【episode5-愛おしい背中】


真新しい机と椅子。


高校の教室は、義務教育の中学校とは違う空気が漂っている。




そんな環境で魁人と沙楽の恋が始まるまで、それほど多くの時間は要らなかった。




出席番号が続いている2人は、席が前後である。


沙楽さらは、授業中に魁人かいとの広く骨張った背中を見るのが好きだった。




授業中だというのに、抱きしめ合った時に触れた魁人の骨格を思い出す。


沙楽は、1人で妄想に頰を染めている自分がなんだか可笑しかった。




そんな時、沙楽は思うのだ。


『あぁ、魁人が好きだなあ。』




好きという言葉では量りきれないけど言葉にするならば好き。


愛してるは照れくさい。




初めて深い部分で結ばれた2人は、互いの肌にのめり込み夢中になった。


だが、蕩けるように幸せな日々は、そう長くは続かなかったのである。




好きだった。


だが、それ以上に苦しかったのだ。




互いを傷つけた幼く不器用な恋は、5月に始まり8月に終わった。

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