第17話 『心理戦』

パイソンは驚きを隠せなかった。

八幡㈱のミツルのロケットボートが小惑星帯を前に、信じられない程までに加速をしたからだ。

「そんなバカな。これだけの加速はリスキーすぎる。どういう事だ?八幡㈱のメンテナンスクルーは火星でのピットイン後のメンテナンスも神業のような短時間で完了させた。八幡㈱という会社、ミツルという人物は一体何者なんだ」

あまりの奇抜なレーススタイルに、パイソンも戸惑っていた。

今後も、また突拍子もない事をやってくるかもしれない。ここに来てパイソンはトップを行くロックより、ミツルの方ばかり意識している自分がいるのを感じていた。

ロックとは第1回大会からしのぎを削ってきたライバルだ。彼の手の内なら、パイソンは熟知している。


レーダーで確認すると、トップを行くロックとパイソンの差は約40000km。

そろそろロックは小惑星帯へと突入する頃だろう。

ミツルとの差は、また1000kmに開いてしまった。


「司令塔、こちらパイソン。このままでは状況は不利だ。あともう一回だけ加速をするのはダメだろうか?」

パイソンは司令官に意見を求めた。

「これ以上の加速は危険だ。パイソン。八幡㈱のロケットボートが何を考えているか分からんが、小惑星帯でそこまでムチャをする必要性はない。このままのペースで問題はないんだ。焦るな」

「何かしらの策を練らないと、もしかしたら取り返しがつかないかもしれない。正直、ロックよりも今はミツルのが不気味だ。これ以上離されるのは避けたい」

「焦る必要はない。大丈夫だ。状況次第だがアレ・・を使えるかもしれない目処が立ったしな」

「本当か?」

「ああ。ガニメデのメンテナンスクルーたちに連絡をし、今調整中だ。実戦で使っても問題はなさそうという結論だった。これでお前はかなり優位に立てるぞ」

「それは吉報だ。だがまだ油断は出来ない。とりあえず小惑星帯まではこのペースで行こうと思う」

「了解。慎重にな」


パイソンには若干余裕が生まれた。

アレ・・が使えれば、他のレーサーをあっと言わせられる。

だが重大なトラブルが発生した場合、その計画も台無しになってしまう。司令官の言う通り、小惑星帯を抜けてからが勝負だ。


パイソンは計器類に目を配ってみた。

「大丈夫。このままいけば問題はない。ロケットボートにも何も異常はない。後は自分のメンタルだけだ」

パイソンは自分に言い聞かせるように声に出して言った。

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