第8話 『ピットイン』
パイソンは肉眼で火星をハッキリと捕らえた。
ミツルとロックの猛追を躱し、とりあえずトップでピットイン出来そうだ。
機体にもトラブルはなさそうだし、メンテナンスにもそれほどの時間はかからないだろう。
火星の衛星『フォボス』を横目に、パイソンはメンテナンスクルーの待つセクター08への道筋を確認した。
大きく軌道変更せず、このまま進めば大丈夫そうだった。
「メンテナンスクルー、こちらパイソンだ。あと15分後に火星セクター08へ到着する。機体異常無し。エンジンの具合も良好だ」
パイソンは火星のメンテナンスクルーに無線を入れた。
「了解、パイソン。こちらも準備万全だ。最速でメンテナンスしよう」
火星の上空にはうっすらと雲がかかっている。
まだ大陸や海といったものは無いが、植物が生い茂り、整然と高層タワーが建ち並ぶ様は、地球と見紛う程だ。
今では各企業が地球ではなく、火星での事業に力を入れている。
広大な土地と資源を有するため、様々な施設を建設しやすいためと、土地の価格が地球よりも安価なためだ。
そのため、大富豪たちは挙ってプライベートロケットを買い、火星に別荘を建て、地球と火星の往復を頻繁にしていたのだ。
いよいよパイソンのロケットボートは、ピットインのため火星の大気圏に突入した。
かなりのGがパイソンの体に襲いかかる。
しかしパイソンは操縦桿をしっかりと握りしめ、軌道のズレに細心の注意を払っていた。
大気圏を抜けると、火星の広大な大地がパイソンの目に飛び込んできた。
すぐ先にはセクター08のMWコーポレーションの整備施設が見えている。
「これから着陸体勢に入る」
パイソンは無線で、メンテナンスクルーに連絡を入れた。
「了解」
全長40km以上はある滑走路に向け、高度を下げていく。
徐々に火星の地表が近づいてくる。
それにともないパイソンは、ロケットボートの下部に格納されていた着陸用タイヤを下ろし、多段階減速用パラシュートの準備をする。
「よし。全て計算通りだ」
パイソンは操縦桿を巧みに操り、絶妙のタイミングで滑走路にロケットボートを侵入させた。
タイヤの摩擦とパラシュートにより、ロケットボートはみるみる減速をし、メンテナンスクルーの待ち構える
パイソンが操縦席から出ると、メンテナンスクルーたちは急いでロケットボートに近づき、メンテナンスに取りかかる。
彗星群のトラブルはあったが、とりあえずレースは順調だ。
パイソンは火星の赤い空を見上げ、ふうっと息をひとつ吐いた。
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