第21話 黒の過去
エディが目を覚ましたのは、日が沈み月が昇りきった頃だった。
夕食はお礼がしたいという父と母が同席する中食事をとった。
俺が『ロッソ兄』と言う人物を探すと言い出す前、父は既にエディと会っていたらしい。
目覚めず魘され続ける母に何かしてやれないかと街を彷徨っているとき、偶然にもあの教会に辿り付いたのだという。
そこでエディと出会い偶に相談をしていたらしいが、彼が異能力を有しているのは最近まで知らなかったと言うが、、エディが『ロッソ兄』と呼ばれているのは知っていたらしい。
『ロッソ兄』というのは、表で行動する者達が夕日が好きだという彼に付けた名前だったようだ。
「知ったのはディーノがそちらに行った時に彼から聞いた。お前の為になるのなら力を貸すと」
俺という個人を知り信頼できると判断したエディは俺が教会を出た後、子供達にバレぬ様抜け出し、待機していたディーノに連れられここに来たのだと教えられた。
今更だが、エディが眠っている間に教会の方には連絡は入れておいた。
ヴィオラとも今後の事やエディの事について話し合い、彼がいいと言うならと許可を貰った。
食事も風呂も済ませ、エディにあてがわれた部屋のバルコニーで月を見上げていた。
静かに、淡い月明かりが辺りを照らしている。
「なぁ、エドワルド」
「あの、レオポルド」
…………完全に話し出すタイミングが被ってしまった。
それに面白そうにコロコロと鈴を転がしたように笑って、エドワルドは先にどうぞと微笑んだ。
今日のエドワルドはいつも以上に甘く優しいが、その瞳には僅かに怯えや不安が見え隠れしている。
これから話すことは彼を傷付けてしまうかもしれない。
それでも、それでも彼が俺から離れて知らない誰かに奪われてしまうくらいなら、俺は彼にとっての”悪”でもいいと思ったんだ。
「エドワルド」
「なに?」
「……何故、自分が異能力者であることを隠していたんだ。
友になれたと思っていたのは、俺だけだったのか?」
「っ違う!」
悲しんでいるように見えるように、わざと伏せていた顔を上げれば、目の前の彼は捨てられた子猫の様な、震えて今にも涙を溢しそうになっているエドワルドがいた。
隠していたことがバレて、悲しんで苦しんでいる子供がいた。
「言おうとは、思ってたんだ。でも……」
「言い訳か?」
唇を噛み締め服の裾を強く握りしめる彼に、今すぐゴメンと謝って抱きしめたい衝動に駆られる。
だがそんな事をすれば計画が崩れてしまう。
「エドワルドの異能力は夢に関係するのか」
溢れ出そうになる罪悪感を押し殺し、出来るだけ傲慢に、だが決して威圧感を与え過ぎないように気を付けながら話す。
その問いに小さく頷いた彼は、震える声で話しだした。
「俺の異能力は『夢渡り』
夢に苦しむ人の夢の中に入って、その原因を解呪出来る力。
夢の中なら何でも、自由にできる力、だと思う」
「それで母さんを助けてくれたのか」
「本当に、言おうとは思ってたんだ。
でも、言ってしまったらレオに何か負担をかけるんじゃないかって。
何の後盾のない俺が持ってるこの力のせいで、レオに迷惑をかけるんじゃないかって考えたら、言い出せなくて………」
エドワルド、エディはそこまで真剣に俺のことを考えてくれていたのか。
その事が嬉しくて、先よりも強い衝動にかられながら、俺はエディを見つめた。
ここからが、彼を俺の隣に留めるための大勝負だ。
「なあエディ。俺と共に生きてくれないか」
「______?」
「俺は、エディとずっと一緒にいたい。
俺が居なくてもこの国も時間も何時も通り動き続ける。
でも俺は、お前が隣にいてくれなければ動けなくなってしまう。
俺は将来国を造りたいと思っている。異能力者だからと差別されず、誰もが平等で安心して暮らせる国を」
「そんな、それこそ夢みたいな話……」
信じられないものを見るかのような、目を見張る彼に、それこそ悪役のように笑って見せる。
「やってみなければ分からないだろ?
それに未来は不確定。それをどうするのかは本人次第だと言ったのはエディ、お前だろ」
未だ呆然とこちらを見る彼に手を差し伸べる。
この手を取ってくれ。そして、俺の元まで堕ちて来い。
「……その訊き方は、少し狡くない?」
そう言った彼の赤い瞳には、もう怯えも不安もなかった。
「…でも、条件がある。本当なら条件が付けられる立場じゃないってのは無しな?」
「エディが俺の隣りにいてくれるなら条件でも何でも飲んでやる」
伸ばした手を掴んだエディを引き寄せれば、抵抗らしい抵抗もないまま、彼は素直にこちらへと身体を寄せた。
「俺は自由になりたかった。この国を出て、色んな物を見て何にも縛られず生きるのが夢だった。
それを他でもないレオポルドの言葉で諦めさせて」
…………あぁ本当に、本当にエディは俺の心を掴んで離さない。
細められ、イタズラ気に笑う
「期限は?」
「ずっと。俺がレオの隣りにいる間が期限。
それが面倒なら諦めてくれても良いんだよ?」
どうする?とこちらを挑発するように蠱惑的な笑みを浮かべる彼に、背筋がゾクゾクと悦びに震える。
今ここで、簡単に堕としてはつまらない。もっと、もっと深くまで堕とさなければ。
「あぁホント、最高だよエドワルド」
頬が熱い。今まで感じたことのない快楽が、ドクドクと波打つ脈とともに全身を駆け巡っていく。
口角が上がり、ニヤケが止まらない。
「絶対にお前を逃してなんかやらないからな」
「ふふっ、頑張ってね?」
そろそろ部屋に戻ろうと、昨日のように優しく手を引かれた。
「そう言えば、エディも話したいことがあったんじゃないのか?」
その言葉にエディは困ったような少し嬉しそうな表情で、先とは違う、見慣れた大輪の花を思わせる笑みを浮かべた。
「隠してたこと、全部話そうと思ってたんだ」
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