チェイス・ザ・ギャラクシー

岸亜里沙

第1話 『スタート』

MWコーポレーションのレースドライバー、パイソンは力強く操縦桿を握っていた。

5年前のレースで、ギャラクシーファクトリーが誇るエースドライバー、ロックに負けた雪辱を果たす時がようやくやってきたのだ。


今回のレースでは、計3社のロケットボートが順位を競う。

パイソンとロックともう一人。初参戦の日本の会社、八幡㈱のドライバー、ミツルだ。

本命はもちろんロック。

対抗馬がパイソン。

そして大穴がミツルといった感じか。


20年前から始まった宇宙大航海時代を象徴する、この娯楽エンターテイメントに人々は熱狂した。

5年に一度、NASAが主催するロケットボートレース。

その名もチェイス・ザ・ギャラクシー。

地球を飛び出し、火星を経由し木星へと向かう。そしてそこでターンをして、地球へと戻るまでのタイムを競う。

過去三度のレースは全てギャラクシーファクトリーのロックが、頂点に君臨していた。

パイソンにとっては、今回のレースが最後になるだろう。

体にも相当な負担がかかるこのレースドライバーを続けるのは、もう50代になった彼には酷だった。

「今回のレースで優勝して有終の美を飾りたいな」

パイソンは操縦席でポツリと呟いた。


無線からスタートのカウントダウンが聞こえてきた。

「レーススタート30秒前」

パイソンは、発射ボタンに手をかける。

視線は空だけを見つめながら。

「20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、スタート!」

パイソンを始め、各社のロケットエンジンが一斉に点火する。

強烈なGの中、スタートダッシュで先手を取ったのは、意外にも初参戦の八幡㈱のロケットボートだった。

「さすがは日本の会社だ。素晴らしいエンジンを積んでるな」

パイソンはミツルのロケットボートを眺めながら言った。

だがパイソンにはまだ余裕があった。

MWコーポレーションのロケットボートは、木星ターン後の後半に強いからだ。

大気圏を抜け、空の色は青から黒へと変わっていく。

「とりあえず火星に着くまで、何もトラブルが起きなければいいが」

パイソンはロケットボートを操りながら、計器類に細心の注意を払っていた。

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