第9話 『ミツル』
地球で待機している八幡㈱の管制官たちはミツルのピットインを心待ちにしていた。
このピットインで、機体へのダメージやエンジンの状況等、様々なデータが手に入るだろう。
シミュレーションは何度となくしてきたが、レースを通して得られるデータは貴重なものだ。
八幡㈱のスタートダッシュに特化したロケットボート設計は、ミツルの操縦テクニックと相まって、当初の目論見通り最高のスタートを実現させた。
ミツルはまだ20歳と若い。
これから経験を積み重ね、ロケットボートも改良を重ねることで最高のボートが完成するだろう。
今回のレースでの優勝など、八幡㈱の誰しもが狙ってはいなかった。
このレースに参加出来るだけで、企業のブランド力は高まるのだ。それにより売上も上昇するだろう。
火星のセクター06で待機している八幡㈱のメンテナンスクルーたちは、先に到着したMWコーポレーションのパイソンのロケットボートを眺めていた。
流線型の美しいフォルム。
一際目立つ深紅のボディ。
機動戦士ガンダムに登場するシャア・アズナブルのモビルスーツに因んで、『赤い彗星』と呼ばれている。
パイソンは今回のレースを最後に引退を表明している。
ギャラクシーファクトリーのロックも、年齢的に今回が最後だろう。
これからのレースはミツルが主役になることは目に見えていた。
次回のレースで優勝を手にする為にも、今回のレースで様々なデータと経験を手にしようと、八幡㈱のGM、
「ミツルのピットインと同時に、全てのデータを入力してくれ。こちらへの転送準備も忘れずにな」
中山は地球の管制室から、火星のメンテナンスクルーに無線で指示を出した。
「了解しました。入力データも即時転送いたします。そしてなるべく早くメンテナンスも済ませます」
メンテナンスクルーは答えた。
だが中山はその返答が気に入らず、もう一度無線を入れた。
「メンテナンスなど二の次だ。まずは機体のデータ収集が先だ。今回のレースはどうせ優勝出来っこない。データ収集をしっかりと行え」
「すみませんでした。データを収集し、しっかりとご報告させていただきます」
「頼むぞ」
中山とメンテナンスクルーの無線を、ミツルもロケットボートを操縦しながら聞いていた。
「何を言ってるんだ、こいつらは。これはレースなんだぞ。まず狙うのは優勝のはずだ。この会社、抜本的に考え方が間違っている」
ミツルは怒りに震えた。
「いいさ。後は俺の操縦でトップに躍り出てやる」
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