第6話 『火星へ』

パイソンとミツルが彗星群【PNOP223650】をやり過ごすために減速したのとは対照的に、今まで最後尾に着けていたロックのロケットボートはブースターエンジンを起動させ、加速をしたようだ。

さすがロックだ。

コース状況を事前に把握し、レースの流れを読んでいた。

やはりチャンピオンになるための素質は抜群だ。これまでのレースで優勝するだけの事はある。

「司令塔、彗星群の状況は?」

パイソンは司令官に無線を入れた。

「もうまもなく、全ての彗星群がコース上を横切るだろう。今しばらくはそのままのペースで飛行しろ」

「了解」


だがロックのロケットボートは、パイソンとの差をぐんぐんと縮めてきていた。

火星へのピットインまではトップを守れるだろうが、そこから先は接戦になるだろう。

八幡㈱のロケットボートを操るミツルも、善戦している。

三つ巴の構図も、パイソンには想像出来た。



パイソンは計器類に目を光らせながら、再加速する瞬間を待っていた。

そろそろ加速をしなければ、後続との差が縮まってしまうだろう。

火星へピットインしたとて、メンテナンスに時間がかかりすぎれば、簡単にトップを明け渡すことになるのだ。

MWコーポレーションのクルーたちは精鋭揃いだが、何が起こるかは予想出来ない。急ブレーキなど、ロケットボートに過度の負荷をかけたので、何かしらメンテナンスが必要になるかもしれない。

後続のミツルやロックとは、せめて30分以上の差を着けて、火星へピットインしたかった。


ちょうどその時、司令官から無線が入った。

「パイソン、もうまもなく彗星群はコースから離れる。加速用意だ」

「了解。待ちわびたぜ」

パイソンは司令官からの無線とほぼ同時に、ブースターエンジンを起動させ、ロケットボートを加速させる。

強烈なGをものともせず、パイソンはレーダーで後続との距離を確認していた。

ロックのロケットボートの加速は凄まじいが、パイソンはまだ余裕を持てた。

火星へはとりあえずトップでピットイン出来るだろうという見通しが立ったからだ。

火星を飛び立った後に待ち構える小惑星帯にも、トップで差し掛かることが出来れば、今後のレースも優位に立てる。


「小惑星帯の飛行は何回も特訓してきた。最難関のひとつでもある小惑星帯を、俺はトップで通過してやる」

パイソンは目前に迫った火星を前に気合いを入れた。


火星まであと約2000万km。

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