第15話 『思考』
パイソンのロケットボートはブースターエンジンの点火で、スピードをあげた。
ミツルとの差を200kmまで縮め、小惑星帯に到達する前には2位へと躍り出れるだろう。
この先、運良く小惑星の少ない部分を通れれば、減速や急旋回などしなくてすむが、こればかりは実際に到達してみないと分からなかった。小惑星同士がぶつかり合い、細かな塵となっている可能性もあるからだ。
直径数十センチの岩でさえ、高速で突き進むロケットボートに多大なダメージを与えかねない。下手をすればボートが大破する可能性さえあるのだ。細心の注意を払わなければいけない。
実際、第1回の大会ではこの小惑星帯でロケットボートが損傷し、レース続行不能になった者もいたくらいだ。
「パイソン、小惑星帯を過ぎるまでは、あまり加速し過ぎるな。差を縮めたい気持ちは分かるが、小惑星帯では何があるか分からない。念には念をだ」
司令官から無線が入る。
「ああ。分かっている。だがまだあと少しなら加速しても大丈夫だろう?あと一回ブースターエンジンを点火する」
パイソンは応答した。
「あと一回だけだぞ、パイソン。それ以上はダメだ。小惑星帯を抜けても、ガニメデまで距離は長い。そこでまた加速するためにも、燃料は温存しておけ」
「もちろんさ。妻にも身体に負担をかけるなと言われているからな。それより
パイソンが尋ねると、司令官は少し黙り込んだ。
「・・・使えるかどうか今確認している。だがそれはレース展開次第で、こちらが判断する。万が一を考えると出来れば使いたくない」
「状況次第で躊躇わず使ってくれ。今回のレースはなんとしても勝ちたいんだ。会社のためにも、俺のためにも。頼む」
「・・・分かった。鋭意検討しておく」
「使用許可が下りたら、すぐ連絡してくれ」
そう言うとパイソンは無線を切った。
小惑星帯を抜けた後、どれだけ加速出来るかが勝負だ。
レーダーで確認すると、トップを行くロックのロケットボートは、火星でのスイングバイからさほどスピードを上げていない。
燃料節約のためだろうか。
火星でのピットインをしていない分、燃料がギリギリなのかもしれない。小惑星帯を抜けてからの展開次第で、最終的な順位さえ確定しそうだ。
そんな事を考えていると、前方を行くミツルのロケットボートがブースターエンジンを点火させたようで、スピードが上がった。
パイソンも離されまいとブースターエンジンを点火させ、更に加速させる。
「離されないぜ」
パイソンはミツルのロケットボートをしっかりと追走していく。
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