
そして今回、念願だったチェイス・ザ・ギャラクシーに初参戦したミツルは、小惑星帯へのアプローチの仕方を入念に研究してきていた。
ミツルの憧れだったクリスティーヌに匹敵するような操縦テクニックを身につけるため、何度も何度もフライトシュミレーションで感覚を磨いてきた。そのため、ミツルにはどんな状況であろうとも、フライトテクニックだけは誰にも負けないという絶対の自信があったのだ。
「おい、ミツル。速度が速すぎやしないか?お前はお陀仏でも構わんが、ロケットボートは壊さんでいただきたいな」
本社にいる中山GMが嫌みな無線を入れてきた。
「もっと速くしてみようか?俺のテクニックを見くびってもらっちゃ困るぜ」
ミツルは応答する。
「レース初参戦でしゃしゃり出るな。小惑星帯では何があるか分からん。暴走し過ぎるのも大概にしろ」
中山も売り言葉に買い言葉で、口調が荒くなっていく。
「はーい。気をつけまーす」
ミツルは皮肉たっぷりに言い返すと、強引に無線を切った。
トップを行くギャラクシーファクトリーのロックは間もなく小惑星帯へと突入するだろう。
だが速度はそれほど出ていない。
最後尾から追走するMWコーポレーションのパイソンも、さすがにこれ以上加速しないはずだ。
「俺は唯一無二のレーサーになるんだ。セオリーなんか関係ない。ただ勝つだけだ」
そう言うとミツルはブースターエンジンを更に点火させ、再加速させた。
「誰にも負けねぇぞ」
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