第2話 『序盤戦』

パイソンのロケットボートは、機体トラブルもなく順調に飛行している。

前を行く八幡㈱のミツルの姿は見えないが、レーダーによれば前方10000km先を飛行しているようだ。

これくらいの距離ならば、まだまだ挽回出来るので、パイソンは何も気にしていなかった。

だがそれよりも気になるのが、ギャラクシーファクトリーのロックだ。

彼のロケットボートは最後尾で、不気味なまでに何も仕掛けてこない。

トップのミツルとの差は36000kmは開いているだろうか。

「なんで奴はあんな後方にいるんだ?こんな事は過去一度もなかったぞ。作戦なのか?機体トラブルなのか?」

パイソンは訝しんだ。

ロックのレースはどちらかと言うと、序盤から飛ばして、相手を圧倒的に引き離していく先行逃げ切り型の戦法を今までは取っていたからだ。

前回のレースでもロックは、パイソンに一度もトップの座を明け渡す事なくゴールしている。


その時、MWコーポレーションの司令官から無線が入った。

「パイソン、機体の調子はどうだ?」

「順調です。ロケットエンジンも問題ありません」

「うむ。こちらで監視している数値にも異常はない。なんとか勝利を勝ち取ってくれパイソン。そうすれば我が社の宇宙市場は大幅に増大するだろう」

「おまかせください。それよりロックの奴は今何処にいますか?レーダーだと自分の後方約26000kmの地点ですが」

「こちらのレーダーでも同じだ。何か作戦があるのかもしれないから、要注意だ」

「分かっています。それと現在トップの、あの日本のロケットボートについて、何か情報が入りましたか?」

「それがまだ何も分かっていないんだ。まあ、そんなに恐れるな。初参戦のロケットボートが勝てる程、優しいレースではないのだから」


パイソンには、これからのレース展開がまだ見えていなかった。

トップを行く正体不明、初参戦のロケットボート。

そして後方から様子を窺うチャンピオン。

自分の判断一つで順位を落とすであろう事は、パイソンも長年の経験で分かっている。


「まだ月の軌道も過ぎていないんだ。今はまだムチャをする時じゃない。加速用のブースターエンジンもなるべく温存しないといけないしな」

レースはまだ序盤。

始まったばかりだ。

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